世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)北部日本語コンテスト開催

バンコク日本文化センター(タイ北部中等機関)
津崎千尋

タイ北部中等教育担当の日本語専門家(以下、専門家)は、チェンマイ県にあるユパラートウィッタヤライ校を拠点に、タイ北部地域の中等教育における日本語教育を支援しています。専門家の業務は、北部地域の学校を訪問し日本語の授業見学やコンサルティングをすること、日本語教育のセミナーやワークショップを企画し実施すること、日本語キャンプやコンテストなどに協力すること、配属先校の日本語教育を支援することなど多岐にわたります。今回のレポートでは、2020年度にタイ北部中等教育日本語教師会(以下、教師会)との共催で開催した、北部日本語コンテストについて紹介したいと思います。

教師会と共に今できることを考える

2020年度は新型コロナウイルス感染症の世界的流行のため、タイの中等教育機関でも新学期開始が通常の5月から7月に変更になり、授業も一部オンラインで行うなどの影響がでました。毎年行われていた日本語コンテストなどの日本語関連行事も、その多くが中止となってしまいました。学校訪問などで先生方に会うと、「今年は日本語コンテストがなくて残念です」「生徒たちが参加できる日本語の行事がなくて寂しいです」という声が多く聞かれました。そこで、このコロナ禍でもできる日本語コンテストはないだろうかと教師会の先生と意見を出し合いました。その結果、北部地域で日本語を学ぶ中学生・高校生を対象とした、「『私のまち』動画コンテスト」と「日本語作文コンテスト~『20年後の私からの手紙』~」を実施することとなりました。

私のまちの魅力を発信―『私のまち』動画コンテスト

「『私のまち』動画コンテスト」は、日本やタイ、その他の国に住んでいる日本人や、世界中で日本語を勉強している人たちに向け、「私のまち」の魅力を紹介する動画を作成するコンテストです。3~5名でチームを作り、「私のまち」の魅力は何か、それをどのような日本語でどうやって伝えれば見ている人がわかりやすいかを考え、4~5分の動画を作成します。
このコンテストには、北部地域の17校から36チームがエントリーしました。どのチームも工夫を凝らして動画を作っており、そのまちの有名な観光地だけでなく、ガイドブックには載っていないような地元のカフェやナイトマーケットの紹介など、オリジナリティのある動画に仕上がっていました。そして、それぞれのまちの魅了が十分に伝わってきました。
この動画コンテストは今回が初めての試みでしたが、生徒たちにとっても、改めて「私のまちの魅力とは何だろう?」と考える機会になったと思います。また、グループで協力し1つの作品を作り上げる面白さも感じられたのではないかと思います。

自分の街をPRする動画の中で、山等の自然をアピールする女性の写真
美しい自然いっぱいの北部地域

自分の街をPRする動画の中で、ペムアンピー森公園を紹介する男性の写真
こんな不思議な場所もありますよ

自分の今と未来を考える―日本語作文コンテスト『20年後の私からの手紙』

「日本語作文コンテスト~『20年後の私からの手紙』~」は、20年後自分はどこで誰とどんな生活をしているのか、社会はどのように変わったのかを想像し、その20年後の自分から今の自分へ向けて手紙を書くというコンテストです。このコンテストを通し、自分はこれからどんなことをしたいのか、自分の想像する未来を切り開いていくためには今どんなことをすればいいのかなど、自分自身を深く考えるきっかけになってほしいと思い企画しました。
このコンテストには、北部地域の20校から50名のエントリーがありました。生徒たちが書いた20年後の自分から今の自分への手紙の中には、「子供の時の私はなにをするにも恥ずかしかった。そのせいでいろいろなことにチャレンジしなかった。20年後の35歳の私はそのことをとても後悔している。だからチャレンジすることの大切さを知ってください。失敗しても大丈夫」という内容のものや、「高校生の私はどうして一生懸命勉強しなければいけないのかと考えていたが、20年後の私はもうそれを理解している。それは自分と愛している人のためだ」など、今の自分が悩んでいることや迷っていることに対して、20年後の自分の目線で考えアドバイスをしているものが多くありました。また、「日本でプログラマーの仕事をしています」「『耳としっぽ』という、店員が耳としっぽをつけて働いているカフェを開きました」など、将来の自分の仕事を具体的に考えた上で、今何をしたらいいかを自分自身に向けアドバイスしているものも多かったです。

今回のこの2つのコンテストは教師会との共催で行いました。どのようなコンテストだったら生徒たちが参加しやすいか、どのようなコンテストにすれば生徒たちの成長を促すことができるかなど、教師会と共に考え、企画し、運営を行いました。現場の先生方と共に地域の日本語教育の発展や生徒たちの未来について考えられることは、地方で活動する専門家の醍醐味の1つだと思います。今後も現場の先生方と共に、北部地域の日本語教育の発展のために尽力していきたいと思います。

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