日本語教育通信 日本語教育ニュース 海外日本語教師訪日研修が再開しました!
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- このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。
2023年3月
国際交流基金日本語国際センター
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を受け、日本語国際センターにおいても、海外日本語教師訪日研修(以下、訪日研修)が中止となりました。その代わりとして、オンラインでの研修をしていましたが、ついに、2022年度から3年ぶりに訪日研修を再開しました。
今回は、再開された訪日研修の中から、2022年8月より6か月にわたって実施された「海外日本語教師基礎研修」(以下、「基礎研修」)についてご報告します。
「基礎研修」ってどんな研修?
日本語国際センターでは様々な研修が行われており、世界各国から日本語教師が集まります。その中で、「基礎研修」は、日本語教授経験の短い(1年~5年注1)若手の日本語教師を対象とした研修です。研修では、「日本語」「教授法」「文化理解」「自律性」「ICTスキル」「交流」に関する6つの目標を通して、「教師としての専門能力」「コミュニケーション能力」「自己研鑽の能力」を高めます。
研修目標のイメージ
(2022年度「海外日本語教師基礎研修」実施案内より)
今回の研修では、30か国44名が参加しました。
コロナ感染予防対策も万全に!
日本語国際センターでは、研修参加者が安全に、そして安心して研修を受けることができるよう、その時の状況に合わせて、コロナの感染を予防する基本的な対策もしっかりと行っています。基礎研修では、マスクの着用や、手洗いの励行はもちろん、密にならないよう、机と机との距離を測り、教室に入る人数も決められていました。
コロナ感染予防対策の一例
- 毎朝体温を計って、報告する。
- 教室に入る前には手の消毒をする。
- 休み時間に空気の入れ替えをする。
- 食事のときは黙食をする。
研修の内容を少しご紹介!
基礎研修では、日本語、教授法、特別授業、文化体験など、様々な授業や活動があります。授業では、ペアやグループ、またクラス全体で、考えたり、話し合ったりして、自分の考えや理解を深めていきます。ここで少し、教授法の授業ではどんなことをしているのか、ご紹介したいと思います。
教授法の授業では、まず、体験や話し合いなどを通して、教授法に関する基礎的な知識や背景理論を整理したり、コミュニケーション言語活動(課題)の達成を重視した授業の流れについて理解を深めたりします。次に、教え方のアイデアを増やしたり、学んだことをそれぞれの教育現場でどのように活かすかについて考えたりしながら、「Can-do(~できる)」で目標を設定し、その目標を達成するための授業の流れを自分たちでデザインします。
そして、教授法の総仕上げとして行うのが模擬授業です。これまでの研修で学んだことを活かし、自分がデザインした授業を実際に行い、講師やクラスメートからフィードバックをもらいます。さらに、自分がした模擬授業の映像をもう一度見て、改善すべきことなどをふり返ります。
模擬授業をしている様子
同じ教師であるクラスメートを相手にする模擬授業は、とても緊張するようで、準備の段階から心配や不安を口にする人たちも多くいます。しかし、模擬授業のふり返りを見てみると、実際にやってみることで今まで気づかなかったことに気づいたり、他の教師たちからもらったコメントで新たな発見があったりと、模擬授業を通して多くのことを学び、達成感を得ていることがわかります。自分が模擬授業をすることができたということだけではなく、他の国からきた様々な教授環境の教師たちの模擬授業を見ることができたことも、大きな学びになっているようです。
模擬授業のふり返り
研修参加者の声
3年ぶりに再開された訪日研修。研修参加者のみなさんにとっても、待ちに待った研修だったようです。それは、書道ワークショップで作り上げた作品のことばの中にも、その思いがあふれていました。
書道ワークショップの作品
それでは、研修参加者のみなさんは、この研修に参加することで、どんなことを感じたり、考えたりしたのでしょうか。最後に研修参加者の声をお届けしたいと思います。
毎朝目覚めたときに、ここで研修できていることへの感謝の気持ちでいっぱいになります。国にいるときは、日本語で話すチャンスが全然なくて、研修が始まったときは、自分の意見が言えなかったですが、今は言えるようになってきたと思います。研修を通して、先生一人ひとりの教え方や、クラスメートの意見などから、生徒としても教師としても学ぶことができています。
(ジェン(ホンジュラス))
内向的な性格で、なかなか自分の意見を言うことができませんでしたが、仲間との様々な活動を通して、少しずつ日本語で意見が言えるようになってきました。センターの先生方やクラスメートと話すことで自信がつき、自分の成長を感じています。教師同士だからこそ、専門的な話ができることもいい経験です。
(ディナラ(カザフスタン))
最初はグループで一緒に活動をするということが苦手だったけれど、ここで仲間と呼んでいい人達と出会って、一緒に協力したり、たまに意見が合わなくなったりしながら、何かを一緒にやることで、一人ではできない素晴らしい経験が待っていることを知りました。ここに来られて、これから自分が何をするべきなのかを考えて、今、それがわかってきたと思います。
(アハマド(イラク))
研修では、センターの先生方からだけではなく、世界中の日本語教師同士と話し合うことで、色々な習い方や教え方が発見できました。そして、お互いの授業の行い方を改善しながら、世界の日本語教育にも、自分なりに貢献ができるように思い、達成感を深く感じました。いい日本語教師になるために、日本語学習者の視点でも学ぶことができたことも日本語国際センターでのかけがえのない経験だと思います。
(キコ(フィリピン))
日本語国際センターの研修も、オンラインで実施できるようになったことにより、世界のどこにいても研修に参加できるなど様々な可能性が広がりました。その一方で、対面研修だからこその学びもあるのではないかと、再開された研修を通して感じています。それは、研修参加者の声からもわかるように、研修参加者同士の授業内外の対話や協働、体験によって得られる新たな気づきや再発見、また思考の深化なのではないでしょうか。訪日研修だからこそ、教室の中で生まれる横のつながりが、対話や協働をよりダイナミックにしているように思います。また、授業だけではなく、休み時間や宿泊棟での雑談など、何気ない会話からも、考えを整理したり深めたりしている様子が見られます。そして、そのような経験は実感を伴った達成感や自信につながっているのではないかと思います。
再開された訪日研修でみなさまにお会いできることを、日本語国際センターでお待ちしています!
注:
- 1.2022年度はコロナ禍で来日できなかった2年間を考慮し、教授経験7年までの教師を対象としました。
(山本実佳/日本語国際センター専任講師)