世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)国際交流基金マニラ日本文化センター

国際交流基金マニラ日本文化センター
EPA研修チーム: 池津丈司・小川靖子・江森悦子・牟田綾
中等教育チーム:井手剛平
       JFT-Basicチーム:武井康次郎
       にほんご人サポートチーム:古川嘉子

(1) チームで学ぶ

EPA訪日前日本語研修で学んでいる看護師・介護福祉士 候補者(以下、「候補者」) 注1は1人で黙々と勉強するイメージでしょうか。実際は、授業中のペア・グループワーク、候補者同士での学習の振り返り、授業後のグループスタディなどが多く行われ、個人の学びを支えています。日本語学習の他に「社会文化理解」の授業もあり、例えば「朗読発表会」では、クラス全員で朗読を考え、授業前後も熱心に練習し発表に臨んでいました。こうした学びの経験は、渡日後、チームで働くことや、働きながら国家試験の勉強を続けるベースにきっとつながっていくと思います。

また、日本人講師と比人講師のチーム・ティーチングを行いますが、それはチーム・ラーニングでもあります。講師は、候補者にとって最適な学習方法やアドバイスをチームで相談しながら行います。候補者、講師ともにチームでの学びが、個人の学び・成長を補完しています。教務の派遣専門家も同じくチームで、こうした学びのデザイン、そして候補者、講師の今、さらにその先を見つめながら、1人1人がより力を発揮できるような場づくりを考えています。

COVID-19により、研修半ばでの終了となってしまいましたが、個人で学び、チームで学んだ彼らが無事に渡日し、その学びを生かしながら、日本の看護・介護の現場で活躍することを願っています。

注1:今期は約340名。

「朗読発表会」―『葉っぱのフレディ』『100万回生きたねこ』をクラスごとに発表しました。の画像
「朗読発表会」―『葉っぱのフレディ』『100万回生きたねこ』をクラスごとに発表しました。

(2) 高校生ビデオコンテスト NiViCon 初開催

フィリピンでは公立中学、公立高校の選択科目の中に日本語があり、そこで勉強している生徒を応援することもマニラ日本文化センターの仕事のひとつです。

普段の勉強の成果を発揮する場として、2018年度までは「クイズビー」というクイズコンテストを行ってきました。しかし、もっとたくさんの生徒に参加してほしいとの思いから、2019年度、この企画を刷新し「NiViCon for Nihongojin」という高校生ビデオコンテストを開始しました。ルールは単純で、日本語だけでビデオを作ること、長さは2分以内にすること、のふたつです。2019年度のテーマは生徒にとって身近な題材である「わたしたちの学校」としました。

初めての企画だったので、最初は応募が集まるか不安もありましたが、最終的には各地の高校から36作品が集まり、共催のフィリピン人日本語教師会とともに選考作業を進めました。

小さい頃から映像に慣れ親しんでいる世代だからか、応募作品の質はどれも高く、生徒の創造性が遺憾なく発揮された素晴らしい作品ばかりでした。多彩な作品はすべてホームページで見ることができるので、ぜひアクセスしてみてください。
https://sites.google.com/view/nivicon2020/


わたしたちの学校 (PNJKIS - Grade 10) Youtube動画にリンクします)

(3)『いろどり 生活の日本語』が公開されました

『いろどり 生活の日本語』初級1の画像
『いろどり 生活の日本語』初級1

2019年4月から新しい在留資格「特定技能」ができましたが、2020年6月現在、フィリピンからの送り出しは 始まっていません。尚且つ、COVID-19の影響で、送り出しの見込み も立っていませんが、送り出し開始に備えて候補者に対し授業を行っている機関もあります。私たちはそんな中で、オンラインによる『いろどり 生活の日本語注2(以下、『いろどり』)紹介セミナーを行っています。『いろどり』の特徴を紹介し、みなさんに使ってもらいたいと思っていますが、『いろどり』は教科書の通りに進めて教えられるので、オンライン授業にも適した教材だと思っています。しかし、まだ公開されたばかりのため、オンライン用のコンテンツがないこと、オンライン授業でどのように練習すればいいかなど、課題もたくさんあります。また、『いろどり』を授業形式で勉強会を行う「いろどりマラソン」を週2回スタッフと行い、『いろどり』の特徴を確認したり、問題点を洗い出したりしています。この「いろどりマラソン」も我々スタッフだけでなく、広く皆さんに参加してもらうことを予定しています。

注2:『いろどり 生活の日本語』は、国際交流基金日本語国際センターが制作した教材。外国の人が日本で生活や仕事をする際に必要となる、基礎的な日本語のコミュニケーション力を身につけることを目的としている。

(4) フィリピンの日本語学習者たち、先生たちとともに!

フィリピンの日本語学習者や日本語の先生たちなど、日本語に関わる「にほんご人」のコミュニティを支援し、つないで、ネットワークをひろげていく業務を担当している私たちは、今年から「にほんご人サポートチーム」と名前を変えました。『まるごと-日本のことばと文化』を使った日本語講座の実施、ニュースレター”Nihongojin Connect!”の発行、5月のフィリピン日本語教師フォーラム(以下、PNTF)の主催、教師研修の実施などなど、日本語教育の「なんでも屋さん」です。COVID-19の影響で、対面での日本語講座はむずかしい状況ですが、今年はオンラインの日本語講座を実施しています。5月にはPNTFを、初めてオンラインで実施しました。オンラインのメリットは、広い国の中のどこからでも参加でき、会場にしばられず多くの人に参加してもらえることです。いろいろな難しさもありますが、日本語を学ぶ人、教える人、楽しむ人、日本語と生きていく人…といっしょに日本語教育の土台作りも含めて何ができるか今後も考えて実行していきたいと思います。

基本にもどろう!PNTFでは「理解可能なインプット」について確認しました。の画像
基本にもどろう!PNTFでは「理解可能なインプット」について確認しました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語専門家の業務は4チームに分かれる。にほんご人サポートチームは、教師研修や日本語教師フォーラム、一般向け日本語講座、全国スピーチコンテストなど、日本語学習者・教師の支援を行っている。中等教育チームは、フィリピン教育省と連携し、他教科現職教師を対象とした日本語教師養成研修、巡回指導、カリキュラムにあわせた教材の追加作成を担当するほか、これまで日本語パートナーズ事業への支援も行ってきた。 JFT-Basicチームは、就労目的の学習者対象の JFT-Basicや教材『いろどり 生活の日本語』の広報を行っている。 EPA研修チームは、 EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業に取り組んでいる。ニューズレター "Nihongojin Connect!"発行。
所在地 The Japan Foundation, Manila 23rd Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave. Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:3名(2名)、専門家:5名(4名)、指導助手:1名(0名)
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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