日本語教育通信 日本語教育レポート 第40回

日本語教育レポート
このコーナーでは、国内外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

【第40回】
ミャンマーで「日本語教師育成特別強化事業」がスタート!
-協働的に学ぶ10か月間のトレーニング-

元ヤンゴン外国語大学日本語上級専門家 佐藤 直樹
マンダレー外国語大学日本語専門家 國頭 あさひ

1.ミャンマーでの日本語教師育成特別強化事業

1.1 背景

 ミャンマーでは、日本語学習者の急激な増加による日本語教師の需要に応えるため、2018年度から日本語教師育成特別強化事業がスタートしました。
国際交流基金が3年ごとに実施している日本語教育機関調査結果では、2015年から2018年の3年間で、ミャンマーにおける日本語教育機関数と日本語教師数が約3倍も増加しています。
このように、ミャンマーの日本語教育は数の面では急激に伸びていますが、質の面で課題があります。勉強中の学習者が同じ日本語学校の教師としてアルバイトをすることも、JLPTのN3レベルに合格したばかりの教師がN3合格を目指すクラスを担当することも、あまり珍しいことではありません。ミャンマーのほとんどの日本語教師が、日本語教育の知識や教え方を学ぶ機会もなく教壇に立っている状況です。
そこで、ミャンマーの日本語教育の質的レベルアップを図るため、ヤンゴン外国語大学(以下、YUFL)で、10か月間の「日本語教師育成コース」を立ち上げることになりました。

1.2 「日本語教師育成コース」とは

 このコースは、国際交流基金ヤンゴン日本文化センターとYUFLが協定を結んで、2018年12月にYUFLの修了証コースのひとつとして開設されました。また、2019年12月からはマンダレー外国語大学(以下、MUFL)でも同じコースが開設されました。YUFLMUFLはミャンマーの日本語教育の中心的機関であり、両大学の日本語学科にはそれぞれ20名近くの教員が在籍しています。そのほとんどの教員は、国際交流基金のプログラムで教師研修を受けてきました。現在はその中の5名の講師注1と派遣専門家が協力して、ヤンゴンとマンダレーでコースを運営しています。

1.3 「日本語教師育成コース」の目標とアプローチ

 このコースは、日本語教育の基礎知識と実践力の両面を身につけて、ミャンマーの日本語教育のさまざまな現場で活躍する人材を育成することを目指しています。
まず、受講生が「学習者のコミュニケーション能力を向上させる授業ができる」ようになることが、このコースの第一目標です。また、学習者が日本語を使う場面で、周りの人と協力したり自分で考えたりしながら日本語でやりとりができるように、「自律的・協働的に学べるよう指導できること」も目標に加えました。
これらの目標は、知識として座学で学ぶだけで達成できるものではありません。コースの授業では、他者の意見を取り入れながら学べるように、グループでの協働作業やピアリーディング、グループディスカッションなどを行っています。また、コミュニケーションを重視した教授法を体験したり、実際に試したりしながら、納得してより良い教え方を身につけられるようにサポートしています。

2.「日本語教師育成コース」の概要

2.1 コース内容

 このコースは、将来日本語教師になりたいミャンマー人を対象とし、日本語能力はN2程度としました。すでに日本語教師として教えている人も、全く教えたことがない人も、そしてYUFLMUFLの日本語学科の学部生も受講できます。近年、学部生の間では日系企業への就職の人気が高く、教師になりたいという人が少ないのですが、卒業する前に日本語教師に必要な知識と実践についてトレーニングを受ける機会があれば、将来、日本語教師を職業に選ぶ学部生が増えるだろうと期待しています。

受講生数
第1期
(2018-2019)
ヤンゴン 学部生11名、一般24名 計35名(修了者30名)
第2期
(2019-2020)
ヤンゴン 学部生11名、一般20名 計31名
マンダレー 学部生10名、一般9名 計19名

