日本語教育通信 授業のヒント
多様な観点から映画について語ろう!

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

概要
目標
  • 見た映画について多様な観点から感想を述べ合う
対象とするレベル
  • JF日本語教育スタンダードのB1レベル
クラスの人数
  • 人数制限は特になし
準備するもの
  • インターネット接続のできるパソコン、プロジェクター、見せたい映画(DVD)、映画のあらすじを書いたシート、感想用メモ、ICレコーダーやスマートフォンなどの録音機器

映画の感想を述べ合う活動のメリット

 みなさんは、クラスで日本映画を見た後にその感想を述べ合うというような活動をしたことがありますか。感想を述べ合うといっても「よかったねー」「そうだねー」と気持ちを共有するだけでなく、「印象に残ったシーン」や「登場人物」など様々な観点から話すことを目標にすると、映画の理解を深めるとともに、見た映像や登場人物のセリフを使って自分の考えを表すことで、言語活動としても充実したものとなります。

活動の流れとポイント

「書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」ジャケット画像

映画を選ぶとき

 感動して思わず語りたくなってしまうような映画を選びましょう。どんなところに感動するかは人それぞれですので、感動するところがいくつかある映画がよいと思います。例えば『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』(2010年5月公開、ワーナー・ブラザース映画配給)は、不景気で停滞する町をなんとか元気づけたいと、高校の書道部員たちが商店街で「書道パフォーマンス」を行ったという実話を基に作られた映画です。「書道パフォーマンス」という文化的側面にも興味を引かれますが、その挑戦を通して、登場人物たちの「成長」、「友情」、「町おこし」といった感動するところがいくつもあります。日常生活が舞台であるため語彙も平易で、セリフも短く、見やすさの点からもおすすめです。

映画を見る前

1.活動の目標Can-doを確認する
 学習者に「映画をよく見るか」「どんな映画が好きか」「映画を見た後に感想を述べ合うことはあるか」等の質問をしながら、活動の目標Can-doを示します。ちなみにここではJF Can-do236をアレンジして「映画の内容について友人や家族と多様な観点から感想を述べ合うことができる」を目標Can-doとしました。
2.「どのようなやりとりができればいいのか」のイメージを示す
 「よかったね」「感動した」という簡単なやりとりで終わってしまってはこの活動の目標は達成できません。以下の2つのポイントを会話に取り入れるように促しましょう。
(1)相手の発言と自分の感想に関連性を持たせる
感想を述べ合うときには、相手の言ったことに反応して、自分の感想を述べることが大切です。そのため、例えば次のような会話を使って、下線部に着目させ「そうだね」「確かに」と相手の発言に同意を示したり、「そう?」「そうだけど」と完全には同意できないことを示したりして、自分の感想を述べていることに気づかせましょう。このように、相手の発言と自分の感想に関連性を持たせることにより、話す内容も深まっていき、活動が活性化します。
  1. A:「映画、よかったよねー。ラストシーンは、感動したなぁ。」
  2. B:「あー、そうだね、あのシーン、よかったよね。でも、そこまでの、演出?ちょっとやりすぎ…じゃない?問題が多すぎると思った。」
  3. A:そう?けど、いろんな問題があるから、最後に感動するんじゃないの?」
  4. B:そうだけど。あの、病院の話とか…ちょっとドラマチックすぎるかなぁ。」
  5. A:「あー、確かに。それはそうかも。えーと、じゃあ、Bさん、何かおもしろいシーンはあった?」
(2)いろいろな観点から感想を述べる
上記の会話例を使って、「感動したシーン」「演出」「おもしろいシーン」など様々な観点から映画について話せることに気づかせましょう。他にも母語ではどのようなことを話しているのか尋ねると、「クライマックス」「映画のテーマ・メッセージ」「好きなシーン」「演技」…など、様々な観点が出てくると思います。このときに、後の話し合い活動で使えるように、「クライマックス」や「演技」などの語を紹介しておくといいと思います。
3.映画の内容を理解できるように工夫する
 映画の内容がわからないと、感想を活発に話し合うことはできません。映画の理解度を上げるには、以下のような方法があります。
(1)予告編を見せて、興味・関心を高める
YouTube等にある公式の予告編を見せて「おもしろそうだな」と学習者の興味・関心を引き、次の「あらすじ」を読む活動へとつなげましょう。
「書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」あらすじ、理解確認用の質問(舞台、状況、主人公、ことばの意味の確認など)
あらすじ確認シート
(2)「あらすじ」を読む活動を取り入れる
あらすじを読むことにより、学習者に背景知識を与え、映画を見る際に予測・推測がつきやすくなるようにします。これにより細部がわからなくても、ストーリーの大筋は理解することができます。あらすじを書くときには、結末がわかってしまわない程度に、ストーリーの大体の展開や、学習者にはわかりにくい背景などについて書いておくといいでしょう。また質問を作って、あらすじの内容を理解したかどうかの確認ができるといいと思います。

映画を見るとき

 映画を見る時には以下の工夫をしてみましょう。

  • 普段日本語を聞くことに慣れていない学習者の場合には、日本語字幕を表示して理解を助ける
  • 後の活動で感想を話しやすくするために、映画を見るときに観点別に母語や日本語でメモを取る
  • 映画感想用メモの例1 観点(全体の雰囲気、役者の演技、ストーリー、(風景の)映像、クライマックス、テーマ、おもしろいシーン、終わり方など)別にメモを取る
  • 映画感想用メモの例2

感想用メモの例

 その他、教師があらかじめ映画を見てみて、学習者にとってわかりにくいと思われるところは母語で解説を入れたり、時間の制限がある場合には本筋に影響がない部分を割愛したりもできます。

