世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナ禍でも日本語教育は続く

ニューデリー日本文化センター
尾崎裕子

2020年は大きな変化の年となりました。COVID-19の世界的大流行がインドの日本語教育にも多大な影響を与えました。西インドのプネで日本語アドバイザーとして活動してきた私が最初にCOVID-19の衝撃を感じたのは2020年3月中旬のことでした。プネにあるTilak Maharashtra大学の先生方と学年末試験を直前に控えてランチミーティングをしていたとき、突然、マハラシュトラ州の学校・大学等すべての教育機関が閉鎖されるというニュースが飛び込んできました。その時点では、大学の閉鎖がどれほどの期間続くのか、COVID-19が日本語教育にどれだけ長期的な影響を及ぼすことになるのか、想像できませんでした。3月25日からインドはロックダウン(全土封鎖)になりました。インド派遣の専門家も全員一時避難帰国するよう指示があり、私は4月中旬にムンバイからの臨時便で日本に戻りました。以後、日本からのリモートワークがずっと続くことになったのです。

Tilak Maharashtra大学の授業もすべてオンラインになりました。2019年度の学年末試験ができないままロックダウンになったため、新年度の開始が通常より2か月も遅れ、2020年9月に前期の授業が始まりました。私は、前期はMA2年生の「Research Methodology III」という科目を、後期はMA2年生の「Teaching Methodology III」とMA1年生の「Teaching Methodology I」を担当しました。前期に担当した「Research Methodology III」は、15週間で研究テーマの設定から論文作成までをするもので、学生にとっても指導する方にとっても骨の折れる科目ですが、研究を志す有望な日本語人材を発掘し育てる貴重な場にもなっており、指導にも力が入ります。

後期に担当した「Teaching Methodology III」では、日本語初級の授業の具体的な教え方や教案の作り方を教え、その後学生はクラス内で模擬授業をして、最後にTilak Maharashtra大学の公開講座の初級クラスで実際に教育実習をします。公開講座は、以前は普通の対面授業でしたが、今回はオンライン授業です。私も学生にオンライン授業の実習指導をするのははじめてで、うまくいくだろうかと心配でした。しかし、教案やPPTなど授業の中身については、学生はまだまだ多くの指導が必要で、何度も修正版を作り直してもらいましたが、オンライン技術に関しては全く心配無用でした。もともとデジタルネイティブで、半年以上大学でオンライン授業を受けている彼らは、私よりもずっと上手にZoomを使って、実習前のクラス内模擬授業でちゃんと授業ができており、逆に私がもっとオンライン教育のスキルを身につけなければと反省させられました。

Tilak Maharashtra大学修士課程クラス内オンライン模擬授業の様子の写真
Tilak Maharashtra大学修士課程クラス内オンライン模擬授業

コロナ禍前は、西インドのアドバイザーとして、プネやムンバイの教師会や主な教育機関での勉強会や、日印政府の教師育成センター事業の教師研修(Teachers’ Training Course(TTC)のワークショップをしていましたが、3月のロックダウン以降、できませんでした。12月になって、久しぶりにムンバイ日本語教師会(TAJ)の先生方のための勉強会を実施することができました。初めてオンラインで行うTAJの勉強会に何人ぐらい先生が集まるか心配でしたが、ふたを開けてみると30人の先生が参加してくれ、以前の対面での勉強会の時よりも多くの人が集まってくれたことに安堵と嬉しさを覚えました。ムンバイは交通渋滞がひどく移動が大変なので、勉強会に参加しにくいという問題が以前はありました。オンラインになったからこそ、今までよりも多くの人が参加できたのだと思います。久々にオンラインで再会したムンバイの先生方は以前と変わらず元気いっぱいでした。顔なじみの先生同士、和気藹々とグループワークをし、熱心にワークショップに取り組んでいる姿を見て、いつものムンバイ大学のキャンパスでの勉強会にいるような気持ちになりました。

COVID-19は日本語の授業のやり方も研修のやり方もすっかり変えてしまいましたが、インドで日本語を学ぶ学習者と日本語を教える先生方の熱意と努力は以前と全く変わりません。任期の最後の1年あまり、インドの現地で先生や学生といっしょにいることができなかったのが本当に残念ですが、オンラインの画面を通して、彼らの学びや研鑽をサポートし、励ますことができたかなと思います。オンラインが苦手な私がなんとかオンライン研修をすることができたのは、ニューデリー日本文化センターの現地スタッフや同僚の専門家のみなさんの強力なサポートのおかげでした。このオンラインの世界がいつまで続くかわかりませんが、インドの日本語教育はずっと動き続けています。これからも西インドの日本語教育が発展し続けることを確信しつつ、任期中お世話になったすべての方への感謝とともに、私の最後のレポートを終えたいと思います。

ムンバイ日本語教師会オンライン勉強会の様子の写真
ムンバイ日本語教師会オンライン勉強会

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとしてマハラシュトラ州プネに派遣され、西インドを対象地域としてアドバイザー業務を行う。具体的な業務は、事務室を置いているティラク・マハラシュトラ大学(TMV)日本語コースへの出講、担当地域での現職教師向け教授法研修や日本語教師を目指す人向けの教師養成講座等、様々な研修の実施、日本語普及のための機関訪問、セミナーを通してのアドボカシー活動、弁論大会や文化祭など日本語関連のイベント支援など。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
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