世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)カレル大学における2020年度の活動

カレル大学
川島眞紀子

2021年3月2日、チェコ国内における非常事態宣言の発令は、4度目を数えました。初めての発令は1年前の2020年3月12日でした。2019年度版の報告を読み返してみると、当時、混乱していた一方で、収束を楽観視していた一面もうかがえます。その後、パンデミックが世界に与えた影響は周知のとおりで、現在もまだ渦中にあります。私が勤務しているカレル大学では、オンラインによる授業が遂に3学期目になりました。この1年間、日本語教育を巡ってどのような出来事があったか、そして、今後について私が考えていることを述べてみたいと思います。

「違ったスタイルの模索と実践」

コロナ禍で人通りが絶えてしまったチェコの街並みの写真
コロナ禍で人通りが絶えてしまった

この1年、全世界のあらゆる教育現場でため息をつかなかった先生がどのくらいいたでしょうか。デジタル化に抵抗したところで、先の見えない状況下、結局は受け入れざるを得ず、不慣れだった技術の習得と教材作りと授業運営に地団駄を踏みながらも、前進を余儀なくされてきたはずです。そのような苦労を1年間経た現在、オンラインに移行した当初に比べたら、使えるようになったデジタルツールの種類も知識もスキルも活用アイデアも1年前よりも格段に増えました。ライブ配信に加え、学生たちの自律学習を助ける教材の準備、その管理方法に苦心してきました。カレル大学では3年後の完成を目指し、大学が提供するプラットフォームを利用したオンライン教材の整備に取りかかりました。しばしば、「このパンデミックが収束したら教室での対面授業に戻れるのに」という会話もしますが、まったく元通りというわけにはいかないでしょう。それは、これまでインターネットを使ってどんなことができるのか知らなかったからに過ぎません。この便利な道具を再び背後に追いやることなく、教室での対面授業との共存と発展が可能であると考えています。

「無機質なツールで有機的に繋がる」

カレル大学小噺倶楽部メンバーが着物を着て小噺を披露している写真
小噺への取り組み

なにごとも長期化すれば、習慣化して当初の新鮮味が失われるものですが、オンラインではそれが加速するように感じています。やはり、インターネットは新しい情報を入手するには長けている反面、飽きが来ることも加速度的なようです。この超高速で便利なやり取りが私たちの学習活動に一気に取り入れられた一方、人と人との対面ができず、パンデミックは長期化し、実生活においては停滞を余儀なくされています。1年以上を経過し、このギャップによる精神的な疲弊が学生の間に目立ち始めています。オンライン疲れは、若い人たちこそ影響を受けやすいのではないかと考えています。

ところで、授業のオンライン化は、何といっても、遠隔地にいる人々が一瞬にして一堂に会することができるという利点をもたらしました。先に述べたこととは一見矛盾しているようですが、今後はこれを特性として積極的に捉え直し、どのように活かすかが重要な鍵になると考えています。そこでまず、私は普段の活動をより楽しめるもの、社会活動に近いものに変更しました。さらに、学年を超えたピアラーニングと毎週1回放課後に小噺倶楽部を取り入れることにしました。ピアラーニングは3年生が1年生の練習相手になったり、まだ使い方がおぼつかない文法を教えたりしています。また、カレル大学での小噺倶楽部メンバーは、まだ決して多くないのですが、実は、小噺自体は日本語教育(会話練習)に活かす取り組みとして、西欧各国を中心に広がっています。小噺を学ぶ研修を通じ、他国の先生方と繋がることができ、無機質なツールが有機的な繋がりを後押しするということを私自身が経験し、感動しました。確かに、いつ収束するか目途がつかない状況で目標を立てて活動することは非常に難しいことです。しかし、不可能ではありません。とはいえ、単独で行うことができる活動には限界があります。学生とともに教師側の学びも止めてはいけません。仲間と集い、知恵を出し合うことの大切さをコロナ禍において、あらためて実感するとともに、この厳しい時期をできるだけ明るく乗り越えていこうと日々努めています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Charles University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科を持つ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。研究者養成を目標とし、日本語学・社会・経済・歴史・文学・思想史等についての授業が行われており、学生は卒業論文のテーマもこれらから選択する。日本語専門家は、日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会を始め、他の教育機関の日本語教育支援や日本語弁論大会等日本語教育関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nám. Jana Palacha 2, 116 38 Praha 1, Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
哲学部アジア研究所日本研究学専攻(通称 日本研究学科)
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