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JF日本語教育スタンダードに準拠した読解教材
「A1活動集(読解)」と「A2活動集(読解)」

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

国際交流基金日本語国際センター

 「A1活動集(読解)」と「A2活動集(読解)」は、「みんなの教材サイト1に連載されている読解活動のシリーズで、「JF日本語教育スタンダード」 に準拠した教材と授業のアイデアを世界の日本語教師の方々に提供することを目的にしています。「A1活動集(読解)」は、2015年12月から2017年4月まで計14回連載され、この度完結しました。2017年5月からは、新たに「A2活動集(読解)」の連載が始まっています。今回のニュースでは「A1活動集(読解)」の内容を中心に、このシリーズをご紹介します。

「A1活動集(読解)⑬「SNSを読む」」の画像
「A1活動集(読解)⑬「SNSを読む」」より

1. 「A1活動集(読解)」「A2活動集(読解)」とは?

 「A1活動集(読解)」「A2活動集(読解)」は、「JF日本語教育スタンダード」の理念である「相互理解のための日本語」に必要な「課題遂行能力」と「異文化理解能力」の育成を目的として作られています。「課題遂行能力」とは、実際の場面で日本語を使ってどのような課題が達成できるかという能力であり、「異文化理解能力」とは、さまざまな文化にふれることでいかに視野を広げ他者の文化を理解し尊重するかという能力です。この2つの能力を育てるため、このシリーズの活動は、文型や語彙などの知識を問うものではなく、実際の具体的な場面が設定され、そこで必要な課題を達成することが目標となっています。また、読む前には、自分の文化を振り返ったり日本の文化との相違について考えたりする文化理解の活動が設定されています。

2. Can-do目標と活動の具体例

 活動の目標は、どのような素材から何をどのように読んで理解するのか、Can-do(「~ができる」という文)によって明確に示されています。ここで使われているCan-doは、「JF日本語教育スタンダード」が提供している「JF Can-do2 か、またはそれが少しアレンジされたCan-doです。
 それでは例を見てみましょう。

例1:『出発時刻や座席番号を読み取る』A1活動集(読解)⑫

 目標Can-doは、「新幹線や飛行機などの切符を見て、出発時刻や座席番号など、ごく基本的な情報を探し出すことができる」です。乗り物の切符には、いろいろな情報が印刷されていますが、A1レベルで必要なことは、「出発時刻や座席番号など、ごく基本的な情報を探し出すこと」です。言い換えれば、それ以外の情報は理解する必要がありません。この活動では、まず新幹線の切符と駅の電光掲示板を照合し、自分は何番ホームから乗ったらいいのかという情報を探し出します。次にホーム上に書かれている車両番号を見て乗る場所を確認し、最後に新幹線に乗ったら座席番号表示を見て自分の座席を探します。このように、日常生活の現実的な課題を達成するために、必要となる読みの活動を行うようになっています。

「A1活動集(読解)⑫「出発時刻や座席番号を読み取る」」トップページの画像
「A1活動集(読解)⑫「出発時刻や座席番号を読み取る」」トップページ

「A1活動集(読解)⑫「出発時刻や座席番号を読み取る」」より(1)の画像
「A1活動集(読解)⑫「出発時刻や座席番号を読み取る」」より(1)

「A1活動集(読解)⑫「出発時刻や座席番号を読み取る」」より(2)の画像
「A1活動集(読解)⑫「出発時刻や座席番号を読み取る」」より(2)

例2:『SNSを読む』A1活動集(読解)⑬

 目標Can-doは、「ごく短い簡単な文で書かれたブログを見て、写真などを手がかりに、ブログを書いた人が何をしたか、どこへ行ったかなどを理解することができる」です。普段、私達がブログを読むときは、一言一句理解するように読むのではなく、「ブログを書いた人が何をしたか、どこへ行ったかなどを理解する」ために読むのが普通です。この活動集では、このような日常生活での実際の読み方を大切にし、上記の目標Can-doに基づいた活動を設定しています。

「A1活動集(読解)⑬「SNSを読む」」より(1)の画像
「A1活動集(読解)⑬「SNSを読む」」より(1)

