世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)東北部と全国規模の業務を通して
バンコク日本文化センター(タイ東北部中等教育機関)
蜂須賀 真希子
ナコンラーチャシーマー県のスラナリ・ウィッタヤー校を活動拠点とし、タイ東北部の日本語教育の発展のために活動しています。主な業務は、学校訪問や授業見学を通して、先生方が日々ぶつかっている課題を聞き、アドバイスやコンサルティングをすること。各校のタイ人/日本人教師とネットワークを築き、東北地域の日本語教育事情について情報収集すること。そして、スラナリ・ウィッタヤー校でタイ人教師と協力しながら日本語の授業を行うことです。
そんな中、学校単位や地域単位で行われる「日本語キャンプ」(以下、キャンプ)への参加を依頼されることがあります。2018年度は6校、2019年度は4校のキャンプをお手伝いしました。
「日本語キャンプ」とは、いわゆる課外活動のことです。1校単独で実施されるものから、主催校が周辺校の生徒を招き開催されるもの、地域単位や国際日本語キャンプという大規模なものまであります。また、日本語専攻の生徒対象で計画されるものが多いですが、英語や中国語といった他の外国語科目と合同で実施され、理系専攻の生徒を対象に「異文化理解活動」の目的を持ったキャンプもあります。時には、専攻科目決定前の中学3年生を対象に日本語専攻への勧誘イベントの意味が加わることもあります。
期待される専門家の役割は、キャンプの規模や目的によってさまざまです。企画の段階から中心となるタイ人教師をサポートし、当日も講師やファシリテーターとして参加する場合もあれば、当日だけインタビュイー、審査員としてゲスト参加する場合もあります。いずれの場合も、「日本語/日本語教育」の専門家として期待される役割とは、また別の一面もあると感じています。
各キャンプでは「私の町のゆるキャラを考える」「タイの社会問題について考え、発表する」「流しそうめん体験」「よさこいダンス大会」「書道体験」など工夫を凝らしたプログラムが組まれますが、日本文化体験プログラムの中でも、浴衣の着付け体験は、男女を問わず人気があります。
あるキャンプに参加した際、私は浴衣の着付けを担当しました。着付けが終わった後、生徒が笑顔で「ありがとうございました」と言ってくれたのですが、すぐに「おはしょり」を帯の中に押し込み始めました。確かに、Tシャツの上から浴衣を着るので「おはしょり」の部分がもこもこと不格好だったのですが、帯の下に「余分な」部分が出ていることが気になるようでした。そこで、「この部分がないと変だよ。本物の浴衣じゃなくなっちゃうよ」と生徒に説明すると、なんと「じゃあ、本物じゃなくていい」と一生懸命おはしょりを帯の下に隠し続けました。少なからず私はショックを受けました。そしてショックを受けている自分にも気づきました。
一人で着られるよ。カワイイ!
「文化を伝える」とは、どういうことでしょうか。ある「文化」が渡った先で独自の変化、進化を遂げることはよくあることです。日本をはじめアジアの国々でも広がるクリスマスやハロウィンのようなイベント、カリフォルニアロールに代表される世界各国のSushi Roll。でも、私には「おはしょり」のない浴衣や、淡いピンク色がかわいいと着物の長襦袢を引きずり、ポーズを決めて写真をとるタイの女子高生を見過ごす気にはなれませんでした。
「七夕」の文化紹介ポスター
それぞれの国に歓迎され、独自に発展や進化をする日本文化を寛容しつつ、ここからは見過ごせないなという線をどこに据えるか、そして、その線の超え幅を見極める感性を鍛えておくことが、現場密着型の専門家活動に必要だと感じます。日本の文化、慣習の中で育った人間として、日本文化を「知りたい」と思っている生徒や現地の先生方に「線、このくらい超えちゃってるよ。」と、どうやって伝えるのか。何を伝えるのか。教室で科目として日本語を教えること以外の専門家の役割を意識しつつ、東北部の先生たちにとって、信頼できる「生教材」でありたいと思っています。
派遣先機関名称 | バンコク日本文化センター (タイ東北部中等教育機関) |
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The Japan Foundation, Bangkok | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
東北地方担当日本語専門家はバンコク日本文化センターに所属しつつナコンラーチャシマ―県のスラナリ・ウィッタヤー校を拠点に業務を行う。当校は、東北部で伝統のある進学校で、6年制の女子中高一貫校である。専門家は、タイ人教師と協力して日本語クラスを担当し、助言、支援を行っている。加えて、タイ東北部全体の中等教育機関への支援(学校訪問、情報収集・提供、教師研修、ネットワーク構築、イベントへの協力)を行っている。また、全国規模の中等教育機関関連イベント(日本語コンテストなど)への支援・協力も行う。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
所在地 | 248 Mittraphap Rd., A. Muang, Nakhon Ratchasima 30000 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:1名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の所属学部、 学科名称 |
外国語部 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の概要 |
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