世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ミャンマー2020

ヤンゴン日本文化センター
小西 広明

みなさま、こんにちは。ミンガラーバー。

昨年度(2020年度)は、「初代専門家が着任しました」と題してヤンゴン日本文化センター(以下、JFYG)の専門家の業務内容をご紹介しましたが、その後情勢が大きく変化し、業務形態も大きく変わりました。本稿では2020年度に起こったこと、変わったことを中心にお届けします。

まず、2020年4月から9月まで約5か月間、日本に「避難一時帰国」をしました。これは世界中に蔓延したコロナ禍によるものです。ミャンマーの場合、2020年5月1日時点で累計感染者数151名、亡くなった方6名と、今から考えると蔓延状態というほどではなかったのですが、3月末にはミャンマー教育省より全国すべての教育機関を休校とする指示が出され、職場であるヤンゴン外国語大学(以下、YUFL)も、対面で行っていたすべての講義が休講となりました。ミャンマーのスクールカレンダーは、12月に新学期が始まり3月までが前期、6月から9月までが後期となっていますので、ほとんどの教育機関は前期課程が終わった時点で学習を中断してしまったことになります。

YUFLでは、コロナ禍以前は講義も会議もすべて対面で行っており、特に「オンラインで言葉を教えること」に関しては何の知識も経験もありませんでした。eラーニングプラットフォームであるムードルを利用することに決めたのですが、まずはその使い方を全教職員が学ぶところから始めなければなりませんでした。オンラインで授業をする前に、「オンラインでの授業のやり方」を教員が学ぼうというわけです。ミャンマーの4月は一年で最も暑い季節で、お正月もありティンジャンと呼ばれる水かけ祭りが盛大に行われます。いわば一年で最ものんびりした楽しい季節だったのですが、2020年は違いました。コロナ禍の拡大を防ぐために水かけ祭りは全国的に中止となり、先生方も慣れないコンピューター操作に四苦八苦することになりました。

この間、わたしはZoomを使ってYUFLの先生方を対象に「オンラインでの日本語授業のやり方」といった内容の講義を3回行いました。わたしは日本からの参加ですが受講する先生方はYUFLの一室に集まっています。自宅のネット回線が不安定なこと、何かわからないことがあったらすぐ同僚に聞けること、が理由だそうです。わたしも含めて全員Zoomに慣れておらず、ブレイクアウトルーム機能を使っても、隣の人と話を始めるといったこともしばしば起きました。

さて、ミャンマーのコロナ禍は9月1日時点でも累計感染者数887名、死者6名という比較的落ち着いた数値だったため、わたしを含め避難一時帰国をしていた専門家は順次再赴任することになりました。しかし本来なら9月から始まる予定だった後期課程は教育省の指示により開講は見送られることとなりました。対面授業のリスクを考えてということのようでした。

先生方はムードルを使っての講義や学習記録の取り方、成績のつけ方、ZoomGoogleを駆使しての講義もかなりイメージができているようでしたが、結局オンラインでの実施とはなりませんでした。

先生方が大変だっただけではなく、2020年度は7月も12月も日本語能力試験が中止になるなど、日本語学習者にとっても受難の年になりました。しかしまた一方で、第21回目となる日本語スピーチコンテストを初めて完全オンラインで実施できたことは大きな成果となりました。この様子はJFYGのフェースブックで公開していますので是非ご覧ください。
https://www.facebook.com/JFYangon/video

同様に、「第16回日本文学翻訳コンテスト」もオンラインで実施することができました。ジュニア部門だけでも184名の方がオンライン参加しています。こうした学習者奨励事業のオンライン化は、参加する学習者はもちろん、主催するわたしたちにとっても初めての試みです。さまざまな障害や課題はありましたが、とにもかくにも実施、成功裡に終了できたことは大きな財産です。特にオンラインでの実施によってヤンゴン、マンダレーという二大都市圏以外からも参加することができるようになったことは非常に意義深いことです。

また教師対象事業としては、第12回目となる「ミャンマー日本語教師セミナー」も初めてオンラインで実施し、申し込み者数175名、参加者数145名という大盛況でした。

こうしてわたしたちは、コロナ禍のもと少しずつではありますが着実にオンラインでの経験を蓄積していっています。 

パーテーションで各審査員の席が仕切られている、オンラインスピーチコンテストの会場の様子の写真
オンラインでのスピーチコンテスト、コロナ対策もばっちり

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 ヤンゴン日本文化センター
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
2019年に開設された国際交流基金の海外拠点のひとつで、ミャンマー日本語教育界のハブ機関としての機能を担っている。具体的にはヤンゴン外国語大学、マンダレー外国語大学と協力しての、日本語教師を対象とした年2回の年次セミナーの実施、在ミャンマー日本国大使館と協力しての弁論大会の実施、JLPTの実施協力など。技能実習生、特定技能ビザなどで訪日する学習者のための支援にも力を入れている。また日本語学習者や日本語学習の入り口となる文化紹介など、学習者への直接支援活動も活発に行っている。
所在地 No.70, Nat Mark Lane 1, Bahan Township, Yangon, Myanmar
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年 2019年
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