世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)『まるごと』ユーザー(教師)のための場づくり

ケルン日本文化会館
吉岡千里

2013年にJF日本語教育スタンダード準拠のコースブック『まるごと 日本のことばと文化』が出版されてから、約8年が過ぎました。その間、『まるごと』のオンラインコンテンツとして、ウェブサイト「まるごと+ 」やサポート教材や教師用教材がダウンロードできるポータルサイト「まるごとサイト 」ができました。また、国際交流基金が運営する日本語学習プラットフォーム「JF にほんご eラーニング みなと 」では、「まるごとオンラインコース」が、日本語以外に8ヶ国語で学ぶことができるようになりました。さらに、2020年には、待望の電子書籍版も出版されました。

ドイツの状況はというと、まず、ドイツの出版社「Buske」でも販売していることもあり、一般の書店でも『まるごと』を購入することができます。また、市民大学と呼ばれる生涯教育機関で開講されている一般成人を対象とした日本語コースで『まるごと』のニーズが高いこともあり、紙版の販売数が他のヨーロッパの国に比べると多いと言われており、このコロナ禍での不安定な流通事情にも関わらず、ドイツへの出荷数はさほど減っていないようです。また、電子版のダウンロード数(GooglePlay)についても欧州ではドイツはダントツで多く、ドイツにおける『まるごと』の人気を窺い知ることができます。

ケルン日本文化会館では、『まるごと』が試用版のころから、当館の日本語講座で使用するだけでなく、モデル講座として制作に協力したり、サポート教材のドイツ語化も進めたりしてきました(詳しくは2013年度の記事を参照)。市販版が出た後はできるだけ多くの日本語教師に『まるごと』について知ってもらえるよう、各地の教師会とともに『まるごと』をテーマにした研修会も積極的に開催してきました。2017年に『まるごと』中級2(B1)が出版されてからは、当館主催で『まるごと』をテーマに研修をすることは少なくなってきたのですが、『まるごと』が今までの文法積み上げ型の教材と教え方が違うこともあってか、ある程度の期間『まるごと』を使ってみた教師から、使い方に関する不安や迷いを聞くようになってきました。また、『まるごと』に関心を示しつつも、使うことに戸惑いや不安を感じている教師の声も聞こえてきました。

「まるごとセミナー/ワークショップ」

2020年3月、ケルン日本文化会館開館50周年記念として『まるごと』をテーマにセミナーを開催しました。『まるごと』経験者から初心者まで、そして使ってみたいけど迷っている方も対象に、『まるごと』の理念から実践まで、本書のエッセンスを凝縮しつつ、「かつどう」編と「りかい」編の教え方を模擬授業風に紹介したりしました。経験者の方からは、「つい忘れてしまっていた原点に帰ることができた」、初心者や使ってみようと思っている方からは「まるごとのコンセプトを理解することができた」といった声をいただきました。

一年後の2021年 3月には、「デザインしよう!まるごとの授業@オンライン」と題して、オンラインでワークショップを開催しました。参加希望者が多く、追加開催もし、最終的に100名以上の参加者がありました。前年は対面での実施だったため、ドイツ国内からの参加者が多かったのですが、オンライン開催の2021年は、スイス、オーストリア、オランダ、ベルギーなど欧州各国から参加があり、国を超えて、一緒に教案作成に取り組みました。今後も、年に1回をめやすに、『まるごと』を使っている教師、また『まるごと』に関心のある教師を対象に、このような学びの場を作っていければと思っています。

セミナーで、講師が説明している様子の写真
まるごとセミナーの一場面1

セミナーで使用している教材の写真
まるごとセミナーの一場面2

「まるごとオンラインサロン」

年に1回のセミナーやワークショップだけでなく、気軽にかつ気楽に参加できる「まるごとオンラインサロン」も始めました。ここでは、ざっくばらんに日々の『まるごと』を使った授業の悩みや不安を解消してもらえればと思っていますが、現場教師の工夫を共有する場として、先輩ユーザーが初めて使う人にアドバイスする場にもなっています。また、「ここ、どうしてる?」コーナーを設け、「ケルン日本文化会館ではこうしてる」という教え方の一案を提案したりもしています。今まで、2020年11月、2021年2月と開催し、毎回50名以上の申し込みがあります。今後も年に3回程度開催しながら、続けていきたいと思っています。ちなみに、このサロンもオンライン開催ということで、ドイツに限らず、世界各国で『まるごと』を使っている教師が参加してくれています。

現在、『まるごと』にはウェブサイトやオンラインコース、そしてダウンロード可能なサポート教材などが充実しており、使いやすくかつ教えやすい教材と言えます。しかしユーザーが確実に増えてはいるもののユーザー同士の学びの場そして交流の場は限られています。『まるごと』が広く受け入れられ、使用されているここドイツで、今後も『まるごと』ユーザーの日本語教師が、「まるごとを使っていて良かった!」と思えるような環境を作っていければと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケルン日本文化会館は1969年開館、日本語講座は翌年1970年に開講した。主にドイツ語圏における国際交流基金の拠点として、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施している。
日本語教育支援として、各種講座(JF日本語講座、入門体験、文化体験、会話クラブ等)、教師支援(教師会支援、研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベント等へのブース出展)、アドバイザー業務(ネットワーク会議や日本語教育相談、情報収集)を行っている。
所在地 Universitaetsstrasse 98, 50674 Koeln
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1985年

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