授業のヒント 「みんなで作る年表」活動

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

2025年7月
国際交流基金日本語国際センター

1.概要

目的
仲間と協力しながら年表を作る。協働作業を楽しみ、お互いを理解する。
対象とするレベル
中級レベル以上 (JF日本語教育スタンダード B1以上、JLPT N3以上)
学習者のタイプ
高校生以上
クラスの人数
2名以上でできるが、複数のグループが作れる6名以上が理想的。
準備するもの
模造紙などのポスター用紙・付箋紙・マジック等

2.「みんなで作る年表」は、好きなテーマで作れます!

今回紹介する活動は、日本語学習の場で、学習者が協力して作業を行うこと、活動を通してお互いを知ることを目的にした活動です。

「みんなで作る年表」とは、クラスのメンバーの出身国・出身地の情報等を年代順に書きこんだ1枚の表です。ある時点での情報や出来事を比較して見渡せるので、一目で共通点や相違点、それぞれの特徴が分かり、お互いについて理解を深めることができます。【建築史・映画史・言語史】あるいは【自分史】など、学習者が日本語を使って発信したいと思うテーマを決めて作ることができます。クラスのメンバーが同国人だけの場合は、【家族、興味がある国、出身地】などに関して、自分自身のことを書きこんだ「みんなで作る年表」にすることもできます。

どんなデザインの年表にするかも、学習者同士で話し合って決めます。予想もしなかったような新しい、楽しいアイデアが出てきます。私が担当したクラスでは、下図のようなデザインの年表がありました。

  • 4か国の歴史ポスターの画像

  • 各国のテーマ別ポスターの画像

3.授業のステップ  

B2レベルの大人向けの授業で、50分×9コマで行った例を示します。

ステップ1 準備

  1. 1)授業の中で「みんなで作る年表」に取り組むことを伝えます。目的は、作業を協力して行うことだという点を確認します。
  2. 2)日本の歴史について書かれた説明文を読んで内容を理解した後、説明文の中で、年表作成に必要な表現の意味を確認しておきます。私のクラスでは、佐々木(2018)を使いました。

ステップ2 年表作り

  1. 1)「みんなで作る年表」の活動目標とスケジュールを確認します。大切なことは、活動の目標が、仲間と協力して、年表作りに貢献できるような話し合いを行うことだという点です。
    B2レベルの学習者に対して示した目標です。

    「世界史ポスターを検討しているとき、デザインやレイアウトなどについて比較し、利点・印象などをはっきりと述べることができる。」

    「他人に仲間に入るように誘ったり、意見を述べるように促したりして、作業を先に進めることに貢献できる。」

  2. 2)グループに分かれ、どのような年表を作るか話し合い、目標を決めます。自分たちが見せたいオリジナルの年表を作ることが大切ですので、メンバーでよく話し合い目標を決めたら、クラスで発表します。
    私が担当した授業では、「建築史からみた各国の時代の変化を伝えることができるポスターを作る」のような目標が設定されていました。
  3. 3)再度、活動の目標を確認し、協力的な話し合いに必要な表現(黙っている人を誘う表現や、相手の気持ちに配慮して代案を述べる表現など)を確認します。
  4. 4)グループごとに年表を作成します。
    グループでポスターを作成する参加者たちの写真

ステップ3 事後タスク

  1. 1)完成した年表を貼りだして、年表の説明、工夫したところや苦労したところを発表して、自由に意見交換をします。
    展示されたポスターを見ながら話し合っている参加者たちの写真
  2. 2)最後に、授業活動全体を振り返り、活動を通して発見したことを話し合います。そして、ステップ2で確認・設定した目標(協力的な話し合い・作りたいポスター)をどの程度達成できたか、自己評価・他者評価をして、感想を書きます。
    自己評価シートの例を示します 。

    (クリックすると拡大されます)
    自己評価シートの画像

    自己評価表に書かれた感想から一部を引用します。

    「今回の活動は完全なチームワークです。できたものを見ながら「やった!」と達成感が強く感じられました」

    「自分がわからないことなら、意見をあまり言わない私ですが、今回のみんなのおかげで、意見を少し発言できるようになりました」

    「学校では教科書を使って、歴史を勉強していて覚えることが多くてあまり好きではありませんでした。しかし、今回の授業では日本の歴史を整理した後、自分の国についても楽しく学べたと感じます。」

    「日本の歴史をもっと勉強したいです!」

4.さいごに

「みんなの年表作り」は、学習者が自由にアイデアを出し合うので、とても楽しく取り組むことができる活動です。実際に年表を作る過程は、楽しいだけでなく、学習者同士が協力する必要があるため、意見を言う時や、黙っている仲間を話し合いに引き入れる時の表現を注意深く使う経験もできます。

私のクラスでは、協力して完成したポスターを前にして、熱心にお互いに質問し合っていたことが印象的でした。授業の後では、みんなが更に仲良くなっていました。 みなさんのクラスでは、どんな年表ができるでしょうか?

ポスターの前に座った参加者たちの集合写真

参考文献:

  • 長坂水晶・清水まさ子(2024)「言語教育観を深める日本語コースデザイン-非母語話者日本語教師のための訪日研修での実践-」『2024年度日本語教育学会支部集会予稿集』【九州・沖縄支部】』日本語教育学会pp.23-28
  • 佐々木瑞枝(2018)『クローズアップ日本事情15―日本語で学ぶ社会と文化』ジャパンタイムズ

(長坂水晶/日本語国際センター日本語教育専門員)

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