日本語教育通信 文法を楽しく 「のだ/んだ」(2) -~んだから、~のなら-
文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。
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「のだ/んだ」(2) -~んだから、~のなら-
前回は「のだ/んだ」の使い方を勉強しました。「のだ/んだ」の基本的な意味は「事情説明」で、「のだ/んだ」はある事柄に対して「理由」や「わけ」を説明するということでした。
今回は、「のだ/んだ」を用いた「~の/んだから」と「~の/んなら」について考えます。
「~んだから」
「~の/んだから」について、話しことばとしては「~んだから」のほうがよく使われるので、ここでは「~んだから」を用いて説明します。
母親が子供たちに言いました。「10時半のバスに乗るから、早く支度しなさい。」
でも、子供たちはぐずぐずしてなかなか準備が進みません。それを見た母親がもう一度言います。「10時半のバスに乗るんだから、早く支度しなさい。」
母親の2回のことばはどこが違っているでしょうか。
a.10時半のバスに乗るから、早く支度しなさい。
b.10時半のバスに乗るんだから、早く支度しなさい。
(1) aでは「乗るから」が使われていますが、(1)bでは「乗るんだから」になっています。(1)aは子供に対する母親からの「はじめて」の指示ですが、(1)bは、「支度するように言われたのに、なかなか支度しない」という「事情」を踏まえて(=事情のうえに立って)の言及になります。
「乗るんだから」を分解すると、「乗る+んだ+から」となります。「んだ」だけでも事情(理由・わけ)を表しているのに、理由を表す「から」が重なって、事情説明、理由説明の意味合いが非常に強くなっています。このことからも、「~んだから」が単なる理由説明ではなく、非常に強調された言い方であることがわかります。
「~んだから」の使い方のポイントをまとめると、次のようになります。
2)後件には、「そういうことだから、~たい、~はずだ、~ほうがいい、~てください」などの、話し手の判断や意志、願望、働きかけなどの表現が来ることが多い。
(1)bでは、10時半のバスに乗ることを言ったのに、子供たちは準備をしない、つまり、バスに乗ることに対しての子供たちの認識が十分でない、そのことに対して、「~んだから」を使って、もう一度強く母親が働きかけているということになります。
ある時、一人の学習者(Pさん)が教師である私に次のように言いました。それを聞いて私は違和感を持ち、少し腹立たしく感じました。
「用事がある」ことを私は知りませんでした。それなのに、「~んだから」を使って、「あなたも知っているが、その認識が十分でない」と言われても、私は納得ができません。むしろ、彼の言っていることが自分勝手で、押し付けがましく聞こえます。
では、練習問題をやってみましょう。次の各問の、aかbか適切なほうを選んでください。
1. A:Bさん、ちょっと。
B:なあに。
A:今日授業を(a.休むから b.休むんだから)、あとでノート見せてね。
B:うん、わかった。
2. A:同窓会の仕事頼まれちゃって。
B:大変なの?
A:うん。
B:でも、(a.引き受けたから b.引き受けたんだから)、しっかりやりなさいね。
3. A:この仕事、頼めるかな?
B:ごめん、今(a.忙しいから b.忙しいんだから)、ちょっと無理。
A:忙しいんだね。わかった。
4. 友達はよく授業を休む。私も時々休みたいと思うこともあるが、せっかく大学に(a.入ったから b.入ったんだから)、ちゃんと授業に出るべきだと考えている。
迷わずにできましたか。迷ったところもありますか。
答えは、1-a、2-b、3-a、4-bです。
1は、Aが授業を休むことをBは知らないので、突然「休むんだから」と言われても、Bには理解できないでしょう。仮に理解できたとしても、押し付けがましく感じるはずです。2で、BはAが同窓会の仕事を頼まれたことを知り、その事実(事情)を踏まえて、頑張るように励ましているのですから、b「引き受けたんだから」が適切になります。
3は、忙しいということはBだけが知っている事情なので、a「忙しいから」になります。ここで「忙しいんだから」を用いると、「私の事情を知っているだろう。知らないのか」というような自分勝手な言い方になります。次にAは「忙しいんだね」と言っていますが、これは、Bの説明を受けて、「ああ、そういう事情なのか」と納得して、「のだ/んだ」を用いています。
4は日記の一節で、特に決まった聞き手はいません。しかし、「大学に入った」ということは「幸せなこと、幸運なこと」で、そのようなことは誰でもが知っていること(常識)と言えます。「そういうことだから、授業に出るべきだ」となって、b「入ったんだから」が適切になります。
このように聞き手が特定の人でなくても、「一般的な常識に基づいて」「皆が知っているように」という判断で「~んだから」が用いられることもあります。4では「幸運にも大学に入ったのに、授業をさぼるのは、常識として残念なことだ」ととらえ、他の学生の認識の不十分さを知らせていると考えられます。
「~のなら」
「~の/んなら」については、「~のなら」を使って説明します。話しことばでは「~んなら」も用いられますが、ややぞんざいに聞こえることがあります。
まず、「なら」の主な用法を復習しましょう。
1.主題トピックを表す
(1)サッカーなら、彼が一番うまい。
(2)ビールなら、高原ビール。
2.仮定を表す
(3)田中さんが来るなら、会は盛り上がるだろう。
(4)留学するなら、タイミングを見て、早く決めたほうがよい。
3.確定していることや相手のことばを受けて
(5)A:これ、もう要らない。
B:要らないのなら、私にちょうだい。
(6)(子供が勉強しないのを見て)
母親:勉強しないのなら、テレビゲームもだめよ。
「なら」を使うか「のなら」を使うかという点では、1は「なら」を、3は「のなら」を使ったほうがよいと言うことができます。2については、通常は「なら」を使いますが、「のなら」も使うことができます。
a.田中さんが来るなら、会は盛り上がるだろう。
b.田中さんが来るのなら、会は盛り上がるだろう。
(3)'aは単に「田中さんが来るかどうかはわからないが、彼が来れば」という単なる仮定を表しますが、(3)'bは田中さんの来ることが決まっている、または、田中さんが来そうな様子である、といった事情や前提があるときに用いられ、「田中さんが来る可能性がある、その場合は・・・」の意味になります。
a.留学するなら、タイミングを見て、早く決めたほうがよい。
b.留学するのなら、タイミングを見て、早く決めたほうがよい。
(4)'aは単に「留学するかどうかはわからないが、もしするとしたら」という仮定の意味ですが、(4)'bは留学することがほぼ決まっている、または、留学する可能性がある、といった事情や前提あるときに用いられ、「留学する可能性がある、その場合は・・・」の意味になります。
このように「2.仮定を表す」の場合は、単なる仮定なのか、可能性のある仮定なのか判断がつかないこともあるので、「の(だ)」があってもなくても、それほど意味が変わらない場合が多いと言えるでしょう。
(市川保子/日本語国際センター客員講師)