日本語教育通信 授業のヒント
「質問」で授業は変わる?学習者の自由な答えを引き出す工夫 - 初級の読みの活動を例に -

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

 初級で読みの活動を行うとき、皆さんはどのような質問をしていますか。文の意味や内容、話の流れなどを確認するために、さまざまな形式の質問をしていると思います。しかし、書かれている内容や意味を確認するだけでは、学習者にとって受動的な活動となり、学習者自身が能動的に考える豊かな読みにはつながりません。教師の質問によって、読みの活動であっても、学習者の自由な発想を引き出し、意味のあるやりとりを行う活動へと広げることができます。今回は、そんな授業のヒントをご紹介します。

質問の種類を意識しよう
Display Question”と“Referential Question

教師が学習者に質問をしているイメージ画像

 教師は教室の中で、説明、指示、質問、訂正、励ましなど、さまざまな発話をしています。その中で、教師からの質問は、学習者の発話や学習意欲を引き出すための重要な役割を担っています。しかし、質問の種類や性質によっては、学習者の発話内容を制限したり、学習者が自由に考えるチャンスを奪ってしまうことがあります。

 教師の質問に関しては、さまざまな観点からの枠組が提唱されていますが、今回は大きく、Display QuestionReferential Questionに分けて考えてみましょう。

 初級の授業において、次のような文を読みました。皆さんはこの後、学習者にどのような質問をしますか。

さかいさんの やすみの日

さかいさんがごみが落ちている部屋で掃除機をかけている画像

せんしゅうの 土よう日に つまは 買いものに いきました。
わたしは うちで そうじを しました。
わたしは そうじが あまり すきじゃないです。たいへんでした。

『まるごと 日本のことばと文化』入門(りかい編)P156を一部変更

 例えば、「さかいさんは、先週の土曜日に何をしましたか。/どうでしたか。」、「あなたは先週の土曜日に何をしましたか。/どうでしたか。」などの質問が考えられるでしょうか。

 前者のような、本文中に答えがあり、学習者が内容を理解したかどうか確認する質問を、Display Question(以下、DQ)といいます。DQは、すでに答えが決まっている(教師は答えを知っている)ことを聞く質問なので、学習者は、「教師が求める正しい答えを探す」ことになります。一方、後者のような、本文中に答えがない学習者自身のことや、学習者の個人の意見や考えを聞く質問を、Referential Question(以下、RQ)といいます。RQは、正しい答えがない(教師も答えを知らない)ことを聞く質問なので、学習者は、「自分のことを言おう、自分の考えを伝えよう」ということに意識が向きます。ある研究では、教師の教室での質問は、DQが非常に多いことや、DQによる質問は、学習者の答えが短く短絡的になる傾向があることが指摘されています。授業では、DQだけではなくRQも積極的に使い、学習者が自分自身で考えたり、自由な発想をしたりできるよう工夫することが大切です。そうすることで、教室内での学習者の発話が増え、双方向的で意味のある、より活発なやりとりが起こる授業になるでしょう。

いろいろなReferential Question

 では、先ほどの例では、他にどのような質問が考えられますか。

さかいさんの やすみの日

さかいさんがごみが落ちている部屋で掃除機をかけている画像

せんしゅうの 土よう日に つまは 買いものに いきました。
わたしは うちで そうじを しました。
わたしは そうじが あまり すきじゃないです。たいへんでした。

『まるごと 日本のことばと文化』入門(りかい編)P156を一部変更

 以下は、執筆者が考えた質問例です。1と2はDQ、3~5はRQによる質問例です。皆さんだったら、それぞれの質問にどのように答えますか。考えてみましょう。

DQRQの質問例>

  1. 1.さかいさんは、先週の土曜日に、何をしましたか。どうでしたか。
  2. 2.さかいさんの妻は、先週の土曜日に、何をしましたか。
  3. 3.さかいさんの妻は、どうして買いものに行ったと思いますか。
  4. 4.さかいさんがそうじをしたのは、どうしてでしょうか。
  5. 5.あなたは先週の土曜日に、何をしましたか。どうでしたか。

 1と2はDQなので、答えは本文の中にあります。DQのような質問をすることで、教師は、学習者が、本文をどの程度理解できているか、確認することができます。3~5はRQなので、学習者が答えを自由に考える質問です。皆さんはどのように答えましたか。DQの質問では考えないような、より具体的な場面を想像して答えたのではないでしょうか。

