世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)モニタリングを通して

ラオス教育スポーツ省教育科学研究所
中井千晴

2021年3月現在、日本語の授業を行う公立中等教育機関(前期4年+後期3年)は首都ビエンチャンにある4校で、1年生(小学6年生)から5年生(高校1年生)が週に1回勉強しています。教師は計11名おり、大抵が日本語と他教科を受け持っています。その11名とは別に新たに4名の教師が2021年9月から日本語を教えるために研修を受けています。使用している教科書は『にほんご』というラオス中等教育用の教科書で、『にほんご4』(4年生用)まで完成しています。その中等教育の日本語教育を支援するために日本語専門家はラオス教育スポーツ省教育科学研究所のスタッフをはじめとしたラオス人と協同で、教科書を作成したり、中等教育機関で日本語を教えている又は教える予定の教師に研修を行ったり、教科書の内容や教師の教え方の改善を目的に授業のモニタリングを行ったりしています。

ある日の授業~その1~
この日の授業はいつもと違っていました。ラオスのテレビ局の撮影が入り、そのことが影響してか、生徒はいつにも増して授業に積極的で体中からやる気がみなぎっていました。ペアで会話を発表する際も、一斉に元気よく手を挙げ、中には席を立ち上がって教師に猛烈アピールする生徒もいました。何より教師も生徒も楽しそうでした。受動的になりがちな授業もこの日ばかりは、生徒が授業を引っ張り自ら学ぶ、そんな授業に自然となっていました。

クラスでの授業風景の写真
授業の様子(先生:次は誰かな?)

ある日の授業~その2~
授業が始まりしばらくして同じ声がよく聞こえて来るのに気づきました。それは教師の日本語や教科書の会話をリピートする声で、誰の声なのか教室を見渡すと端に座っている生徒でした。その生徒は自分の席からクラスメートの発話をぼそっとアシストしたり、言葉や文法が分からないクラスメートにさり気なく説明したりしていました。その生徒の言動が他生徒を学習へと導き、学習の一助になっているのは明らかでした。また生徒同士の学び合いも随所で見られ、始終和気あいあいと仲の良さがうかがえるクラスでした。

授業中の学生の写真
授業の様子(生徒:お・と・う・さ・ん・は・・・) 

ある日の授業~その3~
モニタリングに初めて行った時のことです。授業も後半になり、2人の生徒が教室を出て行きました。暫くして別の2人の生徒も。一体何が起きているのだろう。生徒は教室を出る前に教師に何か言っており、その内容を確認しようと耳をこらすと「トイレへ行ってもいいですか」という日本語が聞こえてきました。そうかトイレか、しかも2人で(2人で行くのは習慣のようです)。その後も「トイレへ行ってもいいですか」は続きました。ラオスは中等教育機関でも1コマ1時間半~2時間(学校や学年によって異なる)あり、その間休憩はありません。2時間も椅子に座って授業を受ける、それは義務教育課程の生徒にとって容易なことではありません。更に日本語は選択科目ですが、生徒個人に選択権はなく学校側にあります。例えば、1組は日本語、2組は中国語と学校が決めます。そのため、日本語を勉強している生徒の中には日本語に興味のない生徒もいます。「トイレへ行ってもいいですか」と言って教室を出る理由は色々とありそうです。

モニタリングは教材作成や教師研修実施に欠かせないリソースの宝庫で、モニタリングに行くたびに新たな気づきや課題を得ることができます。2020年度のモニタリングは終了しましたが、2021年度のモニタリングを新たに10月から開始する予定です。どんな授業に出合えるのか、どんな気づきが得られるのか楽しみです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 ラオス教育スポーツ省教育科学研究所
Research Institute for Educational Sciences(RIES), Ministry of Education and Sports
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
RIESは初・中等教育の教科書・カリキュラム開発などを行っている教育スポーツ省の機関である。2010年のカリキュラム改訂で日本語が中等教育の選択第二外国語科目の1つになったことを受け、2016年より国際交流基金の日本語専門家派遣が始まった。現在ビエンチャン市内の4つの中等教育機関で日本語が教えられている。
中等教育支援のための専門家の業務:
1. カリキュラム・シラバス作成・改訂
2. 教科書の作成・改訂
3. 教師研修実施
4. 対象校での日本語教育実施状況のモニタリング・評価
5. 中等教育における日本語教育導入に向けた中期計画への助言
6. ラオスにおける日本語教育普及事業への協力
所在地 Vientiane, Lao P.D.R
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2016年
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