世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)

アイルランド教育・技能省
原田明子

アイルランドはグレートブリテン島の隣にある小さな島国です。北部アイルランドはイギリス領ですが、アイルランドとの国境はまるで県境のようでパスポートも何も要りません。アイルランドとイギリスの間には長くて複雑な歴史がありますが、現在はその関係も良好なものとなっています。 

アイルランドにはEU圏だけでなく世界各地から人々がやってきます。ダブリンの大通りを歩くと様々な言語が聞こえてきて、ここは一体何処?と思ってしまいます。バルト三国や東欧諸国からの移民も多く、特にリトアニア語、ポーランド語を教える学校も増えてきました。教育省はフランス語、ドイツ語、スペイン語といった昔から教えられている外国語だけでなくいろいろな言語を積極的に取り入れようとしているからです。

とはいえ、学校内での外国語教育の人気は決して高くありません。言語は難しいという思い込みか、或いは英語とアイルランド語(共に必須科目)だけで十分だと思うのか、高校で履修する学生の数はなかなか増えません。日本語も然りで、一部の学生に根強い支持があるものの、この10年間の履修学生数はほぼ変わりません(高校1年次に設けられている短期間のTasting Courseを除く)。そんな状況下で、日本語アドバイザーは日本語・日本文化の普及に努めるべく、学校訪問をして模擬授業をしたり、弁論大会やクイズ大会を企画したりしています。また、日本語教師のスキルアップ研修にも力を入れています。2019年度はロンドン基金事務所から講師を迎えて、「参加型・活動中心のActive Learning Workshop」を開催し、和やかな雰囲気の中で新人教師からベテラン教師まで経験の異なる20名ほどの教師が参加しました。なお、同ワークショップでは、教師の活動レパートリーを広げることを目的に、美術作品や絵本を活用して鑑賞力、思考力、言語能力、観察力、そして創造性を育てるためのアクティビティを行いました。

教師研修会「Active learning workshop」の様子の写真1
教師研修会「Active learning workshop」の様子

日本語アドバイザーが所属するアイルランド教育・技能省(Post-Primary Languages Ireland、以下PPLI)は外国語教育を推進する組織であり、それぞれが仕事の守備範囲を持ちながら緩やかに繋がっています。もともと全員が一堂に会することは少なかったのですが、コロナ禍以降は全体ミーティングもテレビ会議となりました。学校は3月13日に閉鎖されて以降、2019/2020年度は卒業試験を含めて全ての授業がなくなりました。成績評価が教師に委ねられたので、その支援のためPPLIの業務量は逆に大幅に増加しました。 その他、従来の中学生向けの日本語コースカリキュラムの整備や高校一年次のTasting Courseモジュールシラバス作成なども並行して行っています。これらは地域や学習者ニーズに合わせて特色を持った学校運営ができるようにと設置された枠組みであり、現在他の外国語と共通した形式での開発がなされています。

教師研修会「Active learning workshop」の様子の写真2
教師研修会「Active learning workshop」の様子

全世界に広がった新型コロナウイルス感染症の影響はまだまだ続いているので、今後アドバイザーにはオンラインを使った指導への助言が更に求められるでしょう。そして、一日も早くこの状況が収束していくことを願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 Post Primary Languages Ireland
Department of Education and Skills, Ireland
(PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
PPLIはフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)の促進を目的に2000年に設立された。現在ではポーランド語、リトアニア語、ポルトガル語、中国語等も加えた現代語教育発展のために支援を行っている。国際交流基金日本語専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。
所在地 Floor 5, The Liberty Building, Navan Road, Dublin 15 Ireland
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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