世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)コロナ禍の一時帰国〜日本から在宅で発信〜

ヤンゴン外国語大学、ヤンゴン日本文化センター
雄谷マユミ

避難一時帰国〜副教材作成〜

2020年3月、COVID-19の広がりがミャンマーでも見られるようになりました。ミャンマーはここ数年、経済発展に伴い医療機関の整備も図られつつありますが、まだまだ日本のように医療設備が充実していないこともあり、派遣員全員が4月上旬に避難一時帰国となりました。赴任からわずか4ヶ月半のことでした。それから9ヶ月間、特定技能(生活日本語)チームは日本から在宅で数々の業務をこなしていくことになります。

まず手掛けたのは、2020年3月に公開された『いろどり 生活の日本語(以下、『いろどり』)初級1・初級2』の教え方のポイントを作成することです。これは、詳細教案の一歩手前のもので、Can-doを目標にした教授法に慣れてもらうため、「課の全体を外観できる」、「時間配分の目安となる」、「文法ノートの練習例を盛り込む」を主眼においたものにしました。この中の「日本の生活TIPS 」コーナーでは、日本を訪問したことがない教師の手助けになるようなワンポイントやヒントも紹介しています。この「教え方のポイント」は、JFヤンゴンのHPからダウンロードできるように「いろどり特設サイト」も立ち上げています。

https://yg.jpf.go.jp/irodori/

また、『いろどり』の特徴であるコミュニケーション能力の測定方法として、会話テストのロールカード例、評価例(ルーブリック)なども順次作成していきました。これらはオンラインセミナー時に例示して役立てています。

日本語教材の副教材のプリントの写真
『いろどり』副教材一覧

オンラインセミナーの実施

日本からの発信で力を入れたのは日本語教師向けのオンラインセミナーです。チームにとって初めての経験であり、ミャンマー在住スタッフとの連携など課題は多かったものの、ノウハウを一から学びながら以下のような内容で実施しました。
・新教材『いろどり』をのぞいてみよう!
・『いろどり』教え方セミナー<初級1>
・『いろどり』教え方セミナー<初級2>
・「会話テストを作ってみよう!〜『いろどり』を例に〜」
・「会話テストの評価をしてみよう!〜『いろどり』を例に〜」

オンラインセミナーでは集中力の関係上、90分を超えないように気をつけ、休憩を入れながらグループワークを導入しました。日本人参加者も多く、中にはフランスなど海外からの参加者もいて、ミャンマー人教師にとっても様々な経歴を持つ教師と接することができたのではないかと感じています。私達にとっても貴重な経験知となっています。

「JFT-Basic紹介動画」作成

ミャンマーのJFT-Basicは2020年3月に第1回が開催されて以降、COVID-19の影響で中止状態が続いていましたが、2021年1月にようやく第2回が実施されました。

定員枠は900名でしたが、今回も公開からわずかな時間で締め切るほどの盛況ぶりでした。この関心の高さを受け、少しでも受験者に役立つ情報を届けたいと、チームでは「JFT-Basic紹介動画」を作成しyoutubeにて広報することにしました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLyve8UAf4hr2NTVbU5DP4xVKmw62xVR0

これに合わせて「いろどり紹介動画」にも着手し、それぞれ日本語ver.は完成しています。あいにく3月のJFT-Basicは中止になってしまいましたが、一方でマンダレー試験会場が増設されるという嬉しいニュースもありました。日本行きが中断されている特定技能人材・技能実習生が多いことから、日本語教育機関からは定期的な開催を望む声が強く挙がっています。

日本の生活TIPSの発信

ミャンマーでは情報発信のツールとしてFBがメインに使われています。避難一時帰国していても学習者と繋がりを保つ意味で、チームでは日本の生活TIPSの情報提供を企画しました。毎週1回、『いろどり』の中から、季節に合ったものやタイムリーな話題を取り上げて、写真・イラスト付きでオリジナルのコメントと共にJFヤンゴンFB上に掲載するものです。これは2020年5月〜1月29日まで37回投稿し、多くの人に興味を持ってもらうことができました。

フェイスブックで発信している、日本の生活紹介の画像
日本の生活TIPS投稿

クーデターによる業務活動への影響

このように日本から様々な活動を行いながら再赴任を待ち、ようやくヤンゴン入りできたのは2020年12月31日でした。1ヶ月近くに及ぶ隔離生活を終え、いよいよ2月1日から勤務先であるヤンゴン外大へ出勤・・・と思っていた矢先に国軍によるクーデターが勃発し、その後の活動停止を余儀なくされました。この状況の中、何ができるのか、思案と忍耐の日々が続いています。それでも、ミャンマーの日本語関係者の無事を祈りつつ、今できることを精一杯やっていきたいと考えています。

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