世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)キラキラロシア

モスクワ市立教育大学
黒岩 幸子

Covid-19の広がりにより、世界が闇に包まれたかのように感じた2020年でしたが、筆者は日本にてこれまでと変わらぬロシアのキラキラとした輝きを感じることができました。筆者の業務は大学での日本語授業、広域アドバイザー業務(ロシア全土(極東地域を除く)の日本語教師の方をはじめとした教育支援)に分かれます。

1.モスクワ市立教育大学

最初にご紹介するキラキラは私の配属先であるモスクワ市立教育大学1)と学生です。
ロシアでは2020年3月16日からオンライン授業が始まりました。突然の決定で、最初の週こそ、皆、勝手がわからず大騒ぎでしたが、2週間がすぎ、4月に入るころには落ち着き、軌道に乗ったように思います。困難があってもなんとかしてしまうのがロシアなのでしょう。日頃は「個」を重視しているように見える先生方は、この状況では素晴らしい団結力を見せ、外国人である筆者へもずいぶんと救いの手が差し伸べられました。 
2021年4月現在、一部オンライン授業が残り、対面授業とオンライン授業の両方が行われていますが、この一年、当大学では、学生の授業はもちろん、科学の日のイベント、校内日本語弁論大会、日本の大学との交流会、桜まつり、ロシアの高校生へ向けての言語オリンピアーダ、オープンキャンパス、教師を対象とした学術セミナー、シンポジウム(2021年3月にはロシアCIS日本語教師会、国際交流基金、モスクワ市立教育大学の共催事業、第3回国際学術学会「教育現場における日本語」実施)等がオンラインにて、コロナ前と変わらず実施されています。筆者は2年生の口頭表現のクラスを担当しています。考えたり、コメントをするのが基本的には好きな学生が多く、とても興味深い意見を聞かせてくれます。
とはいえ、この状況が1年も続いており、学生には(おそらく教員にも)疲れも見えます。夏が過ぎ、9月の新年度にはキャンパスに笑顔が溢れることを願っています。

モスクワ市立教育大学教室とロシアCIS日本語教師会論文集の写真
モスクワ市立教育大学教室とロシアCIS日本語教師会論文集

2.ロシアへの日本語教育支援

次のキラキラはもちろんロシアの先生方です。とてもエネルギッシュで、凝り性で、熱心でキラキラではなく、ギラギラかもしれません。

Covid-19の感染拡大により、筆者は2020年4月上旬に日本へ退避一時帰国をすることになりました。上記1.の大学の授業は日本からオンラインでできるものの、ロシアの先生方へは何ができるでしょうか。
結果的には、インターネットがあれば日本から時差はありますが大きな問題はなく、支援業務も続けることができました。この1年間先生方へのオンラインセミナーに力を入れてきましたが、日本の45倍2)の国土を持つ広大なロシアでも、ある程度の規模の都市であればインターネットの接続状況もいいですし、とても効率的な方法でした。大きなものは以下の通りです。

オンライン日本語教師セミナー<日本語教師の日>
2020年6月:JF開発教材『まるごと』の出版元三修社ウェブサイトに教材が期間限定で公開されたのを利用させていただき、ミニ講座を4回開催しました(ロシア内外より63名申込)。ロシアの先生方は知識を取り入れるセミナーを望むだろうと筆者は思い込んでいたのですが、参加者は意外にもディスカッションや他の教師との交流を評価していることが分かり、新たな形のセミナーの計画に移りました。
2020年10月:<日本語教師の日>開始
講師からの情報提供型ではなく、参加者のディスカッションや他の教師との交流を重視した<日本語教師の日>を毎月1回開催、誰でも気軽に好きな時に集まれる場を作りました。テーマは実践的なものを取り上げ、オンライン授業、ひらがな・カタカナ、例文、レベル差のあるクラスなど毎回異なります。これまでに全8回延べ256名の申し込みをいただきました。ロシア全土から、そしてロシア外ではベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、キルギス、ポーランド、アメリカ、日本に住むロシアの方など、いろいろなところからつながるというのはとても興味深く、今後はこれが普通になるのだろうなぁと感じます。若手教師の参加を念頭においていますが、これから教師を目指す大学院生・学部生の参加もあり、日本語教師層の拡大にも役立てばと思っています。
日本語教授法オンライン講座『まるごと』B1編
これまでは入門編としてA1を扱っていましたが、より深く『まるごと』を知りたいとする先生方が増え、新たに実施しました。

オンライン日本語教師セミナー「日本語教師の日」の様子の写真
<日本語教師の日>の様子

3.ユーラシア日本語チャレンジ2021

最後のキラキラは、ロシア語圏の輝きです。ロシア語が通じる地域は非常に広大ですが、これまで毎年秋にロシア各地から10名、CIS諸国より10名を招聘し、ロシア国立中央図書館(レーニン図書館)で壮大なモスクワ国際学生日本語弁論大会3)(在ロシア日本国大使館、ロシアCIS日本語教師会、国際交流基金の共催)を実施してきました。33回目となる今年については、一堂に会するのは不可能、オンライン実施といっても対象となる地域は10時間の時差があります。<ユーラシア日本語チャレンジ2021>として、スピーチ映像を募集、審査となりました(今年は7カ国、20名の作品を本選にて審査しました)。しかし、それだけでは味気なく思い、質疑応答の機会を利用し、少人数のグループに分かれてオンライン上に集まり、交流・ミニ上映会を兼ねることにしました。「自分への挑戦のつもりで参加した」、「他の参加者のスピーチを見るのはとても役立った」、「同じ日本語学習者だから、みんなでいっしょにがんばりたい」等、この機会を自分の学びに生かそうとする姿がとても印象に残りました。大会の様子を期間限定で公開4)、歴史ある大会を次につなげることができました。

2021年4月筆者は1年ぶりにロシアに戻ってくることができました。響きがいいので、キラキラロシアをタイトルに使いましたが、ロシアの先生方、学生の輝きが伝われば幸いです。
ロシアには叙勲を受けられた日本研究、日本語研究の大ベテランの先生方がたくさんいらっしゃいます。日本ではあまり知られていないロシアの日本語教育にご関心を寄せていただければうれしく思います。

  1. 1) モスクワ市立教育大学日本語学科サイト
    モスクワ市立教育大学日本語学科のSNS
  2. 2) 外務省「ロシア連邦(Russian Federation)基礎データ」
  3. 3) モスクワ国際学生日本語弁論大会
  4. 4) YouTube「日本語チャレンジ2021」(期間限定公開)
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Moscow City University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関であるモスクワ市立教育大学(かつてはMoscow City Teachers’ Training Universityであった。現在でも当地では教育大学として認識されている)は、初等・中等教育の教員を専門に育成する教育機関である。
日本語学科では教員養成の他、広く日本語専門家育成のための日本語教育が行われている。
日本語専門家は同大学での授業を担当する他、極東地方を除くロシア全体の日本語教育状況の把握や、ネットワーク構築、教師支援といったアドバイザー業務を行っている。
所在地 Russia, 105064, M.Kazenny per., 5
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
通訳・翻訳学部日本語学科、東洋学部日本語学科
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