感想を述べ合うとき

 様々な観点について、相手の言ったことに反応しながら自分の言いたいことを伝えることは簡単な活動ではありません。難しすぎる活動になってしまっては学習者の意欲が下がってしまいます。そこで、以下の点について工夫してみましょう。

1.話す内容を考える時間をとる
 何をどのように言うか考えるプランニングの時間をとることは、産出の流暢さや複雑さによい影響を与えると言われています(Ellis, 2004)。学習者にとっていきなり話し始めるのが難しいと思われる場合は、活動の前にプランニングの時間を10分程度設定するとよいでしょう。
学習者がペアになってメモを手に楽しそうに話している様子。先生が後ろで学習者を見守っている。 2.活動の形態に留意する
 多数の人と話すよりも一人の人と話すほうがコミュニカティブ・ストレスが少なく話しやすいと言われています(Brown and Yule, 1983)。グループよりもペアで行ったほうがよく話せるかもしれません。
3.相手を変えて活動を繰り返す
 同じ相手と長く話すよりも、10~15分話したらペアを変えて同じ活動を行ってみましょう。同じタスクを繰り返すことで、2回目のパフォーマンスが向上した、つまり、よりうまく話せるようになったという報告もあります(Bygate, 1996)。また、相手を変えて話すことで、異なる感想を聞いたり、自分の意見に対しても違った反応をもらえ、様々な学びの機会となります(Lynch, 2018)。それがまた、映画に対しての理解を深め、感想を述べ合う活動のおもしろさにつながると思います。

ふりかえりを行うとき

 目標Can-doに照らし合わせて、まず自分で「できた」か「できなかった」かを評価する時間をとりましょう。宿題として、活動中のやりとりを録音したものを自分で聞いて「よくできた点」や「もっとよくしたい点」などについて書いて提出してもらうとよいでしょう。
 以下の会話は『書道ガールズ』を見た後の実際のAとBのやりとりです。AもBも、相手の感想に反応しながら「一番好きなシーン」(#1~3)と「そのシーンに込められたメッセージ」(#4~11)というように複数の観点から感想を述べ合うことができています。また、#7の「貸す」は「借りる」の誤りですが、やりとりをふりかえる機会をもつことで、このようなことにも気づくかもしれません。注目してほしいのは、AとBの発言が関連して、映画の理解が深まっているところです。Aが書道パフォーマンスについて述べたこと(#3)がきっかけとなって、Bがそのシーンに込められたメッセージについて自分の解釈を述べ始めます(#6)。#6以降は、AとBがお互いの発言を取り入れながら、二人で「チームワークの大切さ」が書道パフォーマンスのシーンに込められた大事なメッセージであったという明確な理解に至っています。

『書道ガールズ』を見た後のAとBのやりとり
1 A:一番今日好きなシーンは、やっぱり、最後。書道パフォーマンス。 一番好きなシーンについて
2 B:あー、書道パフォーマンス。そうですね。
3 A:すごい、ちから、ちから、いちからー、すごい、ほめて、書道やって、すごい頑張ってました。
4 B:あー、そうですね。そして、これは映画のクライマックスでしょ? 書道パフォーマンスのシーンに込められたメッセージについて
5 A:はい、そうですね。クライマックスだね。
6 B:そして、もうひとついい考えがあって、あのー、自分で何回も何回もして、でもうまくできないときは、他の人の力を
7 A:貸し
8 B:貸して、もっとうまくできるようになる。
9 A:そうだね。チームワークだね。
10 B:そうそう。チームワーク。これはとてもいいアイディアですね。
11 A:大事、大事。

 このように、映画で見たシーンやセリフを使って、自分が思ったことや考えたことを日本語で表現して相手と共有することで、内容的にも言語的にも豊かな学習となります。もし可能であれば、ペアで話し合った後に、グループやクラス全体で共有する時間があると、ペアで話してもよくわからなかった点などについてさらに話すこともでき、この活動がより一層充実したものになると思います。
 この活動の後、「日本語の映画を見るのが好きになった」「授業外でも『日本映画クラブ』を作って友達と一緒に見て、内容を話し合うようになった」という学習者の声も聞かれました。ここで書いたヒントを参考にご自身の実践にもぜひ取り入れてみてください。

参考文献:

  • Brown, G. and Yule, G. (1983). Teaching the Spoken Language: An approach based on the analysis of conversational English. Cambridge: Cambridge University Press.
  • Bygate, M. (1996). Effects of task repetition: appraising the developing language of learners. In J. Willis and D. Willis. (Eds.), Challenge and Change in Language Teaching (pp.136-146). Oxford: Heinemann
  • Ellis, R. (2004). Task-based Language Learning and Teaching. Oxford: Oxford University Press.
  • Lynch, T. (2018). Perform, reflect, recycle: Enhancing task repetition in second language speaking classes. In M. Bygate (Ed.), Learning Language through Task Repetition (pp.193-222). Amsterdam: John Benjamins.

参考教材:

  • 国際交流基金編著(2017)『まるごと 日本のことばと文化 中級2(B1)』三修社
    こちらのTopic7「お気に入りの映画」は、本ヒントで紹介したような映画の感想を述べ合う活動をする上で参考になります

紹介映像作品:

  • 「書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」 Blu-ray&DVD 発売元:バップ (C)NTV

注:

  • 海外の教育機関内で授業のために著作物を利用する際は、その国の著作権法の適用を受けますので、そちらを確認してください。

(本田 雅美/日本語国際センター専任講師)

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