世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)大学と大学生の日常と、日本語講座におけるひとつの変化

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学
下村 朱有美

2019年8月にモスクワに着任した下村と申します。当地ではモスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学(以下、モスクワ国立大学)の1年生の日本語の授業と、国際交流基金モスクワ日本文化センターが実施する日本語講座の運営を担当しています。今回は、大学との日本語講座の様子について紹介したいと思います。

モスクワ国立大学は大変長い歴史がある大学で、日本語の授業が行われる建物も200年ほど前に建てられたものだそうです。日本の大学やさまざまな機関との関わりも多く、大学の構内には立派なお茶室もあります。日本語の先生方も、ロシアの日本語教育に長年関わっていらっしゃったベテランの先生がほとんどです。

そんなモスクワ国立大学の学生、というと、この記事をお読みのみなさまはどのような印象をお持ちでしょうか。実は、私は、担当の授業が始まるまでは真面目で静かで、じっと机に向かって勉強するのが好きな学生たちを勝手に想像していました。しかし、実際に接してみるとわいわい楽しむことが大好きな若者も少なくなく、クラスもアットホームな雰囲気です。アニメやマンガが好きで日本語を始めたという学生もいますが、ロシアと日本との国際関係に興味があって日本語を学んでいる学生や、剣道が好きで日本の武道がもっと知りたいから日本語をマスターしたいという学生、大学に入ってから茶道の奥深さに魅了されたという学生もいます。

日本語のレベルもさまざまで、大学入学前に日本語を学んだ経験のある学生もおり、仲間であり、ライバルでもあるクラスメイトと切磋琢磨して日本語の力をつけていっています。とはいえ、教室の外で日本人と接する機会は限られていて、積極的に日本との関わりを作ることができる学生もいれば、大学の授業以外では全く日本語を使わないという学生もいます。

興味も日本語力もさまざまな学生たちですが、どの学生にも共通していることは、 SNSやインターネットを活用しているということです。私の担当する授業でも、小テストや宿題の提出をオンラインで行うなど、教室で顔を合わせていない時間にも、学生各自のペースで教師とやりとりができるような試みを行っています。 SNSでつながりを作り、インターネットを通じて日本についての情報が容易に手に入るこの時代に、多様な側面から日本や日本語に接する姿勢を身につけられるよう、教室内外でできることを考え、取り組んでいきたいと思います。

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学校舎の写真
モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学校舎

国際交流基金モスクワ日本文化センターが実施する日本語講座では、『まるごと 日本のことばと文化』を使用して6レベルのクラスを開講しています。受講生は会社員、教師、 ITエンジニア、ミュージシャン、交通機関の職員…などなど、さまざまな職業の方がいます。授業は夜間に行われるため、仕事帰りの人も多いのですが、いつも活発に授業に参加しています。

しかし、ロシアでも新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年3月後半から日本語講座で使用している教室が使えなくなったため、急遽、希望者のみを対象にしたオンラインでの授業を行うことになりました。実際に顔を合わせて授業を行えないので工夫が必要なこともありますが、得られたこともありました。例えば、会話練習のグループをランダムに設定することがあるため、ふだんは教室内の離れたところに座っていて、ほとんど話したことのない受講生同士が接する機会もありました。また、自宅にあるものをすぐにクラスメイトに見せることができ、自分で作った料理やお気に入りの服、ペットの猫などが授業内で登場することもあります。アニメのコスプレをして授業に参加した受講生もいます。好きなものについて日本語で話す受講生の様子は大変生き生きとしていて、とても印象的でした。教室での授業が再開となってからも、教室と受講生の世界を日本語でつなげるような活動が何かできないか考えています。また、現在、当講座では6つのレベルでクラスを設定していますが、講座で開講している全レベルのクラスを終えたら日本語の学習も終わり、ではなく、受講生が日本語と接し続けられるよう、この講座では日本語とのつきあい方を考え、実践する場としての役割もあるように感じています。その過程で個々人の学習を記録するポートフォリオや SNSを活用するなど、当地のニーズにあったコース運営や提案をしていければと思います。

2020年1月の日本語講座修了式の写真
2020年1月の日本語講座修了式

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Studies, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
本学は、ロシアを代表するモスクワ国立大学内のアジア・アフリカ地域を対象とした研究・教育機関であり、言語教育の共通シラバス策定も担っている。日本・日本語研究では、文学、日本語教科書の執筆、通訳等、第一線で活躍している教授陣によって教育・指導が行われている。
専門家は本学での日本語クラスの担当とともに、モスクワ日本文化センターの日本語講座の管理運営に携わり、在ロシア日本国大使館への協力も行う。
所在地 Mokhovaya St., 11, Moscow, 125009 Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本語学科
学生は日本語学科に所属するとともに、言語・文学、経済、政治、歴史、それぞれの専攻学科に所属する。
日本語講座の概要
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