世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)大学と大学生の日常と、日本語講座におけるひとつの変化

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学
下村 朱有美

今回は、国際交流基金から日本語専門家が派遣されているモスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学の日本語の先生と学生に新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた後の大学や学生生活について聞いてみました。

まず、1年生の学年主任のルマーク先生にお話をうかがいました。
下村「先生は1年生の学年主任を10年以上なさっているそうですが、今年度の1年生の印象についてお聞かせください」
ルマーク先生「今年度の1年生は例年と同様、9月に入学しました。一時期は全ての授業がオンラインになりましたが、2021年2月からの後期は基本的に教室での対面授業が行われています。学生たちはオンラインの授業や環境に慣れていて、クラスの関係づくりなどにも問題は見られませんでした」
下村「新型コロナウイルス感染拡大の影響で変化したことはありますか」
ルマーク先生「オンラインの授業が行われるようになりましたが、授業で扱う内容については大きな変化はありません。ただ、オンラインでは、教室で学生が板書をするような活動がしにくかったり、部分的にしか扱えなくなった教材もあります。オンラインの授業の際にカメラが使えない人がいて不便だと言う人もいますが、伝えたい情報を効率的に伝えられるとおっしゃる先生もいます。また、紙媒体の配布物が減ったので環境にはいいと言えるかもしれません」
下村「ルマーク先生は、大学でのお仕事のほかに、書籍の翻訳やご執筆などもなさっていますが、そちらのお仕事の状況について教えてください」
ルマーク先生「こちらも特に変化はありませんが、インターネットで見られる素材が増えたように思います。私は翻訳の仕事が多いのであまり影響はありませんでしたが、通訳の仕事は少なくなったそうです」
下村「最後に、今後学生に期待することについてお話しいただけますか」
ルマーク先生「これからも努力を続けてほしいと思います。大学入学前から日本語を勉強していた学生は、大学に入ってからモチベーションが下がってしまうこともあるようですが、今は勉強に使える素材の種類も入手方法も多様化しているので、いろいろなものを活用して努力してほしいです」

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学の教員、ルマーク先生の写真
ルマーク先生(1年生学年主任)

次に、文学部2年生のタチアナさんとアレクセイさんから話を聞くことができました。
下村「まず、学生生活について教えてください」
アレクセイさん「私たちは文学部の2年生で、日本語のほかに日本語学や日本史、世界史などの授業があります。授業は月曜日から土曜日までで、今は教室での対面の授業とオンラインの授業があります」
下村「オンラインの授業が行われるようになって、どのような変化がありましたか」
タチアナさん「オンラインの授業では授業の内容に集中しにくいという問題があります。教室での対面授業だと学生が集中していないと先生はすぐ気づきますが、オンラインの授業でカメラをつけていないと学生が集中しにくくなってしまうことがあります。でも、実家が少し離れていて寮生活をしているので、オンラインの授業のスケジュールによっては実家に帰りやすくなりました」
アレクセイさん「私も似たような問題があります。それに、授業が全部教室での対面授業だった頃は授業が終わってから少し散歩したりしてリラックスする時間もありましたが、今は教室での対面授業とオンラインの授業の時間割の都合で、休む時間が作りにくくなりました。それから、オンラインの授業は夜に行われることもあるので、授業が終わってから宿題をしたりすると、寝る時間が遅くなることもあります。一方で、先生とSNSなどで連絡をとる機会が増えたのはいいことだと思っています」
下村「日本語を勉強するモチベーションや将来の目標に変化はありましたか」
アレクセイさん「やる気や将来の目標に変化はありません。でも、家で過ごす時間が増えた人が多く、日本語の勉強をしてみたいという人も増えたのか、個人レッスンの教師をする機会が多くなりました」
タチアナさん「日本語の教師や翻訳者になりたいという目標は変わっていません。新型コロナウイルスの影響で変わったことも多いですが、学んだこともあると感じています」

モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学の学生、アレクセイさん、タチアナさんの写真
アレクセイさん、タチアナさん(2年生)

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、大学でも変化はあったものの、現在の状況のメリットについても話してくださり、前向きな姿勢でいらっしゃったのが印象的でした。また、オンライン授業やSNSの活用法や課題についても聞くことができました。今後も日本語を学習している方々や、日本語教育に携わっている方々の声を聴きながら、情報提供や意見交換を通して、何か役に立てることはないか考えていきたいと思います。
ルマーク先生、タチアナさん、アレクセイさん、ご協力、ありがとうございました。

(写真撮影時だけマスクをはずしてもらい、撮影時の会話は控えました。また、今回うかがったお話は大学を代表するものではなく、個人的な意見や印象に基づいてお話しいただいたものです)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Studies, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
本学は、ロシアを代表するモスクワ国立大学内のアジア・アフリカ地域を対象とした研究・教育機関であり、言語教育の共通シラバス策定も担っている。日本・日本語研究では、文学、日本語教科書の執筆、通訳等、第一線で活躍している教授陣によって教育・指導が行われている。
専門家は本学での日本語クラスの担当とともに、モスクワ日本文化センターの日本語講座の管理運営に携わり、在ロシア日本国大使館への協力も行う。
所在地 Mokhovaya St., 11, Moscow, 125009 Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本語学科
学生は日本語学科に所属するとともに、言語・文学、経済、政治、歴史、それぞれの専攻学科に所属する。
日本語講座の概要
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