 YUFLでの授業は土曜日と日曜日の週2日で、1日の授業は3時間です。スケジュールは大学の学部コースに合わせて、12月から3月を前期、6月から9月を後期としています。なお、パイロットコースとしてスタートしたYUFLの第1期では、学部生が受講しやすいように、平日の放課後にも土日と同じ内容のコースを実施しました。第2期からは、学部生と一般の受講生が一緒に学べるように、ひとつのコースとして実施することにしました。
コースには、前期2科目、後期2科目の4つの科目があります。前期は理論や知識を学ぶテーマが多く、後期はより実践的な内容になります。

第1期のコース内容
  土曜日 日曜日
前期
12月〜3月
JLT001「外国語教育概論」 JLT002「日本語教育」
  • 教師の資質
  • 第二言語習得
  • 外国語教授法
  • 日本語の音声
  • 評価法
など(計45時間)
  • 問題点の共有
  • JF日本語教育スタンダード
  • 教材分析
  • 授業設計
  • 教案作成
など(計45時間)
後期
6月〜9月
JLT003「日本語教授法」 JLT004「教育実習」
  • 4技能の教え方
  • コースデザイン
など(計45時間)
  • 『まるごと』授業実施
など(計45時間)

2.2 授業の様子

 ここでは、4つの科目ごとに授業の内容や受講生の様子を紹介します。

JLT001「外国語教育概論」
教壇でイラストカードや「?」が書かれたカードを見せながらミャンマー語を教える先生役の受講生と、それを聞く学生の写真
直接法でミャンマー語を教える受講生

 この科目では、日本語教師として知っておくべき理論や知識を中心に扱っています。教師の経験がない受講生にもわかりやすいようにワークシートを作り、グループで話し合いながら知識を身につけられるようにしています。
外国語教育にはいろいろな教授法がありますが、ミャンマーでは、説明中心の文法翻訳法のような教え方しか知らない人が多いです。受講生が文法翻訳法以外の教授法を体験して理解するために、母語であるミャンマー語を外国人に直接法で教えてみる時間を設けました。実際にやってみて、媒介語で説明しなくても伝わることが体験できた受講生もいました。また、身の回りの言語の使用場面を捉えなおす機会にもなったようです。

JLT002「日本語教育」
先生と受講生が『まるごと』を使ってスペイン語の会話をする様子、そして楽しそうにそれを見る受講生の写真
『まるごと』を使ってスペイン語を学ぶ様子

 この科目では、JF日本語教育スタンダードに準拠して作られた『まるごと 日本のことばと文化』入門(A1)(以下、『まるごと』)と、ミャンマーで現在広く使われている『みんなの日本語』の2種類の教材を分析して、コミュニケーション能力を高める授業づくりについて学びます。
『まるごと』は、Can-doを目標にすることで日本語でのコミュニケーションの実践力をつけることを目指した教材ですが、その特徴を実感してもらうために、実際に『まるごと』を使った授業を体験してもらうことにしました。日本語レベルがN2程度の受講生と『まるごと』入門(A1)ではレベルが合わないので、筆者が講師となって、受講生が全く知らないスペイン語で『まるごと』の授業を実施してみました。短時間でしたが、受講生は未知の外国語でタスクを達成することを体験し、課題遂行を目的とした言語教育について理解することができたようです。

JLT003「日本語教授法」
グループワークで話し合いをし、傾聴する様子の写真
グループワークでお互いの意見に耳を傾ける

 後期になると内容はより実践的になります。聴解や読解など、ストラテジーを意識した授業をグループで話し合って考えて、教室活動の一部を実践してみるという作業を繰り返します。このコースで初めて会話や作文の指導方法について考えたという受講生も少なくありません。4技能をバランスよく教えることが重要だと気づいた受講生が多かったようです。

JLT004「教育実習」
『まるごと』を手に、にこやかに教壇に立つ受講生の写真
実習で初めて教壇に立つ受講生

 第1期はYUFLの他学部の学部生を対象にした無料の日本語クラスを作って教育実習を実施することにしました。受講生3~4人で『まるごと』入門(A1)かつどう編の1課ずつを担当しました。録画した授業はすべてクラウドで共有し、自分が行った授業を見て文字化することで、自己評価と内省の機会としました。受講生同士のアドバイスやピア評価も行いました。講師からのフィードバックは最小限にして、できるだけ受講生が自分で振り返りができるように働きかけました。

