日本語教育ニュース VRで体験!「ホームビジットA1自習コース」「関西国際センター バーチャル館内案内」

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2024年9月
国際交流基金関西国際センター

関西国際センター(以下、KC)では、まるでその場にいるような体験を味わうことができるVR(バーチャル・リアリティ)コンテンツを制作しています。その中から、「ホームビジットA1自習コース」(以下、HVコース)と「関西国際センター バーチャル館内案内」をご紹介します。ヘッドマウントディスプレイなどの特別な道具がなくても楽しむことができるコンテンツです。

1.「ホームビジットA1自習コース」とは

「HVコース」は、JFにほんごeラーニング「みなと」で無料公開されている自習コースです(要登録)。日本の家を訪問する予定があり事前に学習したい方はもちろん、日本の家の様子を見て知りたい方などを対象としています。コースは4つのSTEPに分かれており、STEP1はイントロダクション、STEP2はホームビジットで役立つフレーズや習慣を学ぶコンテンツ、STEP3はいろいろなタイプの日本の家を見比べるコンテンツ、STEP4は振り返りになっています(コース紹介動画)。

「ホームビジットA1自習コース」メインビジュアル

HVコースのSTEP構成図

HVコースのSTEP構成

STEP2と3にはVRコンテンツが用いられており、実際に日本の家を訪問した気分を味わうことができます。次に、STEP2とSTEP3の詳しい内容をご紹介します。

STEP2 VRコンテンツでキーフレーズを学ぶ

STEP2は、日本の家を訪問するときに役立つ表現や習慣などを「おじゃまします」「お土産、どうぞ」「いただきます」「おじゃましました」という4つのトピックで学びます。各トピックでは、Can-do目標の確認後、(1)Watching the Scene(シーンを見る)、(2)Key Phrase(キーフレーズの確認)、(3)Try by Yourself(やってみよう)という練習をし、最後に「Can-do Check」を行います。VRコンテンツは(1)と(2)で用いられています。

STEP2の流れを示した図

STEP2の流れ

STEP2(1) Watching the Scene:登場人物の動きを見てみよう!(VR動画)

普段よく目にする一般的な動画(2D動画)はユーザーに注目してほしい箇所に焦点があたるため、ユーザーは迷わず集中して学習を進められますが、一方で、画面の外にいる登場人物の動きや表情がわからない、全体像が把握しにくいという面もあります。「(1)Watching the Scene」では、2D動画の内容をオプションのVR動画でも見られるため、ユーザーは画面を上下左右に動かし気になったところを自由に見ることができます。

STEP2(1)のVR動画のスクリーンショット

STEP2 (1)Watching the Scene のVR動画

STEP2(2) Key Phrase:キーフレーズ・ことば・文化を確認しよう!(VR画像)

「(2)Key Phrase」では、「(1)Watching the Scene」で出てきたキーフレーズを確認します。オプションのVR画像には3種類のチェックポイントがあり、クリックすると「キーワード」「ことば」「文化情報」が現れます。部屋を見渡したり、フレーズ、ことば、情報を自由に選んで練習したり、確認することができます。キーフレーズやことばは音声も聞くことができるので話す練習もできます。

STEP2(2)のVR画像のスクリーンショット 画像をクリックすると拡大表示されます

STEP2 (2)Key PhraseのVR画像
(クリックすると拡大表示されます)

STEP2(3) Try by Yourself:主人公になったつもりでやってみよう!(動画)

VRコンテンツではありませんが、「(3)Try by Yourself」は訪問する主人公の視点で撮影された動画です。キーフレーズを問うクイズが現れ、正解すると続きの映像が流れます。自分が主人公になって日本の家を訪問している気分を味わうことができます。

STEP2(3)の動画のスクリーンショット

STEP2 (3)Try by Yourselfの動画

STEP3 いろいろなタイプの日本の家を見てみよう!

STEP3では、STEP2で訪問した昔ながらの家に加えて「4人家族の住む現代的な家」や「一人暮らしのアパート」をVR画像で見比べることができます。

STEP3の画像

STEP3 Other houses & Your house

また、昔ながらの家には「ユーザー自身のことについての質問」もあります。ボタンをクリックすると「あなたのいえのリビングでゆかにすわりますか」など、ユーザーに向けた質問画面が現れ、質問に答えると、このコースで学ぶさまざまな国・地域のユーザーからの回答結果が表示されます。結果を見て「床に座る人も意外と多いんだな」「床に座る人はどんな国・地域だろう?」といった新たな発見があるでしょう。

授業での活用例

STEP2、STEP3を使って、すぐに実践できる活動例を1つずつご紹介します。

STEP2 「3.台所」(2)Key Phraseを使った活動例:ことばの導入

  1. 1.学習者に台所に関する日本語の「ことばリスト」を配り、ことばの意味を予想させる。
  2. 2.学習者はグループになり、Key Phraseの360度画像の中から予想したものを探し、チェックポイントをクリックし、それぞれのことばの意味と発音を確認する。
  3. 3.ことばの意味をリストに書き込み、リストを完成させる。
  4. 4.クラス全体でことばの意味と発音を確認する。

