世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)新しい発見、新しい試み

国際交流基金パリ日本文化会館
近藤裕美子・三矢真由美

パリ日本文化会館(以下、会館)では、様々な日本語事業を展開していますが、今回は、従来から実施している事業をもとに、新しい試みを行った2つの実践についてご紹介します。(過去の記事もご参照ください。)

1.「関西弁講座-日本語?いいね。関西弁?最高!-」

「大阪に行ったことのある人」「はーい」の写真
「大阪に行ったことのある人」「はーい」

パリには各国文化センター同士の相互交流組織「FICEP」(Forum des Instituts Culturels Etrangers à Paris)があり、毎年「外国文化週間」(Semaine des cultures étrangères)という文化イベントを実施しています。会館の日本語講座もほぼ毎年このイベントに参加していますが、2019年は国際交流基金(以下、基金)の関西国際センターから関西弁ネイティブの講師を招き、「関西弁講座-日本語?いいね。関西弁?最高!-」を実施しました。この講座は基金が開発した日本語学習プラットフォーム「みなと」の関西弁コースの一部を活用しながら、旅行者が使える挨拶やごく簡単な関西弁表現を紹介するものです。ある特定の地域や方言にフランス人は興味を持ってくれるのだろうか…という心配もありましたが、当日は日本に旅行に行ったことがある人、関西が好きな人、日本や日本語が好きな人、日本語は習ったことがないけど興味がある人など、様々な人が集まりました。

講座は言語的要素と文化的要素をバランスよく混ぜ、日本語を習ったことのない人でも楽しめるよう工夫しました。例えば、関西弁の表現を紹介する前に標準語の表現をみんなで練習したり、日本語なしで楽しめる文化クイズを取り入れたりしました。講師の先生はさすがネイティブの関西人だけあって、話のところどころで笑いを取っていきます。「電話です」といってバナナを渡され「もしもし」とボケるというのが関西の鉄板ネタにありますが、講師の先生が当日使ったのはバナナではなくミニバゲットでした。もちろんフランスを意識してのこと。このように終始笑いにつつまれた活気ある講座になり、参加者にも大変好評でした。

私にとっては、規範意識の高いフランス人が地方の文化や方言に関心を示してくれたことは新しい発見でした。普段は会館の日本語講座に通う受講生を対象に日本語を教えていますが、時にいつもと違う角度から一般の人たちに日本語や日本文化の魅力を発信していくことも大切だと実感した経験でした。

2.「会場とオンラインの場をつないで―みんなで作る参画型の教師研修」

会場とオンラインの場をつないだ「ハイブリッド型」の研修会の写真
会場とオンラインの場をつないだ「ハイブリッド型」の研修会

会館では、毎年夏に欧州各地で日本語教育に携わる人たちを集めた欧州日本語教育研修会を企画・実施しています。(2009年、2018年の記事もご参照ください。)

毎年、教育分野や日本語教育に関するホットなテーマを取り上げていますが、2019年度の研修は2つの点で新しい試みを行いました。一つ目は会場となるパリ日本文化会館だけでなく、オンラインでの参加者も募集し、2つの場をつないだ研修。これは、会場の様子をただ視聴するだけではなく、時には会場、オンライン上それぞれで活動を進め、時には会場参加者とオンライン参加者が交流するというものです*1。つまり会場とオンライン上とで2つの研修の場が同時並行で進む「ハイブリッド型」の研修です。
(*1 2018年度の研修でもハイブリッド型を一部試みましたが、参加者は公募ではありませんでした。)

このような研修を実現するには、研修デザインも大切ですが、ファシリテーター、技術的なサポート等様々な仕事が発生するので、多くの人の協力がかかせません。そこで今回の研修では、参加者自らが研修の運営にも関わり、様々な業務を分担して行う形式を試みました。参加者も研修実施に関わる「参画型」の研修です。丸2日間、作業をしながら研修を受講するので、非常に多くのタスクが発生します。「作業担当中は研修内容が頭に入らなかった」「非常に疲れた」という反省点もありますが、「研修のテーマ『インストラクショナル・デザイン』だけでなく、オンライン研修の方法も同時に学べて一石二鳥だった」という声も聞かれました。約3ヶ月間準備に準備を重ねて挑戦してみた新しいスタイルの教師研修。改良の余地がたくさんあるものの、やってみて良かったと思います。

十数年の歴史のある教師研修ですが、常に時代のニーズや状況に合わせて柔軟に対応し、新しいことにチャレンジする、非常にクリエイティブな仕事であり、またそれを周りの人と一緒に作っていくことができる。それもこの仕事の魅力の一つと言えるでしょう。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年に日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談等の教師支援、JF日本語教育スタンダード準拠日本語講座や日本語・日本文化の関連講座の運営・実施、高校生日本語プレゼンテーション発表会等の学習奨励事業、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。また遠隔授業サポート講座やEラーニングセミナー等オンラインの活用をテーマとした新しい事業展開を進めている。
所在地 101 bis, quai Branly 75015 Paris, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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