 このシリーズの素材は、学習者用に易しくアレンジされた素材ではなく、生素材(母語話者が実際に読む素材)、あるいはそれに近いものを使っていますので、素材だけを見ると、レベルよりも少し難しく感じるかもしれません。しかし、すべてを理解するのではなく、それぞれの活動に示されたCan-doを達成することに目標を絞ることで、重要な点を探し出したり理解したりすることができるようになります。このようにして、日常生活で遭遇する雑多な情報の中から、必要な情報を読み取って理解する能力を養って行くことがこのシリーズの目的の一つです。
 回によっては、最後に【発展】課題として、「話す」「書く」など、読解以外の活動もあります。例えば、「SNSを読む」のあとでは、自然な流れとして考えられる「コメントを書く」という活動があります。これらの【発展】課題にも、それぞれ書いたり話したりするための目標Can-doがついています。このように、このシリーズでは、読解活動だけでなく、同じ素材を活用して他の技能を使う活動につなげていくことも提案されています。

「A1活動集(読解)⑬「SNSを読む」」より(2)の画像
「A1活動集(読解)⑬「SNSを読む」」より(2)

 以上見てきたように、このシリーズは、教室の中だけで行われる活動や、練習のための練習ではなく、日常生活の中で実際にある場面や活動から作られています。また、できるだけ、海外の学習者が生活の中で経験したり、旅行や留学などで将来出会ったりする可能性が高いものを扱うようにしています。素材には、学習者自身が主人公になってその場面や活動を体験できるよう、場面全体を表す写真などが使われています。

「A1活動集(読解)⑤「よく見る看板や表示を推測して理解する」」より(1)の画像
「A1活動集(読解)⑤「よく見る看板や表示を推測して理解する」」より(1)

「A1活動集(読解)⑤「よく見る看板や表示を推測して理解する」」より(2)の画像
「A1活動集(読解)⑤「よく見る看板や表示を推測して理解する」」より(2)

3. これからも広がる「A1活動集(読解)」「A2活動集(読解)」

 いかがでしたでしょうか。今回は「A1活動集(読解)」の内容をご紹介しましたが、現在は、A1に続き「A2活動集(読解)」の掲載が始まっています。これからも続々と新しいものを掲載していく予定です。みなさまからこの教材を使った授業の報告やコメント、発展させた教材のアイデアなどをお待ちしています。ぜひ、「みんなの教材サイト」の「みんなの広場」の「素材・アイデアを送る」 から投稿してください。

各回の内容

A1活動集(読解)

営業時間や休業日を読み取る
メニューを読む
同僚の予定を読み取る
ビルのテナント案内板から行き先を見つける
よく見る看板や表示を推測して理解する
旅先からのメールやハガキを読む
催し物のポスターから情報を読み取る
カードのメッセージを読み取る
レシピから材料を読み取る
値段を読み取る
パーティーや催しの日時、場所などを読み取る
出発時刻や座席番号を読み取る
SNSを読む
職場のメモを読む

A2活動集(読解)

お茶やインスタント食品の作り方を読む
旅行先からのメールやSNSを読む

「A1活動集(読解)」「A2活動集(読解)」を使うには?

 「みんなの教材サイト」へ行き、検索窓に「活動集」と入れてください。新しいものから順に出てきます。「みんなの教材サイト」に未登録の方は、この機会にぜひご登録ください。

みんなの教材サイト TOPページの画像
みんなの教材サイト TOPページ

 「みんなの教材サイト」では、今後も、「JF日本語教育スタンダード」に基づいた教材を続けて掲載していく予定です。どうぞご活用ください。

(上原 由美子/日本語国際センター専任講師)

  1. 1 「みんなの教材サイト」は、日本語教師の教材作成を支援するウェブサイトです。教室活動、イラスト、写真、読解教材、文法の解説などの他、ユーザーが自作の教材を投稿し他のユーザーと共有できるコーナーもあります。
  2. 2 「JF Can-do」は、「みんなのCan-doサイト」https://jfstandard.jp/cando/で提供されています。
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