日本語教育通信 授業のヒント
ティームティーチングで活気ある楽しい教室にしよう!
授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。
こんな先生におすすめ!
- 日頃からネイティブ教師とノンネイティブ教師が一緒に授業をしている
- 日本人ゲストを招いて授業をすることがある
- 教育実習生やインターン生が授業に入ることがある
- 上のような授業をやってみたいと考えている
はじめに
近年日本の小中高校の英語教育現場では、ALT(Assistant Language Teacher)と呼ばれる外国人補助教員が授業に入り、日本人の英語教師といっしょにティームティーチングで英語を教えるケースが増えています。同様に海外の日本語教育機関でも、現地の日本語ノンネイティブ教師(以下、ノンネイティブ教師)と日本語ネイティブ教師(以下、ネイティブ教師)が1つのクラスに入って教えることがあります。このようなクラスではどのような授業を行えばいいでしょうか。
今回は、タイの中学高校で日本語を教えるタイ人ノンネイティブ教師と、アシスタントを務めるネイティブ“日本語パートナーズ”(以下、NP)のティームティーチングを例に考えていきたいと思います。なお、NPは教師ではありませんが、実践例では「ネイティブ教師」と表記します。(NPについて詳しくは 「国際交流基金アジアセンター 日本語パートナーズ」のページをご覧ください。)
NPとノンネイティブ教師のティームティーチングの様子
ティームティーチングのメリットと実践例
ネイティブ教師とノンネイティブ教師
それぞれの長所を活かした授業ができる
ネイティブ教師は、学習者に生の日本語を聞かせたり、発音を教えたり、生きた日本文化や日本事情を紹介できるといった強みがあります。一方、ノンネイティブ教師は自らが日本語を一から習得した経験を活かし、母語を使って文法などをわかりやすく説明できるのが強みです。
実践例
発音指導
ネイティブ教師は口の動きを見せながら発音の見本を示し、学習者の間違いを訂正したり発音の仕方を指導します。ノンネイティブ教師は発音の仕方の指導をサポートしたり、単語や文の意味の説明をタイ語で行ったりします。
日本文化紹介
ネイティブ教師は経験や知識を盛り込みながら日本文化や日本事情を紹介します。ノンネイティブ教師は、日本語の説明だけでは難しい部分をタイ語で説明します。また、学習者は疑問に思ったことをその場で質問することができます。
学習者により細やかな指導が行える
複数の教師がいっしょに授業に入ることで、一人ひとりの学習者に目が行き届きやすくなります。また、教師ひとりでは準備や実践が難しい活動がしやすくなります。細かい指導が行えると同時に学習者の理解度が把握しやすくなるため、授業の改善につなげやすくなります。
実践例
机間巡視
一方の教師が教壇で説明を行っている間、もう一方の教師が学習者の机の間をまわって様子を確認し、理解が遅れている学習者をサポートします。学習者に教科書の問題を解かせている時に教師が手分けして見てまわれば、学習者の個々の質問に答えやすくなります。
活動やゲーム
教師ふたりでどのような活動やゲームを行うのがふさわしいか案を出しあったり、進行を分担することができます。進行の分担は大人数のクラスで特に有効です。時間がかかる副教材の作成も、協働で行うことで負担が軽減します。
コミュニケーションが自然に行われる環境を作り出せる
授業にネイティブ教師が入って学習者に話しかけたり質問を受けたりすることで、自然な日本語でのコミュニケーションの機会を与えることができます。さらに、ノンネイティブ教師とネイティブ教師が日本語でやりとりする姿を見せることで、学習者は日本語でのコミュニケーションの仕方を学ぶことができます。また、「教室では日本語を話すものだ」という意識を持たせることもできます。
実践例
教師と学習者とのやりとり
学習者は、ネイティブ教師に日本や日本語について質問する、聞かれたことに答えるといった活動を通じて、実際に日本語を使う経験ができます。「日本語が話せた!聞き取れた!」という喜びは、学習の大きな動機付けになります。
会話モデル
ノンネイティブ教師とネイティブ教師で教科書の会話文を読んだり、ロールプレイのモデルを提示することで、日本語での自然なコミュニケーションの仕方を学習者に見せることができます。また、日本語で話すノンネイティブ教師の姿は、学習者の良いお手本となるでしょう。
ネイティブ教師の日本語をノンネイティブ教師が通訳することがありますが、通訳が多いと学習者は日本語での説明を聞かず、母語での説明を待つようになってしまうため、最小限に抑えましょう。ネイティブ教師も教室内では日本語だけで話すようにします。学習者が日本語を聞く・話す機会をたくさん与えるよう意識することが大切です。
ティームティーチングを成功させるために
授業全体のカリキュラムと目標を共有し、役割分担を明確にする
ノンネイティブ教師・ネイティブ教師それぞれが責任をもって授業に臨めるようにするには、「授業で何をできるようにするのが目的か」「どの教科書を使って何を教えるのか」をあらかじめ双方が把握しておくと同時に、役割分担を明確にしておくことが大切です。
打ち合わせの時間を確保する
多忙な教師は、次の授業について話し合う時間を十分に取れないこともあるかと思いますが、ネイティブ教師が単なる発音モデルになってしまってはもったいないです。短い時間でいいので打ち合わせを行いましょう。
日頃から教師間でコミュニケーションをとる
ティームティーチングの成功のカギは、教師間で日頃から良い人間関係を作っておくことです。コミュニケーションをしっかりとっておくことで、伝達不足によるトラブルは避けられます。教師同士が良い雰囲気で授業を行うことが、生徒にも活気を与え、楽しい教室を作ることにつながります。
以上、ノンネイティブ教師が主導、ネイティブ教師がアシスタントを行うティームティーチングを見てきました。ノンネイティブ教師同士のティームティーチングやネイティブ教師同士のティームティーチング、日本人ゲストや教育実習生が授業に入ることがあるというクラスにも応用できると思います。みなさんのクラスでも複数の教師がいっしょに授業に入る機会があれば、上でご紹介した内容を意識して授業を行ってみてください。
参考資料:
- 「タイ人教師と日本人教師のためのティーム・ティーチング事例集」コンケン大学
Japan Foundation Bangkok ホームページ内 - 国際交流基金アジアセンターホームページ
https://asiawa.jpf.go.jp/partners/
(大田 祥江/バンコク日本文化センター日本語専門家)