世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)シドニー日本文化センターの歴史ある催しと新たなる試み

シドニー日本文化センター
齊藤真美・平川俊助・門井美奈子

たてとよこがつながる場 祝!第50回全豪日本語弁論大会

みなさんは、日本語弁論大会の意義はどんなところにあると思いますか。

国際交流基金シドニー日本文化センター(以下、JFSY)では、毎年10月に在オーストラリア日本国大使館との共催のもと、全豪日本語弁論大会を実施しています。オーストラリア各州・テリトリーで実施されている地区大会のハイスクールシニア(11‐12年生)部門とオープン部門の優勝者、ニュージーランドからはハイスクールシニア部門の優勝者が集結します。

2020年度は、なんと50周年を迎え、全豪日本語弁論大会は大いに盛り上がりました!今回は、この弁論大会についてレポートします。

今回は特別に、大会前夜、第50回記念レセプションを開きました。オーストラリアの日本語教育関係者、スポンサーの皆様、過去の出場者の方々が集まり、1969年から始まった当大会の50年という長い歴史を振り返りました。

過去の出場者の方々からは、大会出場時の心境、彼ら自身の日本語学習の歩み、そして今まさに日本語を学ぶ学習者たちへの励ましの言葉などが贈られました。過去の出場者の多くが現在、何かしらのかたちで日本にかかわりをもっているという事実に、会場では喜びの声が上がりました。 オーストラリアの「日本語」にかかわる人々が集まり、日本語学習について熱く語り交流できるという貴重な場となりました。

そして大会当日!会場には、約85名の観客、ライブストリーミング配信では290名の視聴者が、出場者たちのスピーチを見守りました。当大会は、ハイスクールシニア部門では3分、オープン部門では5分のスピーチが行われます。出場者たちは、「丁寧戦争」、「いろは歌と楽天主義的なニヒリズム」など、各々が選んだオリジナリティあふれるテーマに沿って自分のおもいを熱弁してくれました。

この大会を、出場した日本語学習者たちはどのような場と感じているのでしょうか。

自分が伝えたいおもいを再考し伝える場、自分の日本語がより洗練されていく過程を経験する場、自分の日本語学習の成果を披露する場、自信を得る場、日本語や日本文化という同じ興味をもつ新しい仲間との出会いの場などなど、様々な声がありました。

ここオーストラリアでの日本語弁論大会では、自分が学んできた日本語を試す場、自分が日ごろから考えていたおもいを伝える場、そして、大会後にも日本語学習において刺激し合える仲間との出会いの場なのかもしれません。

50周年の記念大会は終りましたが、これからもオーストラリアの日本語教育を盛り上げるべく、そして人と人とのつながりをこれからも紡いでもらうためにも続いてほしいイベントの一つです。

全豪日本語弁論大会参加者の写真
全豪日本語弁論大会参加者

サポートします!オンライン日本語授業

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により2020年3月下旬からオーストラリア各地で多くの学校が在宅学習の措置を取り、5月下旬頃までリモート学習が続きました。こうした「緊急事態」は日本語の授業も例外ではなく、現場の先生たちは学習のオンライン化に向けて大忙しでした。

JFSYでは、突如訪れたオンライン授業に四苦八苦する日本語の先生たちを支援するべく、オンラインセミナーを開催しました。「Tips For A Fun And Effective Online Japanese Classroom」と題したこのセミナーでは、2本の内容を行ないました。1本目の“Enjoy Japanese Lessons Using ZOOM”では、ビデオ会議システムの基本的な使い方や応用方法を体験しながら覚えてもらい、加えて、オンライン学習全般の利点や留意点、学習者の動機を高める理論と実践例についても考えました。2本目の“Using Resources Effectively for Online Teaching”では、オンラインの日本語学習を効果的にするためのアクティビティ体験を行いました。キーワードをEngaging、Interactive、Stimulating、Enjoyableとして、10~15分間の短い時間で学べるもの、たくさんの生徒が同時に参加できる練習、身体を使って日本語が学べるアクティビティなど、オンラインであることを活かしつつ、生徒がインタラクティブに楽しく学べるアイデアを紹介しました。

企画から実施まで約3週間と非常に短い準備期間でしたが、蓋を開けてみれば毎回60~80名、計4回で述べ269名の参加がありました。また、オーストラリアとニュージーランドからだけでなく、インド、タイ、フィリピンなどオセアニア地域外からの参加もありました。

OECDの調査結果を参考にすると、学校教育におけるICT機材の利用時間数でオーストラリアは世界平均を上回っています。首都キャンベラでは2018年から全ての公立のSecondary school(7‐12年生)の学生にノートパソコンが無料で提供される、また2019年時点のビクトリア州の公立校の調査では、Primary school(1‐6年生)でコンピューター1台に対して生徒1.22名、Secondary schoolにおいては0.93名とすべての学生がコンピューターにアクセスする環境があることが示されるなど、学校のICT化が進んでいると言えるでしょう。しかし今回の企画を通して感じたのは、設備や環境は機関によって異なり、教師のICTリテラシーも様々であること、そして州や学校によっては利用が許可されていない教育ツールがあるなど、ICTを取り巻く事情が決して一様ではないということです。このように広い国土と各州の独自性の高いオーストラリアにおいて、私達の支援をより多くの学校に届けるためには、情報収集のみならず、現場の事情に沿ったアイデアを提供することが大切だと改めて実感しました。

上記オンラインセミナーで紹介したアクティビティは、当センターが運営する教材紹介サイトClassroom Resourcesにて無料でダウンロードできます。ぜひアクセスしてみてください。

オンラインセミナー開催の様子
オンラインセミナー

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターは、オーストラリア及びオセアニア地域の日本文化、日本語普及の拠点として様々な事業を行っている。日本語教育分野では、全豪の初等・中等教育課程における日本語教育支援として、教師研修会の開催、教師会主催研修会への出講、教材開発、日本語弁論大会などの学習者奨励イベントの運営を行っている。1991年にシドニー日本語センターとして開設されて以後、センター内では2005年より一般成人を対象とした日本語講座を運営しており、2012年からはJF日本語教育スタンダード準拠講座として、『まるごと』を使用。また、ニューズレターやホームページを通じ、情報発信、収集も行っている。
所在地 Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale, NSW 2008 Australia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手1名(タスマニア/ホバート市)
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
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