世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)初級からでも楽しく日本語に触れる機会を!

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
近藤麻衣子 佐藤修

1.「多読」活動を活発に実施しています

国際交流基金クアラルンプール日本文化センター(以下、JFKL)では2018年3月にNPO多言語多読より2名を講師としてお招きし、「多読」をテーマに日本語教育セミナーを実施しました。実施後、大きな反響があったため、2020年度より「多読」を発展させた様々な事業を展開しています。

(1) JFKL多読サロン
2019年5月からJFKLの図書館司書と共に、学習者向けの「多読サロン」を月に1回程度、開催しています。これまで9回実施し、180名以上の参加がありました。

自由に本を手に取って、自由に読む「多読」の時間の写真
自由に本を手に取って、自由に読む「多読」の時間

自分のレベルに合った本をたくさん読む「多読」時間と、読んだ本について語り合う「ブックトーク」時間があります。多読用の読み物だけではなく、図書館にある多読に適した絵本や漫画、一般図書など300冊ほどをレベル別にテーブルに平置きし、参加者が手に取りやすくなるよう心がけています。

自分のレベルに合った本は無理なく読み進められるため、毎回満足度も高く、読んだ本について自由に他の参加者と紹介し合う「ブックトーク」でその満足度がさらに上がっているように思います。「多読サロン」が、マレーシアの日本語学習者が集う場の一つとして定着しつつあるように感じています。

(2) オリジナル作品制作
一般教師向けには、上記日本語教育セミナーで学んだ「多読」についてさらに深く理解してもらうために、2019年7月の研修で「リライト体験」ワークショップを実施しました。日本の昔話をNPO多言語多読が定めるレベル1の多読用読み物へ書き直す体験をしてもらいましたが、その後早速、有志で集まり、オリジナル作品を1つ完成させることができました。今後も少しずつ作成していけたらと思います。
なお、JFKLではこうした作品を、「マレーシアの先生方が作った読み物」として、Websiteに掲載しています。どなたでも無料で自由にダウンロードもできますので、ぜひご利用ください。

(3) 中等教師研修でも「多読」
マレーシアの中等学校教師にもぜひ「多読」を知ってもらい、学校で実践してもらいたいと考え、生徒が「多読」活動をしている様子を見てもらう観察型の教師研修を企画し、マレーシア全土8か所を回りました。最終的には10回の教師研修に教師44名、生徒は700名以上が参加してくれました。

中等教育レベルで多読活動をする際は、読書自体に慣れていない生徒も多いため、3人グループで協力して一冊の本を読んでもらいました。そのために読み物のサイズを大きくしましたが、見た目も本としての魅力が損なわれないよう、注意しました。

「多読」では、分からない言葉は飛ばしたり、絵から推測したりするなど、普段の授業とは違い、物語全体を理解する読み方をします。そのため、最初は戸惑うグループもありましたが、何冊か読んでいるうちに「多読」の読み方にも次第に慣れていったように思います。ブックトークセッションでは自分のクラスメイトに好きな本を母語で紹介してもらいましたが、「友達に伝えたい」「友達の話を聞きたい」という気持ちからか、積極的に参加する様子が見られ、とても充実したセッションになりました。

みんなで協力すれば、楽しく読める!
みんなで協力すれば、楽しく読める!

参加した教師も、普段の授業とは違う生徒の姿勢や “教えなくても”予想以上に内容を理解していること、楽しそうに取り組んでいることに驚いた様子で、「日本語“で”楽しむ機会を生徒に提供すること」の効果について、肌身で感じて、理解してもらえたのではないかと思います。

マレーシアでは初級学習者が最も多く、多くは趣味や教養のために日本語を学んでいます。そのため、初級から自分のレベルに合った読み物をたくさん読める「多読」はマレーシアの学習者に合った活動の一つであると手ごたえを感じています。今後も引き続き、「多読」関連の事業に取り組んでいければと思っています。

2.「ひろがるA2自習コース」を「みなと」に開設!

JFKLでは上記のような当地の学習者の特徴・傾向にあわせ、「多読」のほかにも、初級からでも日本語で活動が出来る機会を増やす取り組みに力を入れています。その一つが、「JFにほんごeラーニング みなと」に開設した、「ひろがるA2(Vol.1)自習コース」と「 ひろがるA2(Vol.2)自習コース」で、これは、国際交流基金が開設した日本語学習ウェブサイト「ひろがる もっといろんな日本と日本語」をJFKLで自習コース化したものです。ウェブサイトの12トピックを6つずつ、Vol.1Vol.2に分け、2つのコースを用意しています。自習コースですので、いつでも、どこからでもそれぞれのペースで学習を進めることが出来ます。2020年3月時点で世界91か国から1129名の受講があり、マレーシアのみならず、世界中から多くの方が自習コースで学んでくれています。

JFKLではこれからも日本語教師や日本語学習者に日本語を楽しみながら学べる機会の提供に取り組んでいけたらと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Kuala Lumpur
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点のひとつ。マレーシアの各機関と連携し、日本語教育に関する幅広い業務を行っている。教師全般に対する支援として、各種セミナー、研修会の立案・実施、「マレーシア日本語教育セミナー」「マレーシア日本語教育研究発表会」の開催など。中等教育機関に対しては、中等教師向けの研修会の立案・実施、教師養成コースへの協力などをおこなっている。学習者支援としては、弁論大会の実施、JF日本語講座の運営などのほかに、「JFにほんごeラーニング みなと」を使ったオンライン講座や、「みなと」をはじめとする国際交流基金作成ウェブサイトの紹介ブース出展等、広報活動も実施している。
所在地 18th Floor, Northpoint, Block B, Mid-Valley City, No.1, Medan Syed Putra, 59200 Kuala Lumpur, Malaysia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1995年
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