 3や4のようなRQの質問をすると、学習者は、本文を行ったり来たりしながら答えを探そうとします。そして、本文の中に書かれていない場面や文脈を想像し、自分なりの答えを自由に考えはじめます。例えば、3では、「二人はけんかをしたので、妻は一人で買いものに行きました。」、4では、「さかいさんは部屋を汚してしまいました。妻に見つからないように、一人でそうじしました。」などといった答えが返ってくるかもしれません。他にもいろいろな答えが考えられますが、そこで教師が答えを1つに絞る必要はありません。もし、学習者がなかなか考えられなかったら、教師が答えの例を示すのもいいでしょう。教師も自由に自分の考えを話すことで、教師と学習者との間に、より意味のあるやりとりが生まれます。また、その後に、5のような、学習者自身のことを聞くRQをすると、学習者は、今度は自分のことに結びつけて考えます。3や4で、より具体的な場面を想像して考えたことで、自分のことについて考える際にも、より深く考えるようになるでしょう。このように、RQによる質問は、学習者の教材に対する意識を高め、より深い理解や思考を促すことにつながります。なお、RQによる質問は、母語でやりとりしてもかまいません。

練習:DQRQを考えてみよう

(1)次の文はミラーさんの日記です。どのようなDQRQが考えられますか。

1月1日 金曜日 曇り

田中君、高橋君と いっしょに 京都の 神社へ 行った。古くて、大きい 神社だった。人が 多くて、にぎやかだった。着物の 女の 人が たくさん いた。とても きれいだった。田中君と 高橋君は 神社の 前の 箱に お金を 入れた。それから みんなで 写真を 撮ったり、お土産を 買ったり した。天気は あまり よくなかったが、暖かかった。うちへ 帰ってから、アメリカの 家族に 電話を かけた。みんな 元気だった。

『みんなの日本語初級Ⅰ 第2版 本冊』P177 問題6.「日記」より

(2)以下は、執筆者が考えた質問例です。DQはどれですか。RQはどれですか。

  1. 1.ミラーさんは、いつ、どこへ行きましたか。だれと行きましたか。
  2. 2. 神社はどうでしたか。
  3. 3. ミラーさんは、神社で何をしましたか。
  4. 4. ミラーさんは、どんな写真をとったでしょうか。
  5. 5. ミラーさんは、どうして家族に電話をかけたと思いますか。
  6. 6. あなたは、1月1日に、だれと、何をしますか。
  7. 7. あなたは、どんなとき、家族に電話をかけますか。

 1~3が、本文の中に答えがあるDQ、4~7が、学習者が自由に答えを考えるRQです。皆さんだったら、RQの質問にどのように答えますか。

 例えば、4では、「着物の女の人と一緒に」「神社の前でみんなで並んで」などでしょうか。実際に神社に行ったことがある学習者がいたら、「おみくじを引いて、がっかりしているところ」「田中君と高橋君がお願いしているところ」など、もっとたくさんの答えが返ってくるかもしれません。5では、「神社で家族をたくさん見て、寂しくなったから」「毎年、1月1日は、家族と一緒に過ごしているから」「毎日電話をかけているから」などが考えられるでしょうか。どちらのRQも、学習者は、本文を何度も読み返したり、背景を想像したり、自分の経験と照らし合わせたりしながら、自分なりの答えを考えることでしょう。また、6や7のようなRQでは、質問に答えてもらった後に、さらに、「どうして(それを)するのか」、「どうして(その時に)電話をかけるのか」などの追加質問をすると、より深いやりとりへとつながります。

 もちろん、これらすべての質問をする必要はありません。学習者の様子を見ながら、質問数を調整してください。また、一つのRQを選んで、それについてクラス全体で深く話し合う活動をしてもいいと思います。

質問上手になろう!

 質問は、やりとりを通して学習者の発話を促し、より深い理解や思考を促す有効な手段の一つです。授業準備のときに、どんな質問をしたら学習者の理解が深まるか、より自由な発想を引き出せるかを考えながら、質問を作ってみましょう。そうして考えた質問を、DQRQに分類し、どちらか一方に偏っていないか見てみてください。RQのような質問を取り入れることで、読解などの受け身的になりがちな活動も、いきいきとした授業になるはずです。ぜひ明日の授業から質問の種類を意識し、学習者のより主体的な取り組みを引き出す工夫をしましょう!

参考文献:

  • クレイグ・ショードロン(2002)『第2言語クラスルーム研究』田中春海・吉岡薫共訳、リーベル出版
  • 小山義徳他(2016)「教師の発問に関する学際的考察‐教育学、日本語学、教育心理学の立場から‐」『千葉大学教育学部研究紀要』第64巻
  • 中嶋洋一(2010)「『発問』の処方箋ア・ラ・カルト‐発問はアートである‐」『英語教育』4月号
  • 横溝紳一郎(2011)『日本語教師のためのTIPS77第1巻 クラスルーム運営』くろしお出版
  • Long, Michael; Sato, Charlene. (1983)“Classroom foreigner talk discourse: forms and functions of teacher’s question”. In Seliger, Herbert; Long, Michael(eds.). Classroom Oriented research in second language acquisition. Rowley, MA: Newbury House.
  • Ellis, Rood. (1994)The study of second language acquisition. Oxford University Press.

(二瓶 知子/元日本語国際センター専任講師)

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