日本語教育通信 授業のヒント
クリエイティビティを発揮して、日本語のウェブサイトで動画作品を作ってみよう!

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

クリエイティビティを発揮して、日本語のウェブサイトで動画作品を作ってみよう!

概要
目的
  • クリエイティブな創作活動に日本語で取り組む
対象とするレベル
  • JF日本語教育スタンダードのA2レベル以上
クラスの人数
  • 何人でも
準備するもの
  • インターネット接続のできるスマートフォンやパソコン
    (教室で提示する場合にはプロジェクターも)

日本語授業で動画を活用する方法とは

 動画を使った日本語の授業というと、動画を見て内容理解をしたり、出てくる文法・文型や日本文化・日本事情について学んだり、動画に合わせてアフレコや予測する活動をしたりといった、既存の動画を素材にした活動が多く行われていると思います(※)。
 このような動画の使い方も学習効果を高める大切な活動ですが、最近は子どもの頃からテレビやインターネットを通して動画に慣れ親しんでいる世代が増え、パソコンやスマートフォンを使って手軽に動画編集もできるようになってきました。私たちを取り巻くメディア環境の大きな変化に合わせて、学習者自身が日本語のサイトを使って動画作品作りにチャレンジする日本語授業をしてみませんか?
 今回は、学習者の主体性と表現力を発揮して、クリエイティブに日本語の動画作品を作る授業のヒントを紹介します。

動画制作活動の目的とねらい

 今回紹介する活動は、日本語のサイト上で動画作品を作ることが目的ですが、そのためにサイト上の日本語の説明を読んだり、日本語テキストを入力したりする活動を行うことになります。このようなクリエイティブな創作活動に、日本語を使って取り組むことがポイントです。学習者は「私だけのオリジナル作品を作る!」という明確な目的を持つことによって、“日本語学習”であることをあまり意識しないで活動に取り組めることでしょう。また、日本語で発信できる作品を作り達成感を得ることも、この活動のねらいの一つです。

活動 日本語のサイトを使ってグリーティング動画を作ってみよう

 年賀状や暑中見舞いといったグリーティングカードを作る活動は、みなさんも日本語授業にとり入れたことがあるかもしれませんね。最近はネットやメールで送れるグリーティングカードの無料サービスもありますので、母語でそのようなカードを作って送ったことのある学習者も多いと思います。日本語のサイトでグリーティング動画作りに挑戦する活動は、学習者が意欲的に日本語のサイトを読んだり入力したりできる活動で、大きな自信につながると思います。
 授業でグリーティング動画を作る際は、学習者に好きなサイトを探させるのではなくて、サイトを指定して使わせたほうが、教師は学習者の動きが把握できます。教師は、無料提供のサイトであること、素材が豊富にあること、ユーザー登録が不要であること、著作権上違法な素材や教育上不適切な素材が含まれていないことなどを事前によく確認しましょう。
 上に挙げた条件をクリアしていて、かつ、サイト上で簡単に編集が行えるサイトを紹介します。
 「NHKクリエイティブ・ライブラリー」(http://www.nhk.or.jp/archives/creative/)は、NHKの番組から切り出した約5300本の映像や音声素材を無料で提供しているサイトです。動画編集ソフトを使わなくてもこのサイト上で動画や音声を編集でき、サイト内の作品投稿のページで、作成した作品を公開することができます。これらのステップは非常に簡単で、動画編集スキルのないユーザーでも使いやすいものになっています。
 学習者の日本語レベルがA2レベル(初級後半)ぐらいでまだ“生”の日本語に慣れていない場合は、いきなりサイトを使わせるのではなくて、画面上の「テーマ説明」、「サンプルムービー」、「つくりかた」までを簡単にクラス全体で確認するといいでしょう。日本語サイトの“生”の説明を読んでみることに挑戦させてもいいですが、学習者の「すぐ作ってみたい!」と思う気持ちを大切にして、母語の説明も混ぜながら簡単に「つくりかた」の確認をするぐらいでも十分です。

NHKクリエイティブ・ライブラリーの画像
NHKクリエイティブ・ライブラリー

「グリーティング動画」の画面の画像
「グリーティング動画」の画面

STEP1.セット選択】

 6種類のテンプレートから1つ選びます。最初のテンプレートにはないグリーティング(たとえば、バレンタインデー、入学や卒業のあいさつ、特別なお祝いの日、など)もカット(動画)を変更することで自由に作ることができます。

「STEP1.セット選択」の画面の画像
STEP1.セット選択」の画面

STEP2.編集】

 カット(動画)を変更したりスタンプを入れたり、オリジナルのメッセージを入力したりすることができます。カットを追加したり、BGMを入れたりすることもできます。

「STEP2.編集」の画面の画像
STEP2.編集」の画面

STEP3.投稿/保存】

 編集中の動画を「プレビュー」で再生して確かめることができます。完成したら、投稿か保存をしましょう。

 完成したグリーティング動画は、このサイトで公開することができますので、学習者は「私の動画作品が日本のサイトに載った!」という達成感を感じられるでしょう。また、サイトに公開されたら、そのページをTwitterFacebookGoogle+などのSNSで共有することもできます。ただ、投稿した作品がNHKクリエイティブ・ライブラリーに公開されるまでは1週間~10日ほどかかりますので、すぐクラス全体で見たい場合は、編集データを保存して教室内で再生しましょう。データはjson形式のファイルで保存されます。
 動画作りに取り組む前に、作品作りの過程や作品の内容について学習者と評価ポイントを話し合って決めると、学習者の主体性がより発揮できていいですね。評価ポイントを決めておけば、その条件の中でそれぞれがアイディアを出し合って、オリジナルの作品を作ることができるでしょう。学習者と決めた評価ポイントをもとに、講評しあったりコンテストを行ったりするといいと思います。

日本語のウェブサイトを使った動画制作活動によって得られるもの

 既存の動画を素材にして内容理解をする授業活動の良い点として、「“生”の、“自然”な日本語に触れることができる」、「説明だけでは伝わりにくい日本文化や日本事情について理解が深まる」、「映像で見た内容は印象に残りやすい」といったメリットがよく挙げられます。今回紹介した活動では、学習者はオリジナルの作品を作るという意識で主体的に動画を見るため、上に挙げた動画を使った活動の良い点がより強まるかもしれません。
 日本語のサイトを使って動画作品を作る活動では、「サイト上の説明、アイコンやボタンの日本語を読んで、理解することができる」、「サイト上の指示にしたがって、日本語を入力することができる」といった機会が生まれるだけでなく、学習者に選択権を与えることによって、学習者が主体的に活動に取り組み、表現力を発揮できる機会を与えることができます。また、自分で作成した動画作品を日本のサイトで公開して多くの人に見てもらえるという、リアルなインターアクションにもつながる活動ですので、その達成感から学習意欲も高まることでしょう。

 ※動画を使った日本語授業については、「ビデオ教材の使い方(2004年5月)【PDF:640KB】」、「ビデオ教材の使い方(2)(2004年10月)【PDF:204KB】」もご覧ください。

(羽吹 幸/日本語国際センター専任講師)

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