世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)理工系中学生のニューノーマル 日本語支援

タイ教育省 中等教育局
南井美香

タイには約1730社以上の日系企業があり、両国は産業面で深い関係にあります。近年、タイでは日本のものづくり、技術力が見直され、将来の高度理系人材の育成に注目が集まっています。日本の国立高等専門学校(以下、高専)の教育システム導入や優秀な理工系学生を高専に送り出す制度など、教育面でも両国は協力を始めています。タイ教育省中等教育局派遣の日本語専門家(以下、JF専門家)は、「高専」とつながるタイの日本語教育支援をしています。

1. 「タイ高専」開校!

2019年5月、キングモンクット工科大学ラカバン校キャンパス内に5年制「タイ高専」が開校しました。学生はエンジニアリングの理論と実践、そして日本語を学習します。2020年には2校目が開校します。

開校前にタイ人教師2名、タイ人の日本語コーディネーター2名、JF専門家で構成される日本語チームが発足しました。専門家はタイ人教師と協力し、授業開始に向けて目標設定、教科書選定、スケジュール、テスト作成などアドバイスを行います。多種多様な授業があり、日本語授業になかなか時間を割くことができない状況で、いかに効率よく学習が進められるか、エンジニアに必要な日本語とは何かを日本語チームで話し合います。

プロジェクトは始まったばかりで答えもありません。日本語チームは学生にとっての日本語の役割を常に考えながら、新しいプロジェクトに一丸となって奮闘中です。

タイ高専での日本語授業の様子の写真
タイ高専での日本語授業の様子

2.「日本の高専」留学を目指す中学生

国立チュラポーン王女サイエンスハイスクール(以下、PCSHS)は、全国12か所にある中高一貫校です。その名の通り、サイエンスに特化したカリキュラムが組まれ、日本語を学ぶチャンスは多くありません。ここでのJF専門家の業務はカリキュラム整備と教師支援です。

2020年度から中等部12校のカリキュラムを統一し、中学1年生全員の日本語履修を開始します。それに伴って、専門家は教師向けワークショップを開催し、日本語テストの統一を目指します。

また、PCSHSでは、中学3年次に12名を選出し、日本の高専1年次に送り出す留学制度を実施しています。学生は7年間日本の高専で勉強し、高度人材としてタイに戻ってくる予定で、2021年4月に第4期生を送り出します。この留学支援を行うための事前学習コースの枠組みをPCSHSの先生方と協力して、設けました。まだ骨組みの段階で、今後タイ人教師を主体に、強固なサポート体制を構築していかなければなりません。日本語、日本文化、高専生活、試験対策、理数教科の専門用語などの学習サポートを行っていきます。

3. チャレンジの輪を広げよう

PCSHSの中学生が日本語に触れ、日本人や日本に興味を持つことが、日本語学習意欲を向上させ、その先の高専留学、タイ高専進学へとつながると考えています。PCSHS派遣の日本語パートナーズたちと「もっとPCSHSの学生に日本語チャレンジの場を!」と企画し、2019年11月「チャレンジカップ」と名づけたコンテストを開催しました。

2日間のイベントを通じ、中学生、教師共に学び多い機会となりました。中学2年生の参加者は「日本へ行って、エンジニアリングを勉強したい」と、4期生高専留学の選考試験にチャレンジしています。また、タイ人教師も、日本語パートナーズやボランティアの方と協働して、コンテストの運営を成し遂げました。日本語能力アップ、自信アップにつながったことは大きな収穫です。そして今度は日本の高専と連携し、サイエンスと日本語を融合したイベントに挑戦したいと思っています。

次のカップはどの学校の手に!?の写真
次のカップはどの学校の手に!?

理工系学生の得意な分野に、日本語が触れて、化学反応が起きると未来が広がり、可能性が無限になる。日本語と科学技術、タイと日本、人と人をつなぐ場づくりに取り組んでいます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Office of the Basic Education Commission,Ministry of Education, Thailand
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
教育省派遣の専門家は、タイ全国の理系教科に関する部署に籍を置き、日本の国立高等専門学校をモデルとした「タイ高専」の日本語教育立ち上げ業務と国立プリンセスチュラポーン王女サイエンスハイスクールのカリキュラム整備、教師サポート、国費留学高専生への日本語教育体制支援を行っている。
所在地 319 Ratchadamnoen Nok Avenue,Dusit Bangkok,Thailand10300
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年 2019年
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