世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)多様な日本語教育を支援するセンター

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
林敏夫・中野友理

国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)では、JFBP所在国のハンガリーの他、中東欧12か国(ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、チェコ、セルビア、スロバキア、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニア、コソボ)の日本語教育の支援をしつつ、JFBPにおける日本語講座の実施を行っています。ここでは、中東欧全域を担当する林と、ハンガリー国内を担当する中野がそれぞれの仕事をご紹介します。

2018年の機関調査結果を受けて

海外日本語教育機関調査表

「出典:海外日本語教育機関調査報告書: p.61 (国際交流基金)を加工して作成」

2020年7月に公開された「2018年度海外日本語教育機関調査」の結果報告書によれば、管轄の中東欧13か国のうち、今回の調査で新たに日本語教育の実施を確認できたのはモンテネグロです。2015年から2018年にかけて、ポーランド、ブルガリア、チェコ、セルビア、スロベニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニアの8か国では、日本語学習者数が増加しています。
 特に、旧ユーゴスラビア地域では、2019年8月に第23回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムが開催されたセルビアのベオグラード大学が牽引する形で、各国の日本語教育が急速に展開しています。クロアチアのプーラ大学では観光に特化した日本語教育が特徴で、同国初の大学院コース設置の準備も進められています。ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ大学では、2019年10月に大学院生向けの日本語の正規科目が開講されたのですが、その初日に授業参観することができました。そして、同国初の日本学科設立へ向けての準備も進められています。北マケドニアでは、2019年5月に第1回日本語弁論大会が開催され、その審査を行ったのですが、初の実施であるにもかかわらず、内容的に非常にレベルの高いスピーチが多く、大変驚かされました。コソボについては、教育機関が確認できなかったのですが、オンラインやプライベートでの日本語学習者がおり、2020年1月に在コソボ日本国大使館(兼勤駐在官事務所)が開設されたこともあるので、今後の展開が期待されます。

中東欧日本語教育研修会2020

「中東欧日本語教育研修会2020」の写真
中東欧日本語教育研修会2020

中東欧の多様な日本語教育に携わる教師が年に一度集う機会が、中東欧日本語教育研修会です。2020年2月22日~23日にブダペストで実施された研修会には、計16か国、62名が参加しました。

2020年の全体のテーマは「日本語教育をつなげる」で、長年、日本語教育学会の会長として時代の状況の変化に立ち会われてこられ、東京外国語大学副学長、そして現在は、国際教養大学教授として国際交流の実務に携わってこられた伊東祐郎先生を日本から招聘して基調講演及びワークショップを実施したほか、参加者の発表やグループ・ディスカッションを通じて、参加者同士で日本語教育を通じて教育機関や人をつなげていくことを中心に検討しました。

研修会に向けて、2019年の研修会と同様に、公式サイトを作成し、Slackを使ってオンラインによる事前のコミュニティ作りを行いました。本研修会では、参加対象国(上記13か国)の現地関係機関にお願いして、できるだけ長く現地に貢献できる人、そして地域的な広がりという観点からの参加者の人選を行ってもらっており、普段は発表の機会が少ない若手の日本語非母語話者の教師の発表の機会が設けられている点が大きな特徴です。今回も15名の発表者のうち12名がノンネイティブでした。こうした方々が「日本語教育をつなげる」努力を継続してくだされば、中東欧の日本語教育はさらに活性化できるのではないかと思いました。

コロナ禍のなかで「つなげる」

2020年3月下旬から4か月弱の間、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ハンガリーの政令等によりJFBPは閉鎖されました。非常事態宣言下で外出制限令が発布される等、自身も関係者も外出できない、対面で会えない状況で、「オンラインでこんな授業をしてみたい勉強会」という緊急企画を実施することに決めました。所属する教育機関から急にオンライン授業への対応を迫られて困り果てている日本語教師のために、実験的に、オンラインで情報交換を行える場を提供しようという目的で、5月下旬までは連日、それ以降は隔日で、毎回1時間の勉強会を続けています。7月中旬には開催回数も60回を超え、延べ参加人数は千名に達しています。オンラインのおかげで、中東欧のみならず全世界からの参加があり、文字通り「日本語教育をつなげる」ことができているのではないかと思っています。(林)

学習者を世界と「つなげる」

続いてハンガリー国内の日本語学習支援をご紹介します。私たちは日本語講座の運営と日本語学習者のための実践の場の提供に力を入れており、その一つとして日本語プレゼンテーションコンテストを主催しています。2019年は、日洪外交関係開設150周年を記念し、「ハンガリーの○○を日本人に紹介」「日本の○○をハンガリー人に紹介」という二つのテーマを設定してハンガリーの日本語学習者に発表していただきました。

皆さんは初めて手洗いの意義を訴えたのがハンガリー人医師だったことを知っていますか?筑波宇宙センター「スペースドーム」を詳しく説明できる日本人はどのくらいいるでしょうか?日本人も知らない日本、ハンガリー人も知らなかったハンガリーについて、各出場者が何度も練習した日本語で、熱意とユーモアを込めてプレゼンしてくれました。本コンテストの模様はYouTubeからご覧いただけます。日本とハンガリーをつなげる彼らの発表をぜひご覧ください。

同じく日本語を使う場として、日本人も交えて日本語で交流する機会「しゃべりゅんく」(「一緒に」という意味のハンガリー語の人称接尾辞ünkを日本語と合わせた造語)を定期的に設けています。ここでもお互いが話し、聞き、つながるという外国語学習のダイナミクスが見られます。コロナ禍を受けて、オンライン実施によって日本や他国の方とも交流できました。

日本語教師としての私たちの仕事は、何かを表現したい人に、正しい表現形式を教えることだけではありません。「表現できる場」作りこそ、「表現したい人」のためでもあり、またその表現を受け止めて「変わりたい人」、そして「変わってゆく世界」のためでもある私たちの壮大な仕事の一つだと思っています。

私たちはこれからも「伝える人」と「伝わる世界」をつなげていきます。皆さんもどうかこのつながりに加わっていただけますように。(中野)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーを含む中東欧計13か国を活動範囲とする広域事務所として位置付けられている。主としてハンガリーを除く中東欧12か国の日本語普及およびアドバイザー業務を担当する日本語上級専門家と、ハンガリー国内支援およびセンターの日本語講座運営を担当する日本語専門家の計2名が派遣されている。
業務内容は、研修会等の企画および実施、日本語講座運営、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、日本語教育機関・教師への助言や支援、機関訪問等がある。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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