世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語専門家の役割とは?

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ダナン)
黒田朋斎

私たち日本語専門家の仕事は何でしょうか。日本語教授法に関するセミナーをする?JF日本語教育スタンダードや『まるごと』の普及活動をする?日本語に関する質問に答える?

もちろんこれらは私たちの重要な業務です。しかし、特に中等教育に対する支援においては、こうした知識や技能、情報を伝える仕事ばかりではなくなってきています。今回は国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(以下、JFVN)の中等教育支援担当者の広がりつつある役割についてお話しします。

「参加者中心」の研修を目指して

私たちJFVNの中等教育支援担当者は、2018年のレポートで紹介した全国研修を起点とした「学習者中心」をテーマに据えた1年間のフォローアップ・プログラム(以下、研修プログラム)を2018-19年度(1)も継続しています。そして、昨年度以上に「参加者中心」の研修になるよう努力を続けています。

研修プログラムの起点となる全国研修(2)では、前回は「学習者中心」の定義を私たち専門家から示しましたが、今回は「授業中生徒にどんな顔をしてもらいたいか」から考えはじめ、そのために何に注意すべきかを考えることを通して参加した教師(3)が自ら作り上げました。そして、生徒が大人になってからの社会を考え、それを短い劇で表現することを通して「学習者中心」の理解を深めました。

中部合同研修でディスカッションする教師たちの写真
中部合同研修でディスカッションする教師たち

各地方で実施する合同研修(4)でも主役はもちろん教師たちです。合同研修の主な内容は、研修プログラムに参加した教師の研究授業実践報告と同プログラムに参加していない教師の「学習者中心」の授業活動の紹介ですが、これら報告・紹介された活動について教師がディスカッションを通して分析をし、改善方法を提案したり、新しい活動方法を考案したりします。このように実践を伝えあい、さらにその改善案や新しいアイデアを出していくことによって、教師が活動方法のレパートリーを増やし、かつ授業の改善方法を学んでいくことを期待しています。さらに、これらのディスカッションの進行も、前回そして今回研修プログラムに参加した教師が担っています。つまり、日本語専門家が前に立つ機会自体がほとんどないのです。私たちは学ぶべきものは日本語専門家の中ではなく、すでに教師の中にあると考えています。その教師の中にある学ぶべきものがスムーズに出てくるようにすることこそが私たちの役割なのです。

中学生日本語キャンプ(5)(以下、中学生キャンプ)の教師プログラムでは、参加教師にも学びを支える役割を体験する機会を作りました。JFVNでは教師の教授能力に加え、生徒の学習を支援する力を伸ばすことも重視しています。その一環として、生徒を「見る」ことに重点を置いた教師プログラムを中学生キャンプで実施しました。このプログラムで参加教師がしたことは、参加生徒をただひたすら観察すること。そして、その観察から生徒の長所と努力を発見し、メッセージとしてカードに書くことでした。そうして書かれたカードには、びっしりとメッセージが書いてありました。キャンプの最終日、そのカードを受け取った生徒たちは、「どうしてこんなに私のことがわかるの?」と驚き、そして自分のことをこれほどまでに見てくれたことに感動していました。そのカードを渡しているときの教師の顔、そして受け取っている生徒の顔、どちらもとてもいい顔でした。こうした生徒たちの感動や驚きこそが教師の喜びであり、生徒の学びを支えることにつながることを実感してほしいと思っています。

中学生キャンプでメッセージカードを渡す教師の写真
中学生キャンプでメッセージカードを渡す教師

広がりつつある日本語専門家の役割

知識や情報を伝えることは依然として日本語専門家の重要な役割ではありますが、それに加え、学びを支えるという役割も大きくなってきています。これは日本語専門家にとっては新しい役割です。

私たちの社会は留まることはなく、変化の速度は現代においてますます増しています。それに取り残されることがないよう、私たちは常に自律的に学び、私たち自身が社会の変化に適応できるよう変わっていかなければなりません。それは、日本語学習者も日本語教師も、そして日本語専門家も同じです。だからこそ、日本語専門家自身がまずは新しい役割に挑戦し、そこから学ぶ姿勢を持ち続ける。そして、その姿勢を現地の日本語学習者や日本語教師に示していくこと、すなわち、日本語専門家自身が「学習者」であり続け、任地の日本語学習者や日本語教師とともに学んでいくことが最も重要でしょう。それこそが学びを支えることにつながると考えています。

(1) 年度の記載はベトナムの学年暦による。ベトナムでは、8月下旬から9月に新学期が始まる。2018-19年度とは、2018年9月から2019年8月まで。
(2) 2018年7月に実施。
(3) 特に断りがない場合は、国際交流基金ベトナム日本文化交流センターが支援する中等教育機関のベトナム人日本語教師を「教師」とする。
(4) 北部(ハノイ、ハイフォン)、中部(フエ、ダナン、クイニョン)、南部(ホーチミン、ビンズオン省、バリアヴンタウ省)の各地方で1年に2回実施。
(5)中学生キャンプの概要は、ホーチミンの記事をご参照ください。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「国家外国語プロジェクト」のもとで、初等・中等教育の日本語教育の整備・発展に関する日越政府間の協力が合意されており、当センターは初等・中等教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等に協力している。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を実施するとともに、新規日本語教師希望者、民間や高等も含む現職教師を対象とした新規日本語教師育成特別強化事業を展開している。
加えて、国際交流基金アジアセンターが実施している“日本語パートナーズ”派遣事業によって、全国の日本語教育を導入している初等・中等学校の大半において、様々な世代の日本人がベトナム人教師のアシスタントとして活動し、生徒に直接に日本人と話す機会、日本文化に触れる機会を作っている。
ハノイ、ホーチミンでは、一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座を開講し、『まるごと』各レベルのベトナム語版を順次出版している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:7名、指導助手:1名(うちホーチミン市:専門家2名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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