世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)初めてのオンライン業務 in ウクライナ

ウクライナ日本センター
小林剛史

本来であれば、2020年3月にウクライナの首都キエフにあるウクライナ日本センター(以下、UAJC)に日本語専門家として派遣される予定であった。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大により現地派遣は一旦延期となり、同年8月より国内業務(日本国内でのオンライン業務)といった形で業務が始まった。筆者は過去にウクライナをはじめ東欧における日本語教育に関して、恥ずかしながら想像もしたこともなく、知識も情報もほぼないという状態であった。さらにオンライン授業も初めてのことだった。業務開始当初は、UAJCにおける日本語教育とウクライナの日本語教育がどういう状況か、それに対して自分がどんなサポートができるかなどを現地講師とやりとりして具体的にしていく作業を行なった。

現在業務の中心は日本語講座の担当である。UAJCでは初級クラス、中級クラス、また短期コースのオンライン会話ジャパニーズというクラスがある。筆者は中級クラスを2つと、オンライン会話ジャパニーズコースを担当している。オンラインで行う講座はZoomを使用している。初めは講師・学習者お互い戸惑うこともあったが、次第にオンラインで授業を行うことに慣れてきて、現在ではこの状況が普通となっていると感じる。筆者が当初困ったことは、まだ会ったことのない学習者と如何にオンラインでやり取りをしていくか、関係性を作っていくかということであった。初めは学習者の特徴や個性、性格も知らないし、学習者によってはインターネット状況や使用している機器が原因で音声のみの参加で、こちらからは反応が読みにくく、そもそも筆者はオンライン授業そのものが良く把握できていなかった。しかしこのような状況ではあったが、時間をかけて少しずつオンラインで授業をすることに慣れ、学習者の特徴や個性も分かり始め、ウクライナに関しても知識が増えていった。

一般的にウクライナ人日本語学習者が日本語を習得したからといって、その語学スキルが直接日本留学や日本や日系企業で就職に繋がることは少ない。では学習者の動機やモチベーションは何かというと、日本文化(広義的に)にあるのではないかと思われる。従って担当している講座では、基本的には教科書に沿って学習を進めて行くのだが、文化的な背景の説明を加えたり、より日本の日常に近いトピックや会話練習、表現などを織り交ぜたりしている。授業では学習者の性格や得意分野にもよるが、会話練習が盛り上がることが多い。テキストに沿った会話よりも、実際的なロールプレイなどタスクを遂行するための会話であったり、ペアで何かテーマについて調べ、発表するといった活動も雰囲気良く行えている。反対に、読む・書くといったことは苦手な学習者が多い。筆者が少し気になった点は漢字に関してである。中級レベルの日本語学習者であれば最低限読めるべき漢字が読めない、という場面がよくみられる。そこで日本語能力試験(以下、JLPT)N3レベルの漢字リストを作成し、範囲を決めて毎週試験を行なっている。その結果、試験があることで学習者も漢字の勉強によりフォーカスするようになったと感じられる。

今後の課題としては、ウクライナ人日本語学習者がUAJCで日本語を学習することで彼らの人生にどんなアドバンテージが生まれるのかを想像し、そのためにはどのような日本語学習を行えばいいのかを考えていきたい。イメージするところ、JLPT対策の日本語学習というよりは、人生を豊かにするための日本語学習である。また、オンラインという形でできることもまだまだあると思うので、今後さらに探っていきたい。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Ukraine-Japan Center "UAJC"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナ日本センター(UAJC)は、キエフ工科大学(KPI)内に事務所が設置されており、主に日本語教育事業、さらに文化交流事業を行っている。図書館も併設されており、1万2千冊ほどの蔵書がある。日本語専門家は、当センターの日本語講座の企画・会計業務を含めた運営、センターの授業を担当する他、現地教師指導や研修などコンサルトタント業務も実施する。適宜、必要に応じてウクライナ日本語教師会に対して側面的支援も行う。また、ウクライナの地方都市に点在する日本語教育機関に対しても、要請があれば教育支援と学習者奨励活動を行っている。
所在地 37, Peremohy Ave. NTUU "KPI", 4th fl., Kyiv, 03056 Ukraine
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年
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