世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)開いていく国、ウズベキスタン

ウズベキスタン日本センター
青木さやか

2021年3月18日、「はじめまして、おひさしぶりです」というおかしな挨拶から、ウズベキスタン日本センターでの専門家としての業務が始まりました。

私が派遣されているウズベキスタン日本センター(以下、UJC)は、ウズベキスタンの首都タシケントの中心部、インターナショナルビジネスセンターの中にあります。UJCは小学生から社会人まで、現在約280名の日本語学習者を広く受け入れ、一般の人々にも広く認知されている、設立20年の歴史を持つNPO法人の人材開発センターです。
本来は2020年の9月から派遣が開始される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延が原因で派遣が延期となり、2021年3月までの半年間、日本からオンライン業務を行いました。その間も現地教師とのミーティング、授業見学やそのフィードバック、UJC教師研修、ウズベキスタン日本語教師会総会、弁論大会などに参加して、ウズベキスタンの教師の方々とやりとりしていました。そのため、ウズベキスタンに到着し、オンラインでしか話したことがなかった方々にやっとお会いすることができたときは本当にうれしく、先述のようなおかしな挨拶を交わし、笑いあったのでした。

写真:UJCから見たタシケント市内
UJCからタシケント市内を望む

ウズベキスタン国内の日本語教育関係者からお話を聞いていく中で、一番多く出てくる話題は「日本語を勉強したい学生はいるが、教師が足りない」「教師の教育技術が未熟だ」というお話です。数年前から、「国を開いていく」という方針で動きはじめたウズベキスタンは、観光や教育に力を入れ、大学の門戸を大きく開き、より多くの学生に教育の機会を与えようとしています。そのため、大学は学生が増えたものの教師の数や教室はそのまま、といった状態が続いているようで、教師の数を増やすこと、特に若手教師の教育技術を養成することが喫緊の課題となっています。UJCではそのような声にこたえ、4月末から、日本語教師歴の浅いウズベキスタン人教師を対象として日本語教師養成コースを開講し、教師育成に力を入れ始めています。

また、サマルカンドやブハラといった世界的にも有名な観光都市をより発展させるため、観光のための日本語も求められています。もちろん、コロナ禍にあって観光関連の日本語がすぐに必要となることはないでしょう。しかし、UJCでは、アフターコロナの世界を見据え、今から観光のための日本語コースを開講するべく検討が行われています。

さらにウズベキスタンの社会的変化として大きいのは、海外へ渡航し技術を提供する人材を育成するための教育・支援機関が増えてきているということです。特定技能実習生として日本へ渡航し労働することを希望しているウズベキスタン人のための日本語教育機関は、国内に、大小合わせて30以上あると考えられます。このような教育機関での日本語教育の実態を調査し、教師や学習者のニーズにこたえるのも、専門家の仕事のひとつだと考えています。

新人教師の養成ももちろん重要なことではありますが、現在大学や各教育機関で日本語を教えている、中堅~ベテラン教師たちのさらなる教育技術向上も、専門家として尽力したいところです。教師会や弁論大会でお話をしたり、UJCで授業見学をしたりする中で、現地教師の教育技術、とくに教育に対する意識の高さに驚かされることがあります。いろいろな教科書に関心を持ち、常にアンテナを張る教師、学習者が楽しめるように教材を何度も改良する教師、学習者を鼓舞し、学習者のロールモデルとして自身の存在を意識している教師。どの教師も「いいえ、まだまだです」とはにかみながら答えますが、努力を積み重ね、試行錯誤しながらここまでやってこられたのだということを感じ、頭が下がる思いです。専門家としての活動が、それらの教師たちの教育活動の一助となり、ウズベキスタン国内の日本語教育のために貢献できればうれしいです。

日本語専門家としての業務はまだ始まったばかりです。コロナ禍で、文化活動やイベントは従来のような規模では実施することができず、今後も思うようにいかないこともあるだろうと思っています。しかし、オンラインではなく、「現地に専門家がいる」ということに、ウズベキスタンの人々に意味を感じていただけるように、持てる力をすべて使って、活動していきたいと思います。

UJCの教室の写真
授業準備をするUJCの教師たち

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Uzbekistan-Japan Center
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウズベキスタン日本センター(UJC)は、国際協力機構(JICA)とウズベキスタン政府との協定に基づき2001年に設立された公益法人である。現在ビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業、聴覚障碍者向けITコースの4事業を活動の柱としている。日本語教育事業では2012年より国際交流基金による事業運営協力が行われており、一般向けの日本語講座を中心に短期特別コースなども開講している。また、教材の現地語化やUJC独自の教師研修、教材制作、日本語能力試験の実施を通じて当国全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地 6th Floor, International Business Center, 107-B, Amir Temur str., Tashkent, 100084, UZBEKISTAN
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年。2010年度に一度中断し、2012年度に派遣再開。
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