世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)専門家の活動とブルガリアにおける日本文化の広がり

ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学
髙橋 知也

日本とブルガリアは伝統的な友好国です。「ブルガリア」と聞くと、緑豊かで平和な国というイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。一方のブルガリアでは、「日本」に対して、最先端の技術と古い伝統の国であるという印象が一般的なようです。

国際交流基金(以下、JF)による日本語専門家(以下、専門家)の派遣先機関であるソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学(以下、ソフィア大学)の日本学科はブルガリアの代表的な日本語教育機関です。毎年、「日本」に対する一方ならぬ情熱を抱いた優秀な学生たちがブルガリア国内のみならず近隣国からも入学してきています。

ソフィア大学へのJFからの派遣は共産主義政権下の1981年に始まり、2008年から2019年にかけては専門家と日本語指導助手の2名が派遣されていました。しかし、現在は専門家1名のみの派遣です。長年にわたる専門家派遣の成果として、持続可能な日本語教育のサイクルができており、成熟した環境にあると言えます。

ソフィア大学の近況

ソフィア大学日本語学科の校舎の写真
日本学科の入る建物

ブルガリア人は「はい」と言うときに首を横に振り、「いいえ」と言うときに首を縦に振るという話を聞いたことがあるでしょうか。この有名なブルガリア人のジェスチャーについて、今ひとつ実感できないまま、報告者の任期は1年以上が過ぎてしまいました。というのも、2020年3月の赴任直後に緊急事態宣言が出されて以降、対面でのブルガリア人との接触が極端に限られた状況が続いているからです。

赴任以来、3年生と4年生の授業を合わせて週に10時間担当しています。ところが、対面での授業は一度も経験しておらず、オンラインでの指導が続いています。オンラインへの移行は、教師にとっても学生にとっても受け入れがたいものだったようです。特に、学年の垣根を越えたネットワーク形成に寄与していたクラブ活動は大幅に制限されています。オンライン授業の出席状況も必ずしも良好ではなく、辛抱強い取り組みが求められています。

とはいえ、数少ない対面の行事では、学科メンバーの連携の良さを目の当たりにしました。たとえば、2020年9月27日に開かれた日本学科設立30周年のオープンデーは記憶に残っています。学生たちがてきぱきと協力して屋外にステージを組み立てて行く様子に感銘を受けたことを思い出します。

緊急事態宣言以降の日本語教育の拡大

黒海沿岸の都市ブルガスの街並みの写真
黒海沿岸のブルガス

世界的に対面での指導が制限されている状況に対応して、JFは2020年10月に新たなオンラインでの日本語教育の取り組みを支援する「海外日本語教育機関支援(新型コロナウイルス対応特別プログラム)」を開始しました。

ブルガリアからは、ソフィア大学のみならず、これまで日本語が教えられていなかった黒海沿岸のブルガス市の4つの高校、首都ソフィア近郊のズラティツァ市の1つの高校がこの助成プログラムに応募しました。助成プログラムへの応募に先立って、在ブルガリア日本国大使館の当時の次席と一緒に黒海沿岸の各機関を訪問し、JFの日本語教育支援についてお知らせする機会が得られました。

その後、いずれの機関からの応募も採択され、世界的に緊急事態に見舞われている状況下で、ブルガリアの各地で新たな日本語教育プロジェクトが始動しました。各機関のプロジェクトは日本の年度末にあたる2021年3月31日に終了しましたが、今回の助成で初めて日本語教育を開始した5つの高校の修了式にはオンラインで参加し、憧れの日本語との出会いによって各校に生まれた高揚感に触れることができました。

今般の経験を通して、対面での指導が制限された状況を逆手に取り、むしろオンラインで日本語教育の拡大を図ることも可能であるという気付きが得られました。世界的に大変な状況がしばらく続くかもしれませんが、この先も日本語教育がブルガリアの地で広く深く展開されていくことを期待しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Sofia University "St. Kliment Ohridski"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
専門家は派遣先機関における日本語教授、及び派遣先国全体の日本語教育の普及・発展を目指した活動を行う。派遣先機関であるソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学古典及び現代言語学部日本学科はブルガリアを代表する日本語教育機関である。同学科で専門家は週に10時間の授業を担当する他、現地講師からの照会・相談に対して情報提供を行うなどの支援を行う。また、ブルガリア全体の日本語教育の普及・発展を目指して、情報収集・調査に励み、日本語教育ネットワークの活性化に協力する。
所在地 CIEK, 79 Todor Alexandrov Blvd, Sofia 1303, Bulgaria
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
古典及び現代言語学部、日本学科
日本語講座の概要
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