2.3 コースの評価

 このコースはYUFLMUFLのコースとして開講しているため、大学の基準に合わせて以下の項目で評価しています。

  • 出席10%(80%以上出席しないと試験が受けられない)
  • クラス活動20%
  • ポートフォリオ20%
  • 試験50%

 このコースは科目が4つありますが、それぞれの科目で80%以上出席しないと試験が受けられず不合格となります。受講生にとっては1回1回の授業が重要です。10か月間、毎週休まず通い続けるのは易しいことではありませんが、第1期は皆勤賞の受講生も多く、このコースにかける一人ひとりの高い意欲が感じられました。
試験は4つの科目ごとに中間試験と期末試験を行っています。第1期の試験は、レポートや教案作成などを行いましたが、受講生の理解度が確認しづらかったため、第2期では知識の整理を目的としたペーパーテストも実施することにしました。

3.マンダレー外国語大学でも「日本語教師育成コース」が開講

 2019年12月にMUFLでマンダレー日本語教師育成コース開講式が行われ、ミャンマー第2の都市でのプログラムが始動しました。
マンダレーはヤンゴンほど日系企業の進出がなく、日本語学校の数も少ないものの、日本語学習者の実力も意欲も、そして教師の熱意もヤンゴンに負けてはいません。
コースの内容はヤンゴンと同じですが、マンダレーでは水曜日と木曜日の放課後に授業を行っています。日本語学科で優秀な成績の学部生がこのコースを受講して、一般の受講生と協力しながら学んでいます。マンダレーで初めて開いたコースですが、コース初日から和気あいあいとした雰囲気で、楽しく授業が進められています。

マンダレーの教師育成コース開講式における記念写真。前列に民族衣装を着た受講生が座り、後列に来賓、関係者が並んでいる。
マンダレー日本語教師育成コース開講式

4.これまでの成果と今後の課題

4.1 受講生の声

 第1期の前期と後期の終わりには、匿名制のWebアンケートを行いました。回答を見ると、受講生はミャンマーで日本語教師育成コースが新設されたことを歓迎し、コース内容にも満足しているようでした。一方で、「勉強する内容が多すぎて時間が足りない」「資料の言葉が難しい」などのフィードバックも得られました。また、「教師になるための訓練はN4合格者でも受けるべき。その人たちのためにミャンマー語でのコースも設けるべき」「上級の教師養成講座があればいい」など、今後の展開に関するリクエストもありました。
さらに、アンケートにはコースの担当講師に対する評価も項目に入れました。ミャンマーの文化では学生が教師を評価することはないようです。しかし、このコース自体、受講生にコースデザインのモデルを示すという意義もあります。この教師育成コースを改善するためにも、また、講師を評価することで教師としての姿勢に気づかせるためにも実施することにしました。受講生から得た有効な意見はコース運営に生かすようにしています。

4.2 今後の課題と展望

 ヤンゴンとマンダレーの2都市で教師育成コースが開講できたことは、ミャンマーの日本語教育にとって大きな進展となりました。今後は両コースの内容をさらに充実させ、より現地のニーズに応えるコースにするために、YUFL・MUFLの担当講師との連携が重要になると感じています。
このコースは10か月という長期間のコースであるため、受講生の成長過程を本人も講師も実感することができます。その反面、1年間で育成できる人数には限りがあります。そこで、これからのミャンマーの教師育成の鍵となるのが、受講生同士の横の連携ではないかと考えます。修了生がこの教師育成コースで学んだことを、職場や地域の日本語教師に伝え広げていって、ミャンマーの日本語教育全体のレベルアップに貢献してくれることを期待しています。

注:

  1. 1.こちらの5名はコース立ち上げに携わり、コース運営にも大きく寄与した講師です。
    ヤンゴン外国語大学:
    ジンマーオン先生(Ms. Zin Mar Ohn
    ソーエインダーヌェ先生(Ms. Saw Eaindar Nwe
    ナンミャッソー先生(Ms. Nan Myat Saw
    マンダレー外国語大学:
    ウィンウィンタン先生(Ms. Win Win Than
    ヌェーニウィン先生(Ms. Nwe Ni Win

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