STEP3 「1.Entrance hall(玄関)」を使った活動例:家を通して異文化に触れる

  1. 1.クラス全体で昔ながらの家の玄関を360度見渡し、自分たちの家と同じところや違うところを話し合う。
  2. 2.グループに分かれ、他の2つの家も昔ながらの家と同じか、違うところがあるかを予想した後で、全体で他の2つの家も360度見渡し、気づいたことを話し合う。
  3. 3.もう一度グループに分かれ、自国との違いで気になったところ(靴を脱ぐ/脱がないなど)、または、日本のそれぞれの家における違いで気になったところ(玄関の段差が高い/低いなど)を1つ選び、なぜそうなのかを考え、調べる。
  4. 4.調べた結果と気づいたこと、考えたことをグループごとにまとめ、発表する。

VRコンテンツを効果的に活用すれば、よりリアルな体験が提供できるだけなく、学習者の学習動機や主体性を高めることにもつながるでしょう。
みなさんの学習者に合わせ、自由にアレンジして授業でご活用ください注1

2.「関西国際センター バーチャル館内案内」とは

関西国際センター バーチャル館内案内」は、KCのウェブサイトで公開されているコンテンツで、KCにある10の施設や設備をVR画像で内覧することができます。日本語と英語に対応しており、研修参加予定の方をはじめ、訪日日本語研修(受託研修注2)の委託を検討している担当者の方、図書館や食堂を利用したい一般の方など、誰でも利用することができます。コンテンツは、「View in map(マップでみる)」モード と「Take a tour(ツアーにいく)」モードの2種類があります。

KCバーチャル館内案内トップ画像

「関西国際センター バーチャル館内案内」トップ画像

a.「View in map(マップでみる)」モード

「マップでみる」モードは、フロアマップから見たい場所をクリックして直接その場所にジャンプできます。

  • フロアマップ
    フロアマップ
  • 食堂の画像
    クリック先の「食堂」の様子

b.「Take a tour(ツアーにいく)」モード

「ツアーにいく」モードは、画面を360度自由に動かし、進みたい方向に現れた矢印をクリックすると、自分が選んだルートを進んでいくことができます。

  • 「ツアーにいく」モードの最初の画面
    スタート画面
  • 「ツアーにいく」モードのルート選択画面
    ルート選択の画面

来日前にこのコンテンツを使った研修参加者から「見るのが楽しいし、来日前の準備にも役立った」という声がありました。また、研修への期待が増した、不安の解消につながったという声も聞かれました。説明や写真だけとは違い、自分が館内にいるかのように視点を動かせる点が評価されたようです。

授業での活用例

この館内案内は、KCに来る予定がなくても、教室活動などに利用することができます。ここでは、インフォメーションギャップ(自分と相手との間の情報差)を用いた活動アイディアを2つご紹介します。

a.「マップをみる」モードを使った活用例:どこにいる?ゲーム

  1. 1.学習者を2人ペア(A、B)にし、それぞれ別のデバイスを使って「マップをみる」を開く。
  2. 2.Aはフロアマップから「宿泊室」などいずれか1つの場所を選び、その場所を開く。
  3. 3.Bはフロアマップを開いておく。
  4. 4.Aは開いた場所の中を360度見渡しながら、何があるか、どんな場所かをBに伝える。
  5. 5.Bはフロアマップを見ながら、Aのいる場所を推測し、その場所を選んで開く。
  6. 6.Aがもう一度場所の説明をし、Bは自分で選んだ場所を360度見渡しながら、Aが選んだ場所と同じかどうかを確認する。

b. 「ツアーにいく」モードを使った活用例:道案内ゲーム

  1. 1.学習者を2人ペア(A、B)にし、それぞれ別のデバイスを使って「ツアーにいく」を開く。
  2. 2.教師はAに、「和室」などいずれかの場所を示す。
  3. 3.Aはスタート画面の◎をマウスオーバーして、「和室」を探し位置を確認する。
  4. 4.AとBはスタート画面の「PRESS to start a tour」矢印をクリックし、ツアーを始める。
  5. 5.Aは「和室」の位置をイメージして移動しながら、「まっすぐ行ってください」「右に曲がってください」などと言って、Bにも道順を伝える。
  6. 6.Bは、Aの指示を聞きながら矢印をクリックして進み、「和室」を目指す。

複数のペアで競ったり、たどり着くまでの時間を測ったりすると、よりゲーム性の高い活動になります。ぜひ授業などで活用してみてください。

おわりに

今回は、KCが制作した2つのVRコンテンツについてご紹介しました。みなさんの教育現場に合わせてぜひご活用ください。

注:

  1. 1.「HVコース」を教育目的で利用する際には、「KCクリップ」にある著作権、知的財産権の説明をご確認ください。
  2. 2.KCの受託研修については、ウェブサイト「日本語研修」に掲載の「受託研修【PDF:927KB】」や「提案依頼フォーム【PDF:760KB】」をご参照ください。

(中尾有岐・岡本拓/関西国際センター日本語教育専門員)

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