日本語教育通信 授業のヒント
音声学習の機会を増やす

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

概要
目的
  • 日本語の自然な韻律の仕組みを理解する
  • 相手に聞きやすい話し方をすることができる
対象とするレベル
  • レベルを問わない
準備するもの
  • インターネット接続のできるスマートフォンやパソコン、スピーカー
    (教室で提示する場合は)プロジェクター

発音の指導は難しい?

 多くの学習者には「日本語らしい話し方を身につけたい」という思いがある一方、「教える自信がない」といった教師の事情から、日本語音声の特徴を学ぶ機会はあまり多くないようです。特に、海外のノンネイティブ日本語教師にとって、発音の指導は難しいのではないでしょうか。今ではインターネット上にあるさまざまな音声にアクセスできるようになりましたが、指導に適した素材や学習者の関心にあった素材を探すのは一苦労です。

 発音指導には、個々の母音や子音など「単音」を扱うものと、アクセント・ポーズ・イントネーションなどの「韻律」を扱うものがあります。発音というと「単音」をイメージしがちですが、日本語音声の評価には「韻律」の与える影響の方が大きいことが知られています(佐藤 1995)。

 今回は「韻律」に注目し、テキストを共通語で読むために必要な韻律を可視化し、そのとおりに読んだモデル音声を作成するツールを活用して、「聞きやすい話し方」を意識した授業を行うアイデアを紹介します。学習者の作文を音声化できれば、教師が手本を示さなくても、また、母語話者に頼むのが難しい環境でも、手軽に発音指導を授業に取り入れることができます。積極的に活用して、音声学習の機会を増やしましょう。

韻律読み上げチュータ スズキクン

 オンライン日本語アクセント辞書のOJAD(http://www.gavo.t.u-tokyo.ac.jp/ojad/)には、入力したテキストの読み上げ音声を作成する機能があります。図1の赤い矢印の先に、「OJAD 4機能」という部分があります。この一番下にある、「韻律読み上げチュータ スズキクン」をクリックしましょう※1

OJADのトップ画面
図1 OJADのトップ画面(赤い矢印は説明のために追加したものです)

テキストは、以下の3ステップで音声化できます。

  • 1.テキストボックスに文章を入力します。試しに「私の趣味は走ることで、週末は、公園でランニングしています。」と入力してみましょう(図2 [1])。
  • 2.[実行] ボタンを押します(図2 [2])。すると下に新しい画面が現れます。
  • 3.[作成] ボタンを押します。(図2 [3])

「韻律読み上げチュータ スズキクン」の画面
図2 「韻律読み上げチュータ スズキクン」の画面

 [作成] ボタンを押すと、入力したテキストの音声が作られると同時に、色々なボタンが現れます(図3)。その中の[再生] ボタンを押すと、音声を聞くことができます。[保存] ボタンを押すと、音声がダウンロードできます。「話者」では女性(F)と男性(M)の声を選ぶことができ、「話速」は Normal, Slow, Fastの3段階で変更できます。「話者」「話速」を変更したときは、もういちど[作成] ボタンを押してモデル音声に反映させましょう。

スズキクンにある色々な操作ボタン画像
図3 スズキクンにある色々な操作ボタン

視覚的な韻律理解のサポート

 スズキクンを使えば、声の高さの動き(韻律)を「見て」確認することができるので、日本語音声の特徴を理解しやすくなります。スズキクンでは、読点「、」・コンマ「,」・スラッシュ「/」などで句切られたテキストのまとまりを「フレーズ(句)」と呼び、韻律はこのフレーズに対して表示されます。図4の二種類の線(1と2)は、この韻律を視覚的に表したもので、韻律学習に配慮されたOJADの大きな特徴です。

スズキクンによる視覚的な韻律理解のサポート図解
図4 スズキクンによる視覚的な韻律理解のサポート

 1の線は、そのフレーズで「声を高くする」文字の上に引かれています。赤い文字は次の文字で声を低くする大切なポイントで、「アクセント」です。図4「週末は」のように、フレーズを構成する語によってはアクセントが無いこともあります。網掛け部分の文字は、母音が無声化する(声が出ない)部分です。母音の無声化について、詳しくは国際交流基金(2009)をご覧ください。

 2の線は、より現実的な声の高さの変化を表した「ピッチカーブ」で、フレーズごとに句切られています。フレーズ内の韻律は、最初に声の高さが上がった後、徐々に下がっていきます。フレーズ内に複数のアクセントがある場合でも、2つめ以降のアクセントによる声の高さは、1つめのそれよりも低くなります(図4 「私の趣味は走ることで」参照)。このようなピッチカーブの動きも、日本語音声の特徴のひとつです。

 スズキクンにテキストを入力するときは、ひらがなをできるだけ漢字に変換しましょう。例えば「箸を持って、橋の端を渡る。」という文には3つの「はし」(箸・橋・端)がありますが、全てアクセントが違います。全てひらがなで入力すると、「はし」が何なのかわからないため、スズキクンは間違った結果を示してしまいます。しかし、漢字で入力すると、表すものの違いが明確になるので、ピッチカーブや音声にも正しく反映されます。また、Webや書籍などのテキストを使う場合、そのままでは句読点の間隔が長いことがあります。適宜、句読点を追加してフレーズの句切りを設定してから、入力しましょう。

