世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)多様な日本語教育を支援するセンター

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
林敏夫・中野友理

国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)では、JFBP所在国のハンガリーの他、中東欧12か国(ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、チェコ、セルビア、スロバキア、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、モンテネグロ、北マケドニア、コソボ)の日本語教育の支援をしつつ、JFBPにおける日本語講座を実施しています。ここでは、中東欧全域を担当する林と、ハンガリー国内を担当する中野がそれぞれの仕事をご紹介します。

コロナ禍で

2020年3月下旬から4か月弱の間、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ハンガリーの政令等によりJFBPの施設は閉鎖されました。非常事態宣言下で外出制限令が発布される等、自身も関係者も外出できない、対面で会えない状況が続き、1年以上にわたって出張ができていないために、各国の教育現場に実際に足を運ぶことができず、肌で感じる現場の空気感をアップデートできなかったのは本当に残念なことでした。そうした中で、「オンラインでこんな授業をしてみたい勉強会」という企画を継続的に実施してきました。所属する教育機関から急にオンライン授業への対応を迫られて困り果てている日本語教師のために、実験的に実践を試み、オンラインで情報交換を行える場を提供しようという目的で、2020年3月から毎回1時間の勉強会を、現在では週2回のペースで続けています。2021年4月末には開催回数も137回を数え、延べ参加人数は2,300名を超えています。オンラインのおかげで、中東欧のみならず全世界からの参加があり、この勉強会が日本語教師をつなげる場になっているのは嬉しいことです。

中東欧日本語教育研修会2021

中東欧の多様な環境のもとで日本語教育に携わる教師が年に一度集う機会が、中東欧日本語教育研修会です。通常、この研修会の準備には半年以上をかけるのですが、コロナ禍で先行きが見えないままに、2021年は初めてオンラインで実施することになりました。これまで対面の利点を活かして企画してきたのですが、今回はむしろオンラインの強みを発揮できないものかと知恵を絞りました。2021年2月20日~21日にオンラインで実施された研修会には、JFBPが支援を行っている上記の13か国のうち、コソボとモンテネグロを除く11か国に加え、ウクライナ、英国等から、主催者も含めて計22か国、93名の参加希望があり、当日出席者も各日80名前後でした。

2021年の全体のテーマは「オンライン授業の理論と実践」で、ICT教育の分野の第一人者でいらっしゃる、武蔵野大学グローバル学部准教授の藤本かおる先生による基調講演及びワークショップをオンラインで実施したほか、参加者の発表やグループ・ディスカッションをオンラインで実施しながら、参加者同士で日本語教育におけるオンライン授業の理論と実践について検討しました。

研修会に向けて、2020年の研修会と同様に、公式サイトを作成し、Slackを使ってオンラインによる事前のコミュニティ作り及び事後のフォローアップを行いました。本研修会では、参加対象国(上記13か国)の現地関係機関にお願いして、できるだけ長く現地に貢献できる人、そして地域的な広がりという観点から、参加者の人選を行っていますが、普段は発表の機会が少ない若手の日本語非母語話者の教師の発表の機会が設けられている点が大きな特徴です。今回も日本語による11件の発表が行なわれ、14名の発表者のうち8名がノンネイティブでした。
今回の研修会では、オンラインの利点を活かし、発表を2つのルームで同時進行で行うことができ、発表者のスライドも見やすいものでした。移動の労力がなく、簡単に世界中の参加者とつながることができ、取り上げられたツールも即座に確認できたという感想も聞かれました。一方で、オンラインの制約上、発表前後の余白や特定の人との雑談の時間を取りにくいということもありました。今回の参加者が、研修で得られた知見をもとにオンライン授業実践の努力を継続してくだされば、中東欧の日本語教育はさらに活性化できるのではないかと思いました。(林)

おうちで楽しむハンガリー

ハンガリー日本語ビデオコンテストの応募作品のサムネイル画像
ハンガリー日本語ビデオコンテスト

続いてハンガリー国内の日本語教育についてご報告します。ハンガリーでもコロナ禍で日本語スピーチコンテストなど多くのイベントが中止あるいはオンライン開催を余儀なくされました。物理的移動・対面交流が難しい状況下でも、自分の考えや自国について日本語で効果的に発信することを目指し、JFBPで主催したのが「日本語ビデオコンテスト」です。「おうちで楽しむハンガリー」というテーマのもと、日本語を学ぶ人々がハンガリーの素晴らしさを3分程度の動画に詰め込んで伝えてくれました。

応募作品の中でも「美味しい料理と温かい人々の国」は、ハンガリーの素朴な家庭料理と家族の温かさが日本語のナレーションと何気ない団らんの映像から溢れています。このほかにもハンガリーの田舎と都会の映像や、ハンガリー料理のレシピなど7本の動画が公開されています。多くの日本人がこの動画を見て一時でもハンガリーを旅した気分になってほしい、そしていつか実際にこの国を訪れてほしいという思いで作成された作品です。一人でも多くの方にご覧いただけるとうれしいです。(中野)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーを含む中東欧計13か国を活動範囲とする広域事務所として位置付けられている。主としてハンガリーを除く中東欧12か国の日本語普及およびアドバイザー業務を担当する日本語上級専門家と、ハンガリー国内支援およびセンターの日本語講座運営を担当する日本語専門家の計2名が派遣されている。
業務内容は、研修会等の企画および実施、日本語講座運営、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、日本語教育機関・教師への助言や支援、機関訪問等がある。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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