世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)チームワークで乗り越えた2020年

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
久野元、柿内良太、中島永倫子

2020年は世界中の人々にとって、生活や仕事のしかたが大きく変わった年でした。今回は、コロナ禍においてサンパウロ日本文化センターが実施した事業のひとつ、ウェブセミナー(ウェビナー)ついてレポートします。

サンパウロ日本文化センター日本語チーム

サンパウロ日本文化センター(以下、FJSP)は、ブラジルの他、南米大陸のスペイン語圏の国々においても日本語教育支援をしています。日本語教育支援事業は、上級専門家1名、専門家3名、現地の専任講師3名および事務職員1名からなる日本語チームが担当しています。このメンバーと所長・副所長との話し合いによって、南米各国の現状に合わせて事業を毎年計画しています。日本からの派遣専門家はそれぞれのミッションに則って、現地専任講師は担当事業を分けて業務を行っていますが、常にチーム内で相談や協力をしあってFJSPの事業を進めています。

日本語チーム一丸となって

2020年4月、派遣専門家たちは退避一時帰国することになりました。急な決定だったため、離ればなれになった状態で、どのように2020年度の事業を進めていくかということを、しっかり決めないままの帰国となってしまいました。そのため帰国してしばらくは、各自がリモートでできることをやっており、対象者が異なるものの内容としては同じようなイベントを開催するなど、連携が取れていない状況でした。

そのような中、現地専任講師の一人から「このような時だからこそ、FJSPの日本語チームが一丸となって、コロナ禍の南米に必要な支援のための方針を立てるべきだ。」という意見が出されました。また、支援方法としてウェビナーの提案がありました。そこで、まずメンバー間で南米の先生方が抱える課題について、共通の認識を持つことから始めました。そして、課題に対してFJSPがする支援のテーマについて、議論を重ねました。その結果、2020年度は「アクティブな学びについて考える」をテーマに研修を展開していくという方針が決まりました。この研修では、まずレッジオエミリア教育を実践する公教育校で英語教育に携わっているブラジル人講師を迎え、「外国語教育におけるアクティブな学び」に関するウェビナーを実施することにしました。さらに、ウェビナー後には、別途勉強会を企画し、ウェビナーの内容をもとに参加者がそれぞれの現場で、どのように実践できるのかを考える機会も設けることにしました。

日本語チームのメンバーによるオンライン会議の様子の写真
日本語チームのメンバー オンライン会議にて

オンラインによる大規模なイベントは、日本語チームにとって初めての経験でした。そのため、インターネットでの配信の仕方や、参加証明書の自動送信の仕方など、技術面で学ばなければならないことがたくさんありました。しかし日本との時差や、業者とのやりとりをポルトガル語でする必要があったことから、日本にいる派遣専門家たちができる作業は限られており、膨大な作業のほとんどはブラジルにいる現地専任講師と事務職員が進めてくれました。また、解決しなければならない課題があった場合、現地専任講師たちが常にチーム全体に共有したことで、みんなで話し合いながら解決していく体制が形成され、チーム全体で一つのイベントを企画、実施することに繋がりました。この経験から、たとえどのような業務環境下であっても、派遣専門家と現地専任講師がチームとして連携する体制を整えることの重要性を再確認しました。サンパウロでは1年以上(2021年5月執筆時)すべての職員が原則自宅勤務を余儀なくされている状況ですが、今後もウェビナーは継続しチーム一丸となって南米の日本語教育の質的向上に寄与する企画を立てていきたいと思います。

ウェブセミナーの波及効果

現地専任講師と事務職員の奮闘のお陰もあり、事後アンケートでは高評価を得ることができました。そして、今後の継続を期待する声が多く寄せられました。

また、ブラジルでは、各地の教師会が主催する研修会のテーマで「自律学習」や「学習者主体」が扱われるようになりました。それまでは、教授法や言語習得の方に関心が強かったことを思うと、先生方の関心や意識が少し変わってきたのではないかと感じています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語教育の質的向上を図るべく、初等教育教師勉強会、中等教育教師研修、大学日本語チューター育成を行っている。また、他の団体や教育機関が主催する研修会への出講を通して、ブラジルの日本語学習者の大半を抱えている日本語学校に対しても支援をしている。加えて、南米アドバイザーは南米スペイン語圏の国々における日本語教育の現状調査と、教師研修による支援を行っている。
所在地 Av. Paulista 52, 3º andar, CEP01310-900, Sao Paulo, SP, Brasil
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:3名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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