「聞きやすい話し方」を指導するポイント

 「聞きやすい話し方」をするためには、伝える内容を適切なフレーズで句切ること、フレーズの中ではピッチカーブとアクセントを意識すること、が重要です。スズキクンをうまく使うことで、「聞きやすい話し方」を指導することができるでしょう。ここでは、その指導ポイントをまとめます。

1.韻律の重要性を実感する

 ゆっくり言えば聞きやすいと思うかもしれませんが、実は全体の話す速さよりも適切なフレーズで句切れているか(ポーズがあるか)の方が重要です。そのことを学習者に理解してもらうために、句読点を入れない場合と入れた場合で比較した音声素材を作成し、それを学習者に聞かせ、ポーズの重要性を実感してもらいましょう。その後にピッチカーブを見せて、フレーズでの声の高さの変化とアクセントを意識させます(図5)。

 図5をみると、上の例と比較して、下の例では第2・第3フレーズの始まりで、直前のフレーズの終わりから声の高さがリセットされて上がっていることがわかります。こういったことも、目と耳で確認することができます。適切な韻律がいかに聞きやすい音声にとって大切か、実感と意識付けの機会を作ります。

「私の趣味は走ることで週末は公園でランニングしています」の韻律比較画像
図5 句読点の有無を比較する音声素材の例

2.ピッチカーブに慣れる

 視覚的なサポートを有効に活用し、ピッチカーブに慣れる時間を作りましょう。まずは、モデル音声を使ってピッチカーブを見ながらリピーティングやシャドーイングをします。短い1つのフレーズから声の高さの変化を練習し、徐々に長くしてポーズの感覚も合わせて指導すると良いでしょう。フレーズにアクセントがある場合と無い場合を用意することで、日本語音声の特徴を整理します。

3.オリジナルのスピーチモデルを作る

 学習者の作文から音声を作り、これをモデルとして発音練習をしましょう。正しい音声素材にするために、教師は文法・漢字・句読点をチェックします。句読点は、助詞「は」や接続詞・接続助詞などの後に入れると、聞きやすくなります。

 スズキクンへの入力は、学習者が行うと日本語入力の練習にもなります。オリジナルのスピーチモデルを作ることで、口頭発表活動に取り組む意欲が一層高くなることが期待できます。

4.学習者同士の評価の機会を作る

 スズキクンは「強調」や「メリハリ」をつけることはできません。どうすればできるようになるか、ピッチカーブを見ながら皆で考えてみることもできるでしょう。

 例えば、ピッチカーブを印刷して各自で練習を行ったあと、ピア/グループで評価する機会を作りましょう。主なチェックポイントは、フレーズごとにポーズが置かれているか、声の高さはピッチカーブに沿っているか、といった基本に加えて、大事な部分が「強調」されているか、です。学習者は音声の何に注目すれば良いかが焦点化され、視覚補助もあるため、耳の良い学習者は教師よりも的確な指摘をするかもしれません。相互のフィードバックから新たに気づかされることを通して、さらに良い練習につながります。

5.達成感を得る機会を作る

 ICレコーダー等を使えば、自分のスピーチの変化を聞き比べることができるので、学習者は大きな達成感を得ることができます。授業の最初に自分の読み上げ音声を録音して保存しておき、韻律を意識した発音練習をします。練習後、再度自分の音声を録音して、最初に録音した音声と比べて聞くことで、その違いを成果として実感させます。練習すれば上達することを明確に示して、楽しい授業にしましょう!

 音声を可視化して授業に取り入れると、指導がより具体的になります。柔軟に音声素材を作成することができるスズキクンは、アイデアと工夫次第で授業にうまく活用することができます。皆さんも、ぜひ音声学習に楽しく親しむ機会を授業に取り入れてみてください※2

【参考資料】

  • Online Japanese Accent Dictionary (http://www.gavo.t.u-tokyo.ac.jp/ojad/)
  • 国際交流基金(2009)『国際交流基金 日本語教授法シリーズ2 音声を教える』ひつじ書房.
  • 佐藤友則(1995)「単音と韻律が日本語音声の評価に与える影響力の比較」『世界の日本語教育』5, pp. 139-154.
  • 中川千恵子・中川則子(2010)『初級文型でできる にほんご発音アクティビティ』アスク出版.
  • 中川千恵子・中村則子・許舜貞(2013)『さらに進んだスピーチ・プレゼンのための日本語発音練習帳』ひつじ書房.
  • 中川千恵子・木原郁子・赤木浩文・篠原亜紀(2015)『伝わる発音が身につく!にほんご話し方トレーニング 中・上級レベル』アスク出版.
  1. ※1ちなみに、「スズキクン」という命名は、このプログラムを作った方の名前に由来しているそうです。また、人名にすることで、このシステム自体もまた学習者である(たまには間違えることもある)、という意図が込められているそうです。
  2. ※2OJADについてもっと詳しく知りたい方は、facebookページにもアクセスすると良いでしょう(OJADのトップ画面からアクセスできます)。世界中で開催されている講習会の情報が掲載されています。

(波多野 博顕/日本語国際センター専任講師)

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