世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)オンライン化への挑戦

パリ日本文化会館
藤崎泰典、近藤裕美子

パリ日本文化会館では様々な日本語教育事業を行っていますが、今回は急激なオンライン化の波に直面し、従来の事業をどのように変えて対応したかについてご報告します。

1. 授業のオンライン化と今後の可能性

オンライン授業の様子の写真
オンライン授業の様子

2020年度は、コロナ対応に始まりコロナ対応に終わった一年でした。筆者(以下、専門家)は日本語講座担当専門家として2020年9月に着任し、パリ日本文化会館の日本語講座の運営に係わる仕事をしています。ロックダウンが敷かれる中、活動の制限も多く、受講生と実際に会うこともないのですが、どのように日本語講座を運営(オンライン化)したのか、その中で生じた課題や展望をご紹介します。

ロックダウンが敷かれる前は、授業はもちろん、講座説明会やレベル診断も、会館まで足を運んでもらっていましたが、ロックダウン中は感染拡大予防の為、全てをオンライン上で実施する必要がありました。そこで、ズームというコンピューターをテレビ電話のようにして使えるソフトウェアを使い、説明会やレベル診断を実施しました。

授業でもズームを使うことになりました。そこで、秋季講座が始まる前にオンライン会議を開き、ズームの操作を講師と一緒に練習して授業に臨みました。また、機械の操作が得意でない受講生の為にセッションを設け、ズームの操作を練習してもらいました。講座開始後、数週間はズームに詳しい職員に授業に入ってもらい、技術サポートをしてもらいました。講師のネット回線が落ち、授業が中断するトラブルもありましたが、現在はルーターを貸し出して対応しています。専門家は授業をまわり、教え方に関する助言を行いました。数ヶ月もすると講師の努力が実を結び、問題なく授業が行えるようになりました。最後まで試行錯誤したのは、宿題のやりとりかもしれません。はじめは、非常に骨の折れる手順を取っていたのですが、現在はGoogleクラスルームを導入し、課題の配布から添削、返却までスムーズに行っています。

講座のオンライン化に関しては、悪いことばかりではありませんでした。例えば、講座に対する満足度ですが、アンケート結果は肯定的なものばかりでした。また、出席率が90%を超えており、安定した授業運営ができています。そして、ロックダウンにより人々のつながりが分断される中で、講座が日本語を学ぶこと以上の大切な場所に成長し始めていることを受講生のやり取りから強く感じます。

仕方なく始めたオンライン授業でしたが、始めてみたら、利便性が高く、今後も続けたいという声が受講生からも講師からも聞こえます。同時に、対面に戻りたいという声もあります。両方の意見を尊重しつつ、今後オンラインを講座にどう利用していくのか、また、発見したオンラインの可能性をフランスの日本語教育の展開にどう利用していくか検討を重ねたいと思います。

2. 「中止決定」から「オンライン実施」へ

毎年冬に「全仏高校生日本語プレゼンテーション発表会」というイベントを実施しています。これは、フランスで日本語を学ぶ高校生が2−3人1チームとなり、「日仏をつなぐ」テーマについて協力しながら15分程度発表するというものです。発表のテーマ選びから、資料収集・分析、発表のデザイン、発表資料の準備、プレゼンの練習と、発表会当日まで数ヶ月をかけ、忙しい勉強の合間を縫いながら、各グループ準備を進めていきます。また、発表会当日は学年や所属の学校を超えて、同じように苦労してきた他のチームの「仲間」と1日を過ごし、交流を深める楽しい機会でもあります。(詳しくは2019年度の記事をご覧ください。)

2019年度は、「私たちの考える日仏をつなぐ◯◯」をテーマに2020年3月14日(土)の発表当日に向け、6チームと日本でフランス語を学ぶ高校生の招聘グループ1チームが準備を進めてきましたが、実施直前に、コロナウィルス感染拡大の影響でイベントの中止を余儀なくされました。これまで数ヶ月にわたり準備をしてきたのに….。

運営側の私たちもかなり落胆しましたが、これまで時間をかけて準備をしてきた高校生たちの気持ちを想像するとやりきれない気持ちでいっぱいでした。そこでなんとか遠隔でもイベントを実施できないかと考え、約2ヶ月後にオンライン上での実施を企画し、希望チームを募ったところ、5チームが手を挙げてくれました。当日は、オンラインで発表しても事前に動画を作成してそれを流す形でもいいことにしましたが、その場でプレゼンをするグループ、アバターを登場させた動画やプレゼン資料に写真を駆使して発表動画を作成したグループなど、ユニークな作品、オンラインならでは、動画ならではの工夫を駆使した作品の数々。高校生たちの想像力に脱帽です。このようなハプニングに遭いながらも、関わる人たちと一緒にイベントを作り上げていくのも、アドバイザー業務の魅力の一つです!

全仏高校生日本語プレゼンテーション発表会(オンライン)各チームの発表タイトルの図
全仏高校生日本語プレゼンテーション発表会(オンライン)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年に日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談等の教師支援、JF日本語教育スタンダード準拠日本語講座や日本語・日本文化の関連講座の運営・実施、高校生日本語プレゼンテーション発表会等の学習奨励事業、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。また遠隔授業サポート講座やEラーニングセミナー等オンラインの活用をテーマとした新しい事業展開を進めている。
所在地 101 bis, quai Branly 75015 Paris, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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