世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)キルギス人にとって日本は遠くて近い国

キルギス共和国日本人材開発センター
坂本美知

「キルギスで広がる日本文化と日本語熱」

キルギスは中央アジアに位置する内陸国で、日本からはモスクワや周辺の中央アジア諸国を経由して飛行機で最短でも約15時間、乗り継ぎにゆとりをもたせたり、上手く乗り継げなかったりした場合は20時間以上かかるのも普通です。直線距離にすると、さほど遠くはないのですが、日本人にとって馴染みの深い国とは言えません。近年では日本のメディアで取り上げられることも多くなったのですが、遊牧民族としての文化がクローズアップされ、キルギスという名前を知っている人でも、大型デパートが次々にオープンし、おしゃれなカフェで「こんにちは」と日本語で挨拶される現在の首都ビシュケクをイメージできる人は少ないのではないでしょうか。突然の日本語に驚いて、どこで勉強しているのかと尋ねてみると「アニメで覚えました」「インターネットで勉強しました」という返事が返ってきます。日本からの観光客の少ないこの国で、観光客相手の日本語を覚える必要はありません。「いつか日本へ行ってみたい」「日本の文化が好きですから」そう言って笑ってくれるキルギスの人たちと、日本でのキルギスに対するイメージのギャップに、日本からの派遣専門家としてはちょっと申し訳なく感じてしまうほどです。

もちろん、一歩ビシュケクから離れれば、羊や馬の群れが道路を塞ぎ、タクシーを待つ間、牛が目の前をゆっくりと歩いて通り過ぎるなど日本のテレビで紹介されるような遊牧国家らしい自然が広がっています。しかし、実はそんな農村でもJICAの青年海外協力隊やその他ボランティアの活動で日本語や日本文化が広がり、そういった先生方の熱心な指導や人柄に触れた子どもたちが日本に興味を持ち、首都ビシュケクで更に本格的な勉強を始めるなどキルギスの日本語教育は層が厚く、日本を目指す若者は驚くほど多いのです。

日本語でプレゼンテーションに挑戦する学習者の写真
日本語でプレゼンテーションに挑戦する学習者

「日本語で交流“日本語でプレゼンテーション会”」

専門家が派遣されているキルギス共和国日本人材開発センター(以下、日本センター)では5ヶ月コースのJF日本語講座以外にも学習者や現地のニーズに合わせた単発的なコースや様々な日本語教育支援活動を行っています。その中でも隔月で行われている“日本語でプレゼンテーション会”は単なる日本語での会話イベントに留まらず、日本語学習者が参加者に向けて日本語でプレゼンテーションを行うというものです。日本センターの学習者に限らず、キルギス在住の日本語学習者なら誰でも参加できます。独学で日本語を学ぶ人から、両親の仕事の都合で日本の小学校に通っていた子どもたち、大学で専門的に日本語を学ぶ学生まで年齢も学習目的も様々な人々が参加し、それぞれの日本語レベルで積極的に意見交換している姿を見ているとキルギスにおける日本語教育の多様性を実感します。

また、毎回、日本人ゲストにもプレゼンテーションを行ってもらい、会の最後には参加者全員がお茶を飲みながら日本人ゲストを囲んで交流することで、普段出会うことの少ない他機関の学習者同士が交流する場、ネイティブスピーカーに接する機会のない学習者が日本語で会話するという学習成果を試す場となっています。

「オンライン授業でも頑張っています!」

2020年3月にはキルギスでも新型コロナウィルスに対する非常事態宣言が発令され、教育機関は一時閉鎖となりました。突然の事態にJF日本語講座も休講を余儀なくされ、先の見えない状況が続きました。すぐにオンラインへの移行に踏み切れなかったのは受講生のインターネット環境を思ってのことだったのですが、数週間後の調査ではほぼ100%の受講生がオンライン授業を希望しているということがわかり、オンライン授業へと移行することが決まりました。ただ、スマートフォンやインターネットはある程度普及しているものの、学習に耐えうる環境かというとそういうわけでもなく、実際に受講生全員がオンラインに移行できたわけではありません。一部の学生は今も状況が好転し、日本センターで授業を受けられる日がくるのを待っています。しかし、それでも多くの学生は、世界的に不安定な状況下にあっても毎週のオンライン授業に参加し、日本語教育を通じて日本を学び、これからの明るい未来を信じて頑張っています。

オンラインで『まるごと』講座の写真
オンラインで『まるごと』講座

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年国際協力機構(JICA)に移管された国際協力機構日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JF日本語教育スタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU, Building 7, Floor 2 720033 Kyrgyz Republic 109 Turusbekova Street, Bishkek.
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
What We Do事業内容を知る