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JFS B2教材を公開しました!

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このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

国際交流基金日本語国際センター

 このたび、新しくなった「みんなの教材サイト」で、「JF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)」B2レベルの教材(以下、B2教材)4トピックが公開されました。この教材は、B2レベルの学習デザインの提案として作成されたもので、以下のような特徴があります。

  • ウェブで無料公開
  • 必要なトピックだけを取り出して使用可能なモジュール型
  • 印刷をしてそのまま教材として利用可能
  • 学習デザインを参考にして、アレンジして使用することが可能

この記事ではB2レベルとはどんなレベルなのか、そして、具体的にどんな教材なのか、紹介します。

B2レベルの特徴とB2レベルをめざす学習者

JFSの6レベルの画像

 「自立した言語使用者」といわれるBレベルは、B1とB2に分けられます。このうち、B1レベルは、日常生活や旅行などで遭遇する身近な話題・出来事に対応できるというレベルですが、B2レベルになると、対応できる話題の幅や深さの点に違いが現れます。B2レベルの特徴を大きくまとめると、次のようになります。

  • 自分の専門分野に関して抽象的で複雑な内容でも理解できる
  • 熟達した話者と関係を維持しながら流暢にやりとりすることができる
  • 幅広い話題において、自分の考えや視点を伝えることができる

 このような言語行動ができるようになるためには、まず、積極的に聞く・読む・話すという態度、馴染みのない話題であっても参加しようとする態度が必要になります。また、言語使用の際に、自分のことばが相手にどのように受け取られるかという視点を持ってモニターすることや、伝え方を工夫しようとすることなども必要になってきます。

 一方、このレベルをめざす学習者は学習経歴、日本語でできること、苦手なこと、ニーズが人によって大きく異なります。そして、日本語を用いて、ある程度のことは自力で達成できてしまうので、何をすれば次のステップに進めるのかがわからない学習者が増えてくるのも、このレベルの特徴です。

B2教材の概要

 このような学習背景もニーズも大きく異なる学習者に対する授業の形を模索して、B2教材は開発されました。言語を使う場、相手との関係性などを考慮し、以下の4トピックを教材化しました。

<B2教材トピック一覧>
タイトル 話題・トピック 目標
1.日本語で楽しもう 現代アート テレビ番組や本などを娯楽として楽しむことができる。
いろいろな話題で雑談を続けることができる。
2.日本語で会議!? スピーチコンテストの審査 ある程度フォーマルな会議で、結論を出すための議論に積極的に参加できる。
3.どうやって伝えよう? ビジネスメール 相手の状況や気持ちを配慮してことばや表現を選んだり、伝え方を工夫したりすることができる。
4.「場にあった文章」に挑戦! 書評 自分の見解を伝えるための文章を、目的や場面に合ったスタイルで書くことができる。

 「みんなの教材サイト」では以下の教材を提供しています。動画はダウンロードできませんが、その他の素材は、全てダウンロードが可能です。

  • 冊子(PDF)
  • 動画/音声、スクリプト
  • 教師用資料(PDF)
  • タスク解答例(PDF)

B2教材の特徴

「3.どうやって伝えよう?」表紙画像

 教材の全体的な説明については、「みんなの教材サイト」のこちらのページで紹介されていますので、ここでは、「3.どうやって伝えよう?」を例に、B2教材の特徴を具体的に紹介します。

 * 教材を見るためには、「みんなの教材サイト」にログインすることが必要です。教材はこちら。

(1) 2段階の目標と評価

 「3.どうやって伝えよう」では、以下のように2段階で目標を設定しています。最初に示しているのが、トピックや状況を限定しない汎用的な目標、そして、次に示しているのが、具体的な場面や状況を伴った「Can-do」です。ここでは「書く」技能に焦点を当て、学習活動はビジネス場面を取り上げています。

目標:
相手の状況や気持ちを配慮してことばや表現を選んだり、伝え方を工夫したりすることができる。
Can-do
仕事上で関係のある人に業務上の急な変更や無理なお願いなどを伝えるメールを、相手の状況や気持ちを配慮し、ことばや表現を選んだり伝え方を工夫したりして書くことができる。

 このように2段階で目標を示すことによって、ビジネスメールを書けるようになることが最終目的ではなく、相手の状況や気持ちを配慮して書けるようになることが最終目標だということを学習者に伝えています。汎用的な目標を示すことにより、より多くの学習者が自分の目標としてとらえることができます。

 教材の最後には自己評価シートがあり、ふり返りに使うことができます。ふり返りも2段階になっていて、最初に、Can-doの具体的な行動ができたかどうかを自己評価し、次に汎用的な目標に関して以下のような問いかけをしています。

  • 自己評価シート画像
  • 汎用的な目標に関しての問いかけ フキダシ画像

(2) リアルな学習活動

 Can-doを達成するための学習活動は、企業で働く社員として仕事上のメールのやり取りをするという設定です。朝、出社して自分宛のメールを読む、後輩からメールの書き方の相談を受ける、取引先にメールを書くという、リアルな社会行為を基本にしながら、インプットからアウトプットに続く流れで構成されています。

学習活動の流れ図 目標と活動の確認、自分宛のメールを読む、他の人が書いたメールを直す、メールを書く、ふりかえり

(3) 学習デザインの提案―教材アレンジの勧めー

 この教材は印刷すればそのまま授業用の教材として使うことができます。教え方は「教師用資料」に詳細な説明がありますので、参考にしてください。

 さらに、自分の目の前にいる学習者やクラスのニーズに合わせて、トピックや場面を変えてアレンジして使うことも可能です。アレンジのためのアイディアは、「教師用資料」の最後のパート「Ⅳ. 解説」で紹介されていますので、ぜひ見てみてください。

 ここではその「解説」をヒントに「3.どうやって伝えよう?」をアレンジした授業事例を紹介します。ある国の大学の日本語教員を対象にしたもので、以下のようにCan-doを設定し、学習の流れはそのままで、インプットの素材や最終タスクの状況を変更して行われました。

目標:
相手の状況や気持ちを配慮してことばや表現を選んだり、伝え方を工夫したりすることができる。(B2教材と同じ)
Can-do
急な論文の執筆依頼など、少し伝えづらい内容のメールを書く。
最終タスク:
次の2つの中から一つを選ぶ。
  1. (1)共同研究者である他大学の教授が、知り合いの研究者を紹介してくれるという話だったが、まだ紹介してもらえていない。早く紹介してもらえるよう、連絡する。
  2. (2)研究会で一度、名刺交換をしたことのある研究者に、1ヶ月以内に寄稿論文を書いてもらえるよう、メールで依頼する。

 ここまで、「3.どうやって伝えよう?」を例に特徴を紹介してきましたが、これらはB2教材の全トピックに共通の特徴です。各トピックの詳細は「教師用資料」にありますので、ぜひ、ご覧ください。

さいごに

 実践する場によって、目の前にいる学習者によって、教材は本当にさまざまなタイプのものが考えられます。このB2教材が、授業をデザインする教師のみなさんのアイディアの源になれば、そして、この教材で学ぶ学習者のみなさんが自分の目標を発見する助けになれば、とてもうれしく思います。

 実践した感想、応用して作ってみた授業アイディアや教材などは、ぜひ、「みんなの教材サイト」に投稿してください。お待ちしています。

参考資料

  • 大舩 ちさと・篠崎 摂子・清水 まさ子(2017)「B2(上級)レベルの課題遂行をめざした教材開発-新たな教材像模索の試み-」『2017年度日本語教育学会秋季大会予稿集』pp.402-407日本語教育学会

(大舩ちさと/日本語国際センター専任講師)

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