授業のヒント アニメ・マンガを通して日本語を楽しく学ぶ
授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。
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学習者とアニメ・マンガ
世界中の若者に日本のアニメ・マンガは大人気です。調査によると、アニメ・マンガ好きの学習者のほとんどは、音声を吹き変えたものよりも、字幕つきのアニメを好んで見ているそうです。そんな学習者は、「アニメで日本語はかわいいと思った。アニメに出てくる日本語を知りたいと思った」「授業で習った言葉や文法をアニメで見て、聞いてわかったのでうれしかった」「アニメやマンガを見て日本に興味を持ち、日本へ行ってみたいと思うようになった」「教科書には載っていない言葉の意味が知りたい」と思っているそうです。つまり、アニメやマンガが日本語学習の動機付けになっていると言えます。
アニメ・マンガを使って日本語を学ぶ
ストーリーテリング
誰でも、自分が好きなものについて話したい、まだ知らない人に教えてあげたいと思うでしょう。アニメ・マンガを使った活動として、「ストーリーテリング」を紹介します。この活動ではアニメ・マンガ作品のストーリーについて、少しまとまった話をします。
作品を紹介するのに必要な情報は(1)登場人物の紹介(2)基本的なストーリー展開です。学習者の日本語レベルが高くなれば、登場人物同士の人間関係や詳しいストーリーの紹介もできるでしょう。まずはペアやグループで自分の好きな作品を紹介しあい、その後、クラスで発表します。
この活動のいい点は、学習者が自分のレベルに合わせて話せることです。例えば、以下のようなパターンを提示すれば、初級の学習者でも話せるでしょう。
- これは
の話です。
は、(どんな人)です。
- <タイトル>は
が・・・をする 話です。
は、(いつ・どこで・だれと・何を)します。
以下は『ドラえもん*』のストーリーテリングの例です。
私は『ドラえもん』を紹介します。
これは、ドラえもんというねこのロボットと、
のび太という男の子の話です。
ドラえもんは未来から来ました。
のび太は小学生で、いつも問題があります。
ドラえもんはポケットの中から便利な道具を出して、
のび太を助けてあげます。
もちろん、そのアニメ・マンガには、その作品にだけ登場する固有名詞や独特の用語がたくさんあるので、日本語でストーリーを話すのは難しいことです。しかし、自分が好きなアニメ・マンガのストーリーなので、学習者の「話したい」という気持ちが非常に強く、日本語の知識を総動員して伝えようとするでしょう。
アニメ・マンガに出てくる日本語を学ぶ
アニメ・マンガで使われている日本語を見ていると、キャラクターごとに特徴的な言葉があることがわかります。例えば、「おじいさん」が「わしは、~じゃ。」のように言ったり、女の子が「あたし、~君がだーい好きっ♡」と言ったりします。アニメやマンガをよく知っている人は、言葉を聞いただけで、誰が話しているか、すぐに想像できます。アニメ・マンガでよく登場するのは、男の子、女の子、野郎、侍、おじいさん、執事、お嬢様、大阪人の8つのキャラクターで、それぞれに特徴的なことばや表現があります。
キャラクター表現と日本語のバリエーション
次の3つの文を比べてみてください。
- (1)そうよ、あたし、知ってるわ。
- (2)そうだよ、ぼく、知ってるよ。
- (3)そうや、わて、知ってんで。
これら3つの文の意味は全て「そうです。私は知っています。」ですが、形が違います。それぞれ誰が話している言葉だと思いますか。「あたし」「ぼく」という一人称や「~わ」「~で」などの文末表現をヒントに考えるといいと思います。答えは(1)女の子 (2)男の子 (3)大阪人です。
キャラクター表現の中でも、特に呼称や文末表現は特徴的です。自己紹介をするとき、お嬢様は「わたくし、~といいますの。」と言うし、侍は「拙者は~と申すものでござる。」と言います。同じ意味の表現にもキャラクターによって色々なバリエーションがあるのです。どんなキャラクターがどんな表現を使うのかがわかってくると、まねしてみたくなりませんか。
ロールプレイ
キャラクターの表現を紹介したら、次は好きなキャラクターになって会話をするロールプレイの活動をしましょう。例えば、下の例は、女の子と大阪人のキャラクター同士の会話です。
女の子:おはよっ
大阪人:まいど
女の子:あなただれなの?
大阪人:わて、田中いいまんねん。
大阪人:われ、何者や?
女の子:あたし、さくら。おじさん、東京の人?
大阪人:いやーちゃうで。大阪やで。
女の子:そっか、ごめんね。なかよくしてね。
大阪人:よろしゅーたのんます。ほな。
女の子:じゃーね♡
この活動のポイントは「なりきる」ことです。高い声で話すのか、低い声で話すのか、スピードはどうかなどに注目し、キャラクターになったつもりで会話することで、キャラクター表現とその音声的な特徴を楽しみながら体感することができます。
アニメ・マンガが好きな学習者は、教師以上にキャラクターになりきったロールプレイができるかもしれません。
活動の前には、簡単な会話で使いそうな表現をキャラクターごとにまとめたハンドアウトを作っておきます。学習者の意見を聞きながら表をつくってもいいし、教師が事前に準備しておいてもいいでしょう。学習者は自分がなってみたいキャラクターを選び、表を見ながらペアで会話を作ります。
男の子 | 女の子 | お嬢様 | 野郎 | |
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おはよう | おはよう | おはよっ | ごきげんよう | オッス |
さようなら | バイバイ | じゃーね♡ | ごきげんよう | あばよ |
はい、 そうです |
うん、 そうだよ |
うん、 そうよ |
ええ、 そうですわ |
ああ、 そうだぜ |
いいえ、 ちがいます |
ううん、 違うよ |
ううん、 違うわよ |
いいえ、 そのようなことはなくってよ |
そりゃ、 でまかせだぜ |
学習者は自分で表を見ながらなってみたいキャラクターの表現を探してペアで会話を練習します。
「アニメ・マンガの日本語」Webサイト
関西国際センターでは、アニメ・マンガに現れる日本語を楽しく学べるwebサイト「アニメ・マンガの日本語」(http://anime-manga.jp) を制作しました。
(トップ画面)
(Character Expressions)
「Character Expressions」はいろいろなキャラクターの表現の違いを知ることができるコンテンツです。音声も聞けるので、キャラクター表現をクラスで扱うときは、ぜひ参考にしてみてください。
【参考資料】
- 熊野七絵(2010)「日本語学習者とアニメ・マンガ~聞き取り調査結果から見える現状とニーズ~」『広島大学留学生センター紀要』20号、89-103
- 熊野七絵(2010)「趣味から日本語学習への架け橋「アニメ・マンガの日本語」Webサイト開発~」『日本語学』29-4、60-69
* 『ドラえもん』作:藤子・F・不二雄
(川嶋恵子/関西国際センター日本語教育専門員)