世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) インドネシア日本語教師のレジリエンス

ジャカルタ日本文化センター(西スマトラ州中等教育機関)
杉島 夏子

2020年度は新型コロナウィルスの影響で日本からオンラインでの支援となり、年度当初に計画していたことができず歯痒い気持ちを抱くこともありました。そんな中でも、オンラインツールを駆使しながら何とか学びを継続させようと奮闘していたインドネシアの日本語教師のみなさんには頭が上がりません。

ジャカルタ日本文化センターの中等教育担当専門家・講師陣は、こんな状況だからこそ、オンラインを使った新たな取り組みや地域に限定されない支援を行ってきました。今回はその中の2つのプロジェクトについてご紹介したいと思います。

全国中等教育日本語教師向けおしゃべり会

これまで担当地域の西スマトラで定期的に続けていた日本語会話会の対象地域をインドネシア全土に広げ、オンラインおしゃべり会を開催しました。この会は、中等教育で日本語を教えている教師のみなさんの日本語会話力の維持と先生同士の情報交換、繋がり作りを目的としています。おしゃべり会では小グループでのセッションが2回あり、1回は日本人と日本語でおしゃべり、もう1回はインドネシア語も交えながら日本語教育に関する様々な情報を交換します。

オンライン交流会で使用したトピックの画像
おしゃべり会で使用したスライド

これまで地域の教師会単位でしか情報共有をする機会のなかった先生方が、地域を越えて交流できるのもオンラインならでは。参加者からは「授業で抱えていた問題を他の先生と共有できてよかった」「久しぶりに日本語で話せて楽しかった」「他の先生からもらった授業のアイディアを早速自分の授業でも使ってみようと思う」といった感想をいただくことができました。これからも定期的に開催していくことで、教師の日本語力維持だけでなく情報交換や繋がり作りの場になっていけばと思います。

日本語の教え方自習教材「きらめき」の開発

対面での教師研修の代替になるような日本語教師のための学びのコンテンツを作ろうと、中等教育教師向け自習教材「きらめき」の開発が急ピッチで進められました。これは、これまで行なってきた、現行カリキュラム準拠の日本語教科書『にほんご☆キラキラ』の教え方ワークショップの一部をオンラインコンテンツ化したものです。学習者は21世紀型スキルを取り入れながら学習者中心の日本語教育を行うにはどんな工夫が必要かをビデオやクイズで学んでいきます。

日本語専門家は日本から、インドネシア人講師もそれぞれ自宅からという環境の中、協働でシラバスや各モジュールの目標作成・コンテンツ作成・ビデオ撮影・編集・サイトへの組み込みまでを行いました。

ワークショップで使用したスライドの画像
西スマトラ「きらめき」ワークショップで使用したスライド

西スマトラでは、この「きらめき」を取り入れたオンラインワークショップも実施しました。教師の皆さんには事前に「きらめき」で学習してきてもらい、Zoomの同期型セッションでは学んだ内容の復習やディスカッション、グループでの教案作成や発表をしました。2021年5月現在、このコースは「JFにほんごeラーニング みなと」自習コースへの掲載も予定しています。対面教師研修ができるようになった後でも、これまで各地で行なってきた教師研修にこの自習教材を組み合わせていくことで、自分で学べる部分はオンラインで自習し、研修では「対面でしかできない活動」にフォーカスを置くという反転授業型の学びへと更にパワーアップしていけるのではないかと考えます。

また、元々この自習教材は中等教育の先生方を想定して開発したものですが、将来高校の日本語教師になることを目指して大学で勉強している学生にも役に立つはずです。この自習コースが教育実習に行く前の大学生の学びにも活用されることで、中等教育と高等教育の連携にも一役買ってくれるのではないかと期待しています。

先生方の「レジリエンス」に支えられた1年

最近私が好きな言葉にレジリエンスという単語があります。これは心理学の分野でよく使われる言葉で、困難な状況におかれた時に、その状況に自分を順応させながら課題に立ち向かっていく個人の能力のことです。2020年はいろんな場面で私たちのレジリエンスが試された1年間でした。「オンラインで教師会をやってみたいんだけど、手伝ってもらえますか?」「日本語を話す機会が少なくなったから、地域の先生たちとZoomで会話会をやってみたい」「オンライン教材、一人で作るのは大変だから、学校を超えたチームで共同で教材作成しましょう!」等、困難な状況でもいろいろ工夫しながら前に進もうとしている先生方を見て、私も頑張らないと!と元気をもらっていました。

私の任期はまもなく終了となります。「教師支援」が私のメインの仕事ではありましたが、そんな高いレジリエンスを持った先生方からむしろ学ぶことの方が多かった3年間だったように思います。素晴らしい先生方と共にお仕事ができたことは私の誇りです。今は移動も制限されている中、お世話になった一人ひとりに直接ご挨拶ができないのが心残りですが、この1年間でやり残したことや思いは後任に引き継いでいきたいと思います。
またいつか会える日まで!Sampai Jumpa Lagi!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ジャカルタ日本文化センターの業務方針に従い、主にスマトラ地域における中等教育の日本語教育支援のため以下の業務を行う。
  1. 1)地域教師会支援(教師会・勉強会・研修・文化祭に対する支援・サポート)
  2. 2)地域内の高校を訪問し、授業見学・教授法指導
  3. 3)現地の日本語教育に関する情報収集
  4. 4)高校校長に対する日本語プロモーション
  5. 5)教職課程のある高等教育機関での情報収集・勉強会開催
  6. 6)日本語パートナーズ支援
  7. 7)その他ジャカルタ日本文化センターが実施する日本語事業への協力
所在地 Summitmas I Lt. 2/3 Jl. Jend. Sudirman, Kav 61-62 Jakarta, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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