世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ルーマニアの学習者たち

ブカレスト大学
深澤 香

派遣先機関であるブカレスト大学は歴史ある総合大学です。外国語外国文学部の学生は3年間でA専攻とB専攻と呼ばれる言語を1つずつ学び、philology(文献学)の学士号を取得することになります。研究者の育成が目的であり、言語だけでなく、文学、歴史、文化人類学、心理学など関連科目を履修するカリキュラムになっています。日本語専攻は、東洋言語学科の下に位置付けられています。

ルーマニアの日本語専門家(以下、専門家)の主な業務は、ブカレスト大学での日本語教育支援とルーマニア国内の日本語教育支援です。その中から、2019年11月に行われた「日本の夜」というイベントと、2019年12月に行われた日本語能力試験(以下、JLPT)についてご紹介します。

学生主体で行う「日本の夜」

ルーマニアの11月は日本文化月間として知られており、在ルーマニア日本大使館が中心となって、ルーマニア各地で日本映画祭や日本関連のイベントが催されます。この日本文化月間に合わせ、ブカレスト大学でも2019年11月11日~15日まで日本文化週間が設けられました。(詳しくは学科のブログをご覧ください。)

日本語専攻には、書道、ダンス、コーラス、藍染、風呂敷などの15のクラブがあり、複数のクラブにかけもちで入っている学生もいます。「日本の夜」では、各クラブがステージ発表をしたり、来場者向けに日本文化が体験できるワークショップを開いたりするのですが、各クラブのリーダーを中心にイベントに向けて準備や練習を重ねていきます。

こうした課外活動はふだんの授業とは違う学生の一面を見ることができる貴重な機会です。どの学生も生き生きとしている姿が印象的でした。冒頭で述べた通り、日本語専攻の学生は「日本語」だけを学んでいるのではありません。授業時間だけを見たら、言語習得そのものに当てられる時間は少ないのですが、日本語を話すのが苦手な学生でも、ルーマニア語や英語なら日本の歴史や文学作品に詳しく説明できる学生もいます。こうしたイベントを通して、自分たちが好きなことや学んだことを来場者のみなさんに伝えたり、体験してもらったりする場があることは素晴らしいことだと思います。

ブカレスト大学外国語外国文学部入り口の写真
ブカレスト大学外国語外国文学部入り口

日本語能力試験(JLPT)実施のお手伝い

2019年12月のJLPTの試験日はルーマニアの祝日と重なりました。JLPTの実施は大使館の協力のもと日本語教師会が中心となって行い、専門家は試験監督の補助や音響チェックなどを行います。主にブカレスト市内で教えているルーマニア人と日本人の先生方が協力して運営に携わるため、さまざまな機関または個人で教えていらっしゃる日本語教育関係者に一度にお会いできる機会でもあります。また、ルーマニアの場合、2019年は500名近い受験者がいましたが、この数には隣国モルドバからの受験者も含まれます。普段はブカレスト大学の学生しか接することがないのですが、ルーマニア各地から、そしてモルドバから、こんなにたくさんの人がさまざまな動機で日本語を勉強し、JLPTを受けようとしていることに感動しました。

国際交流基金が3年に一度実施している海外日本語教育機関調査には、いわゆる日本語独習者数は現れません。他国でもルーマニアでも、この独習者の数が一定数いるのではないかという感触はあるのですが、具体的にどのくらいいるのかわかりません。そこで、実態把握の一助になればと考え、主催者の許可を得て、JLPT受験者を対象に日本語学習に関するアンケートの協力をお願いしました。しかし、回答数が思うように伸びなかったのが残念です。

最後に、派遣2年目となる2020年度はCovid-19の影響で業務のオンライン化が推し進められるスタートとなりました。オンラインだからこそできることにも挑戦していきたいと思います。

盛況だった「日本の夜」の写真
盛況だった「日本の夜」

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Bucharest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブカレスト大学の日本語学科は、ルーマニア国内の日本語教育、日本文学研究の中心であり、日本語だけでなく日本文学、日本文化について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語学科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師へのアドバイス等を行う。
所在地 Strada Pitar Moş nr. 7-13, Sector 1, Bucharest
国際交流基金からの派遣者数 専門家: 1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
ブカレスト大学外国語外国文学部東洋言語学科日本語専攻
日本語講座の概要
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