世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)オンラインでつながった大洋州の仲間たち

シドニー日本文化センター
三矢真由美・平川俊助・門井美奈子

2020年は、世界的なパンデミックにより様々な分野において転換期となった年でした。オーストラリアでは、2020年3月末にロックダウンを経験し集会等の規制が行われました。国際交流基金シドニー日本文化センター(以下、当センター)でも、オーストラリア政府の規制に従いリモートワークが導入されました。また、対面で行われていた多くの事業が延期、中止となり、当センターでは、このような状況下においても大洋州に在住する人たちが日本・日本文化・日本語とのつながりをより強く感じられる事業を!という想いで、新たな事業をオンラインで展開した1年となりました。

日本好き集まれ!「What's Your J-Talent? Online Talent Contest」開催

オンラインで実施した新たな試みの一つ「What's Your J-Talent?」オンラインビデオコンテスト。このコンテストは、日本語教育事業のメインイベントであった全豪日本語弁論大会の中止、文化芸術交流事業の様々なイベントの中止に伴い、日本・日本文化・日本語ファンが参加できる場として誕生しました。

このコンテストには、4つの部門があります。Japanese Language部門、Lifestyle部門、Traditional Arts and Culture部門、Pop Culture部門といった、応募者たちそれぞれが感じる日本の魅力を伝え、また得意なことや好きなことを披露できる場を設けました。エントリー期間は7月中旬から10月下旬までの約3か月間。その間、オーストラリアやニュージーランドから計160本もの動画がエントリーされました。約2分の作品がオンラインビデオプラットフォーム(YouTube)に投稿され、すべての作品は各部門のエキスパートによる選考、当センターのスタッフによる選考、さらには一般の方による選考が行われました。投稿された動画にはなんと合計4874もの高評価がつくなど、多くの注目を集めました!

入賞作品には、高度な撮影技術でお米に対するパッションを表現した「Japanese Rice: My Love Story」、日本の伝統芸術「水引」を披露した「Mizuhiki knotting」、切ない恋愛模様が描かれた音楽作品「君のマスク」、イラストと実演をミックスして制作された「The girl who tells scary stories」が選ばれました。入賞作品以外でも、大洋州に住む人たちがもつユニークなJ-Talentが披露されている作品が多く、参加者それぞれの日本とのつながり、そして日本への想いが込められたものばかりでした。

今回のオンラインビデオコンテスト、応募者の皆さんにはどのような機会となったのでしょうか。応募者からは「2分間では短すぎる!」という声も多くありました。これは、彼らが披露したい特技や伝えたい想いが2分間では収まり切らなかったあかしではないかと思います。オンラインという新たな場で開催したことにより、大洋州に住む多くの日本・日本文化・日本語ファンのつながりが生まれたとのでは!と、今後の事業の展開の可能性を感じることができました。

オンラインビデオコンテスト「What's Your J-Talent?」で使用したイラストの画像
新たなオンライン企画「What's Your J-Talent? Online Talent Contest」創意工夫に満ちた160本もの作品がエントリーされました!

先生たちに届け!オンライン教師研修 

各州の教育省や日本語教師会が主催する教師研修が本格化する3月。私たち教師研修チームにとっては「さあ、いよいよ」というシーズンです。しかし上述のとおり、2020年3月末にオーストラリアの多くの州で感染防止のため他州への移動に対する制限が敷かれ、予定されていた全ての研修の中止と延長が続々と発表されました。そこで当センターでは、2020年を通して様々なタイプのオンラインによる教師研修を開催しました。
ここではその1つ「Let’s Create Digital Resources! – Enhance Your Skills In ICT」を紹介します。

この企画は、ICTに慣れていない先生を主なターゲットにし、参加者が実際にICTツールを使いながら教材を作成するワークショップ形式の研修です。5つのセッションを開催し、「授業をインタラクティブにするためのオンラインツール」や「PowerPointで日本語教材を作ってみる」など、各テーマに沿ったICTツールの使い方を紹介しました。

この企画をデザインする上で心がけたことは、参加者がICTスキルを身につけるだけでなく、自分の学習者のための教材作りを目標としたことです。私たちが支援の対象としているのは小学校から高校の先生たちと幅広く、研修に参加する目的や必要とするスキルは参加者によって大きく異なります。したがって、ワークショップではサンプル教材を提示しつつも、最終的には参加者が自身の学習者を想定した教材に応用することをゴールとし、より多くの先生たちにとって有用なセッションになることを目指しました。

対面と異なり参加者の進捗状況が見えにくくペースの設定に難点を感じましたが、結果として計10回の開催に約190名、それもオーストラリアやニュージーランドだけでなく、カナダやタイからの参加もあり、多くの反響がありました。
(このワークショップの詳細や紹介したオンラインツールは、当センターのウェブサイトに掲載されています)

そして、幸いなことにオーストラリアでは2021年に入り、徐々に対面での教師研修が再開されつつあります。2021年2月末の北部準州ダーウィンでの教師研修を皮切りに、3月末にはタスマニア州のホバートにて、タスマニア州日本語教師会の研修が開催されました。私たちにとっては約1年振りの対面の教師研修となり感慨深い出張でしたが、それ以上に嬉しかったのはオンライン教師研修に参加した先生との「再会」でした。「初めまして」でもなく、「お久しぶりです」でもなく、「あ、本物ですね!」と、新しい挨拶を交わしました。

結果として、この1年間で当センターが開催したオンライン研修は計12本、延べ730名の先生たちを迎えることができました。当初は、実際に集まることができなくなった対応として始めた企画でしたが、このように「オンラインだからこそのつながり」を得られたのは、私たちにとって大きな転換だったと言えます。今後もオンラインのさらなる可能性を活かし、これからの時代にあった支援を形にしていきたいです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターは、オーストラリア及びオセアニア地域の日本文化、日本語普及の拠点として様々な事業を行っている。日本語教育分野では、全豪の初等・中等教育課程における日本語教育支援として、教師研修会の開催、教師会主催研修会への出講、教材開発、日本語弁論大会などの学習者奨励イベントの運営を行っている。1991年にシドニー日本語センターとして開設されて以後、センター内では2005年より一般成人を対象とした日本語講座を運営しており、2012年からはJF日本語教育スタンダード準拠講座として、『まるごと 日本のことばと文化』を使用。また、ニューズレターやホームページを通じ、情報発信、収集も行っている。
所在地 Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale, NSW 2008 Australia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手1名(タスマニア/ホバート市)
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
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