日本語教育通信 授業のヒント アフレコにチャレンジしよう

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

アフレコにチャレンジしよう

概要
目的
  • 話し言葉と日本人の話すスピードに慣れる。
  • 日本語らしいイントネーションで表現豊かに話す。
学習者のタイプ
  • 初級から上級
クラスの人数
  • 何人でも
準備するもの
  • パソコン、プロジェクターまたはモニター、台詞原稿

 アフレコとはアフター・レコーディングの略で、ドラマや映画の撮影の際、セリフを同時録音しないで、後から録音することを言います。アニメの多くはこの方法で録音されていて、キャラクターの口の動きに合わせて台詞を付けています。

活動の流れ

 学習者に興味のあるビデオまたはマンガを準備してください。アフレコをする時間は長すぎず短すぎず3~5分ぐらいがいいでしょう。①アフレコする部分を何回か声入りで学習者に見せましょう。この時、②話の内容を確認しましょう。③クラス内の学習者をグループに分けましょう。④誰がどの役の声を担当するかグループで話し合って決めましょう。登場人物の数より学習者が少ない場合には一人二役、三役することで対応しましょう。⑤まず、一人ずつ個別に練習し、話すスピードに慣れてきたら、⑥グループ全員で声合わせをしましょう。そして⑦発表会を開き披露し合います。どんな発表になったかを教師だけでなく学習者同士でも評価(映像に声が合っていたか、表現豊かな声だったか、聴衆を引き込む魅力を感じたかなど)し合いましょう。

活動のポイント

  • どの役を誰が担当するかなど学習者が主体的に関われるようにしましょう。そうすることで活動に対して積極的に取り組むようになります。
  • 「食べちゃう」「食べとく」などの縮約表現、「いらっしゃる」などの敬語表現、「食べたり飲んだりする」などの文型、「出席の取り方(学校生活)」などの日本社会文化に焦点をあてたアフレコ学習も可能です。適宜、素材を上手に選んで、挑戦してみましょう。
  • 素材が学習者にとって興味を引くものであり、学びたいものであることが大切です。
  • 教師による素材の内容確認や学習者のグループ分けなどはクラスの中で行いますが、個人でできる発話練習はクラス外で行うといいでしょう。

 活動の流れの中で記したビデオとマンガの例を以下に紹介します。

ビデオ素材を使ったアフレコ例

 ビデオ素材の例として学習用の映像素材WEB版「エリンが挑戦!にほんごできます。」(以下、WEB「エリン」)※1を使った例を紹介しましょう。WEB「エリン」には映像を見ながらセリフを付けたり消したりできる字幕機能があります。それを使って効果的に練習しましょう。ビデオの長さが3~5分の場合、練習時間は1時間程度設けましょう。

セリフを付けたり消したりできる字幕機能(WEB「エリン」第11課基本スキットより)映像部分
セリフを付けたり消したりできる字幕機能(WEB「エリン」第11課基本スキットより)字幕部分
セリフを付けたり消したりできる字幕機能(WEB「エリン」第11課基本スキットより)

 動画再生速度が遅い場合はサイト内のマンガというタブをクリックして、動画の代わりにセリフ入りの紙面を印刷して使うといいでしょう。これは、WEBにアクセスできない環境で練習するときにも使えます。
 マンガのふき出し部分ですが、学習者が日本語学習歴が浅く、まだ平仮名カタカナ程度しか読めない場合は「にほんご(かな)」表示に、平仮名の学習もまだ十分でない場合は「Nihongo(Romaji)」表示にし、印刷したもので練習するといいでしょう。

漢字仮名混じり文の表示(WEB「エリン」第11課マンガ部分)の画像
漢字仮名混じり文の表示(WEB「エリン」第11課マンガ部分)

ローマ字文の表示(WEB「エリン」第11課マンガ部分)の画像
ローマ字文の表示(WEB「エリン」第11課マンガ部分)

マンガ素材を使ったアフレコ例

 マンガアフレコの例として「アニメ・マンガの日本語」※2を使った例を紹介しましょう。マンガのふき出しをクリックすることでセリフや効果音を聞くことができます。一人ずつ個別に練習する際にはネット接続できるパソコンで練習したり、マンガ部分を印刷したりして練習するといいでしょう。ビデオのように動画ではないため、流れる動きや発話の際の間の取り方など連続的な動きは出しにくいのですが、1コマごとのセリフはシーンに合っているので、内容が理解しやすいと思います。また、「アニメ・マンガの日本語」にはCharacter Expressionsというコーナーがあり、お年寄り、少年、侍、大阪のおじさんなど色々なキャラクターの声、話し方の特徴などが体験できます。アフレコ実践の前にその楽しさを感じさせ動機付けを高めるといいでしょう。

より日本語レベルの高い学習者向けに

 授業回数に余裕があり、自力で台詞作成ができる中級以上の学習者には、ビデオライブラリーとして教師がいくつかの動画素材を用意しておき、学習者に自由に選ばせるやり方があります。この場合には学習者に台詞作りをさせ、教師はそのチェック、意味内容確認、イントネーションなど発音指導を行うことになります。

アフレコ学習の効果

  • 学習者にとりアニメやドラマは興味を抱きやすい素材であること、また色々なキャラクターになりきることができるため、学習者は楽しみながら会話表現に親しむことができます。
  • 何度も模倣練習を行うため、アクセントやイントネーションなど日本人に近い発音ができるようになります。日本語学習歴が短くとも発音面、感情表現において一定の効果をあげることができます。
  • セリフを覚え流暢に言えることで場面に応じた様々な表現をタイミングよく発話することが期待できます。
  • このアフレコ学習は漢字が読めなくても音を通して学習できる点で、極々初級の学習者から上級の学習者まで十分に教材として利用でき、学習効果が期待できます。ぜひ一度試してみてください。

【参考文献】

  • 塚本美恵子(1995)「私の授業:映画の吹き替え授業」JACET全国大会要綱

(栗原 幸則/関西国際センター日本語教育専門員)

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