世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
片桐準二・久野元・大脇元・平岩桂子・宮入英子

ジャカルタ日本文化センター(以下、センター)では、主に日本語教師支援、JF講座、EPA*に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者予備教育事業、日本語パートナーズ**活動支援などの事業を行っています。

*日本とインドネシアの経済連携協定
**国際交流基金アジアセンター事業

『まるごと』教え方体験ワークショップと「おしゃべりYuk!」(片桐)

ワークショップ参加者の模擬授業の様子の画像
ワークショップ参加者の模擬授業の様子

今回は、JF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)の考え方を普及するために開講しているJF講座のワークショップ(以下、WS)について紹介します。JF講座では一般成人向けの日本語コースを開講していますが、日本語教師支援としてもこの講座を活用しています。その一つの方法がJFスタンダード準拠コースブックの『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使った教え方体験WSです。

このWSは日本語教師を対象としていますが、教師経験の少ない方も参加できるようにしています。昨年は11月に1度実施しましたが、参加者は12名で、その内訳は大学教師2名、高校教師2名、民間学校教師3名、残りが個人レッスンなどでの教師経験者でした。
昨年のWSのプログラムは、平日の4日間、午前と午後も使って合計19時間で実施し、内容は次の通りでした。

1日目~2日目:『まるごと』とJFスタンダードの概要説明、センター講師が教師役で参加者が生徒役になっての模擬授業、『まるごと』の構成と内容分析のディスカッション、3グループに分かれての模擬授業準備
3日目~4日目:模擬授業(教師役でない残りの参加者が生徒役)、全体の振り返り

3日目からすぐに自分で模擬授業をすることになるので、教師経験の少ない人にはかなり難しいWSですが、実は各グループには教師歴10年以上、15年以上というベテラン教師がいたので、グループ内で協力し合ってうまく授業をしてもらうことができました。初めの2日間の説明や分析だけではJFスタンダードや『まるごと』の教え方を理解するのは難しいのですが、模擬授業と各模擬授業後の振り返りを繰り返すうちに、最後には皆が『まるごと』の教え方についての理解が進んだと感じるようになってきました。

さて、この体験WSがユニークなところは、修了者に実際の一般向け日本語コースで体験的に教える機会も提供していることです。それが『まるごと 入門(A1)かつどう』の前半のみを使う週2回4週間の短期入門会話講座「おしゃべりYuk!」です。“yuk”は「~しましょう」という意味なので、「おしゃべりしましょう」という名前のコースなのです。平日の午前と午後の2クラス開講しましたが、受講生の多くが日本語を初めて学ぶ大学生でした。WS修了者のうち、教師経験の少ない6名がセンター講師の「楽しく教えましょう」という指導を受けながら教えました。教師が毎日変わることがあるにもかかわらず、それを楽しんでくれる寛容な受講生たちのおかげで、2クラスとも修了率の高い講座になりました。WS修了者には、今後も『まるごと』が使える教師として活躍されることを期待しています。

EPA常勤講師の一日 (久野、大脇、平岩、宮入)

チームミーティングの様子の画像
チームミーティングの様子

これまでの「世界の日本語教育の現場から」では看護師・介護福祉士候補者(以下、候補者)の様子が主に紹介されてきましたので、今回は国際交流基金から派遣されている日本人講師(常勤講師)の一日を紹介したいと思います。

「EPA訪日前研修の1日」(4分24秒)をYouTubeでご覧いただくことができます。
● 8時頃「研修所に到着」
講師は国際交流基金が借り上げている宿舎(個室)に住んでいます。そこから、いっしょに迎えのマイクロバスで研修所へ移動します。移動時間はおよそ30分です。

● 8時30分~11時20分「午前の授業」
授業は1週間に12コマ程度(1コマは50分、各コマの間に10分休憩)を担当します。シフトによって午前か午後に3コマの授業を担当します。授業を担当しない時間は作業をします。

● 11時30分~12時20分「自律学習支援」
候補者がそれぞれやることを決めて自主学習をします。また候補者たちが企画した勉強会や発表会をすることもあります。その他、成績が伸び悩んでいたりモチベーションが下がっていたりする候補者と面談をし、相談にのることもあります。候補者の中には外国語学習に慣れていない人もいるので、勉強のしかたを紹介したり、弱点を克服するためにどんな教材を使って自主学習をしたらよいか一緒に考えたりもします。

● 12時20分~13時45分「昼休み」
食事はお弁当を持参したり、出前を取ったり、外へ食べに行ったりします。

● 13時45分~16時50分「作業・ミーティング・係の仕事など」
作業には、授業準備やテストの採点や宿題の添削があります。また、講師はチームティーチングをしているので授業の引継ぎをする日誌を書きます。
シフトを調整して常勤講師全員が集まれる時間も設けられています。その時間には担当するクラスの指導方針を決めたり、問題点の解決策を話し合ったりします。
係の仕事はコースを運営するためのものです。今年度は総務係、試験係、自律学習支援係が設けられています。
他には自己研鑽のために他の講師の授業を見学し、その後ディスカッションをしたりすることも求められています。

● 17時30分 「帰宅」
 あとかたづけをしてから宿舎へ帰ります。

このように、EPA日本語研修の講師の仕事は、単に日本語を教えるだけではありません。日本・インドネシア政府間の取り決めで行われる研修であるため、カリキュラムなど、変えられない枠組みはありますが、講師は能動的にチームの裁量で学習支援や授業に取り組むことができ、またそのように業務を進めることが求められています。

私たち専門家も毎年ジャカルタに集まる新しい講師や候補者との関わりを通し、前年とは違った経験や学びがあると感じています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地に派遣されている日本語上級専門家・日本語専門家、インドネシアの各機関・団体と連携をとりながら、日本語教育支援を行っている。中等教育では各地域や全国レベルの教師会と、高等教育では主にインドネシア日本語教育学会とその各地域の支部と連携し、勉強会やセミナーなどに協力している。加えて、民間の日本語教育機関対象のセミナーやコンサルティング、一般成人向けのJFスタンダード準拠日本語講座、日本語パートナーズ支援、EPAに基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施し、季刊の日本語教育ニューズレター『EGAO』を発行している。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:3名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年
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