世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)オンラインでもつながる

ヤギェロン大学
栗原 幸子

ポーランドに日本語専門家として着任してから、1年半が経過しました。昨年のレポートでは、新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、突如始まったオンライン授業について書きました。その当時は予想もしなかったことですが、2020年3月に始まったオンライン授業は2021年5月現在も続いています。

日本学科があるヤギェロン大学文献学部東洋学研究所は、ようやく改装が終了した新校舎への移転が2020年9月に行われました。筆者も10月の新学期開始の前には、新校舎で行われた説明会に参加したり、新しい共同研究室の見学などをしました。しかし、その後、一部は対面で他はオンラインで始まった新学期も、感染拡大により2週間程でまた全面オンライン授業に戻ることになりました。そのため、せっかくの新校舎もまだほとんど授業が行われないまま時間が経過しています。

ヤギェロン大学文献学部東洋学研究所が入る新校舎の写真
ヤギェロン大学文献学部東洋学研究所が入る新校舎

特に10月に入学してきた学士課程、修士課程の1年生たちにとっては、ほとんどクラスメートたちと会うことなく、オンライン授業に入ってしまうことになりました。そこで、日本語の授業では、ペア、グループでの活動など、お互いを知り合う機会を作り、良い雰囲気が作れるような活動を心がけ、学生たちも意欲的に取り組んでいます。1年生たちと「身につけているものを説明する」活動を行った際には、かつらをかぶり、エレガントな長手袋をしてきた学生、ティアラや角をつけてきた学生、キャラクターや骸骨の着ぐるみを着ている学生、花の刺繍が入った帽子をかぶった学生、最初の画面からは見えないけれど実はフリーダ・カーロの靴下をはいている学生など、みな工夫をこらし、ユニークな格好でスクリーンに登場してきたおかげで、クラスは笑いに包まれました。また、普段の授業や1年生が使う教科書には出てこないような表現・語彙を使う良い機会にもなりました。

日本とつながる

オンラインでは距離を超えた交流がしやすいというのが、メリットの一つと言えるでしょう。2020~2021年度には、ヤギェロン大学と滋賀大学との間で、学生交流「おにぎりプロジェクト」「へいわってどんなこと?プロジェクト」が実施されました。「おにぎりプロジェクト」は、各回の前半で、京友禅作家の方、布団会社の社長、滋賀大学の先生方などによる講義に参加し、後半では学生たちがグループに分かれて、ディスカッションを行うという形で行われました。
「おにぎりプロジェクト」に参加したメンバーの一部は、その後も「へいわってどんなこと?プロジェクト」で交流を深めました。このプロジェクトでは、ヤギェロン大学と滋賀大学の学生たちが協働して、浜田桂子氏による絵本「へいわってどんなこと?」を、ポーランド語に翻訳し、日本語とポーランド語で朗読を行い、字幕も入れた動画を作成し、ポーランドの子どもたちに動画を見てもらうという活動を行いました。プロジェクトの過程では、作者の浜田桂子氏からお話を伺う貴重な機会もありました。日本の学生たちと共に「へいわ」というテーマについて考えること、原文の日本語の意味をよく考えて、かつ、子どもたちにわかりやすい言葉を探すこと、声に出して読んだときにリズム良く響くポーランド語に翻訳すること、一つひとつが大切な経験になりました。学生たちが作成した動画を見たポーランドの子どもたちが、絵を描いてくれて、これらの子どもたちの絵は滋賀大学のキャンパスなどで展示が行われました。

「おにぎりプロジェクト」は2021~2022年度も予定されています。まず最初はオンラインでの交流を進めていき、状況が好転していけば、滋賀大学側の参加者たちのポーランド訪問の計画も予定されています。
上記のプロジェクト以外に、群馬大学とのオンライン交流会も実施されました。こちらでは、ヤギェロン大学と群馬大学の学生たちがグループになって、学生たちが選んだ「ジェンダー」「観光」「コロナ禍の影響」「社会問題」「妖怪」の各テーマでディスカッションをした後、学生同士でやり取りをしながら準備をすすめ、グループ発表を行いました。

ポーランドでも、ワクチン接種は進んできています。今後もオンラインの特性を生かした授業を模索し、学生交流を続けていきたいと思いますが、また対面での授業、実際に会って交流することができる日を学生たちと共に心待ちにしています。

「へいわってどんなこと?」プロジェクトに参加したポーランドの子供たちが書いた絵の写真
「へいわってどんなこと?」プロジェクトに参加したポーランドの子供たちが書いた絵

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関の位置づけ:日本学を主専攻にもつ国立四大学の中の一機関 業務内容: 1. 派遣先機関における学部生、大学院生への日本語教育。「実用日本語」を担当。2. カリキュラムや教材に関するアドバイザー的な役割。3. ポーランド日本語教師会、ポーランド南部日本語教師の会などポーランドの日本語教育に関する支援 4. ポーランド国内の日本語関連のイベントのサポート
所在地 al. Mickiewicza 9, 31-120 Kraków, Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
日本語講座の概要
What We Do事業内容を知る