日本語教育通信 日本語教育レポート 第41回

日本語教育レポート
このコーナーでは、国内外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

【第41回】
ヨーロッパ日本語教師会サミット- AJE Summit 2020開催報告
-ヨーロッパの日本語教育の今後に向けて-

マリオッティ会長肖像写真 ヨーロッパ日本語教師会(AJE)会長 Marcella MARIOTTI
(マルチェッラ・マリオッティ)

 ヨーロッパ日本語教師会(AJE注1は、2020年2月15日(土曜日)にベネツィアのカフォスカリ大学で、「欧州における日本語・日本文化の教育・学習活動の推進・活性化」をテーマとする日本語教師会サミット(AJE Summit)を開催しました。20年ぶりのこのサミットには22か国から教師会などの日本語教師コミュニティの代表が参加して、各国の日本語教育の現状を共有し、今後のヨーロッパにおける日本語教育コミュニティの活動のあり方とその意義について共に考えました。
本稿では、本サミット開催の経緯と成果、今後の展望について、AJE会長の立場から述べたいと思います。サミットに参加した各国教師会代表の詳しい報告内容は、AJEWebサイトで公開しておりますので、ぜひご参照ください注2

ヨーロッパ日本語教師会サミット 参加教師会・代表一覧

アイルランド日本語教師会、イタリア日本語教育協会、英国日本語教育学会、
オーストリア日本語教師会、オランダ日本語教師会、クロアチア日本語教師会、
スイス日本語教師の会、スウェーデン代表、スペイン日本語教師会、
スロベニア日本語教育協会、セルビア日本学会、チェコ日本語教師会、
デンマーク代表、ドイツ語圏大学日本語教育研究会、ハンガリー日本語教師会、
フィンランド日本語日本文化教師会、フランス日本語教師会、ベルギー日本語教師会、
ポルトガル日本語教師会、ラトビア代表、リトアニア代表、ルーマニア日本語教師会

(全22か国、五十音順)

1.開催の経緯

 本サミットの開催については、2019年8月にベオグラード大学で開催された第23回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムにおけるAJE総会で会員に初めて公表しました。AJE会長を2期6年間務めてきた私にとっては、長らく温めていた構想であり、会長としての職務の集大成と言えるものでした。
私は2014年に日本語非母語話者会員として初めての会長になりましたが、ヨーロッパにはまだAJE会員がいない国もあり、教師会のネットワークをさらに広げる必要性を感じました。また、AJE会長として、シンポジウム開催の準備等で外部の方に支援を依頼する機会もありましたが、ヨーロッパの日本語教育の現状を正確に把握し、外部に情報発信していくことが重要だということも痛感しました。
ヴェネツィアのカフォスカリ大学外観の写真
ヴェネツィア・カフォスカリ大学
そして、2019年に私自身が「ヨーロッパにおける日本語教育」というテーマでカフォスカリ大学の研究費を獲得したことをきっかけに、1999年にケルンで開催された日本語教師会代表者会議を20年ぶりに開催できないかと考えました。さらに、2018年にカフォスカリ大学で日本語教育国際研究大会(ICJLE)を開催したことにより、日本語教育に理解のある多くのスポンサーを獲得することもできました。そこでの経験に加え、国際交流基金の支援も得て、今回のサミット開催にこぎつけることができました。
本サミットの目的は、ヨーロッパのなるべく多くの国の教師会の代表が一堂に会して、各国の現状と課題を直接共有し、今後のヨーロッパの日本語教育の意義を共に考えることです。各国の日本語教育の情報やデータは、たとえば国際交流基金のWebサイト等でも得ることができますが、生の声で実情を交換することが重要だと考えました。私のこの考えにAJEの会員の皆さんが賛同し協力してくださったことは、大変心強いことでした。
本サミットには最終的に22か国の代表が参加しましたが、ヨーロッパには教師会がまだない国もあり、そのような国からの参加を得るのには非常に苦心しました注3。前出のシンポジウム等で発表された方に直接声をかけたり、他国の教師会を介して連絡してみたり、欧州諸国からの留学生にも協力を求めたりしましたが、日本語教育を実施していることは確認できても担当者に連絡がどうしてもつかず、招聘を諦めた国もありました。また、開催時期も当初は2019年の秋を想定していましたが、各国の事情が異なり、最終的に2020年2月の開催となりました。

2. 成果

 サミット当日は朝から夕方まで、22か国の代表が順番に10分ずつの報告をぎっしり行いました。報告内容については簡単なテンプレートを用意して、教師会の基本情報や、主に大学の日本語教育事情、他の国の教師会代表と話し合いたい点についての提案を準備してもらいましたが、テンプレートを埋める作業によって自国の状況を改めて知る機会になったという声もありました。また、お互いの報告を聞くことで、自国と似た状況や同じ悩みを持つ国が他にもあることを知ることができ、今回のサミットを通して、その国の教師会とのつながりができたという声が多く聞かれました。本サミットの目的はAJEが各国の教師会を束ねるということではなく、教師会同士の横のつながりを作ることにあります。その点では、少ない休憩時間だけでなく、移動や昼食の時間、懇親会後の二次会、三次会までも、寸暇を惜しんで情報交換をしている参加者の姿が印象的でした。

ヨーロッパ日本語教師会サミット スケジュール

8時00分
受付
8時20分~8時30分
サミット概要、AJE紹介、参加者紹介
8時30分~10時10分
各教師会報告①(7か国)
Q&Aを含む。以下同じ。
10時10分~10時40分
モーニングティー
10時40分~12時20分
各教師会報告②(6か国)
12時20分~12時50分
振り返り・まとめ
13時00分~14時20分
昼食
14時40分~15時50分
各教師会報告③(5か国)
16時00分~17時10分
各教師会報告④(4か国)
17時10分~17時30分
休憩
17時30分~18時45分
ディスカッション
19時30分~21時30分
懇親会

 今回のサミットでは、各国の日本語教育の多様性が改めて認識されました。中等教育から高等教育、継承日本語教育、民間日本語学校の存在、そしてアジアやアメリカの日本語教育と比較した際のヨーロッパの特徴など、話題は多岐にわたりました。また、中東欧からは日本語非母語話者教師が代表として参加していて、母語話者教師が中心となっている西欧からの参加者は大いに刺激を受けたようでした。同じヨーロッパでも地域によって母語話者と非母語話者の教師の比率が大きく異なり、そこでの課題も異なることが認識されました。西欧では、非母語話者教師に教師会に参加してもらうこと自体が大きな課題になっています。思い返せば、私が初めて参加した2008年のAJEシンポジウムでも、非母語話者教師、特に非漢字圏の会員は数えるほどしかいませんでした。
ヴェネツィアのカフォスカリ大学で開催されたヨーロッパ日本語教師会サミットの様子の写真。ラウンド型に配置されたテーブルに参加者が向かい合って座っている。
ヨーロッパ日本語教師会サミット会議の様子
一方、共通の課題としては、日本語教師の待遇が経済的に厳しく、ボランティア・ベースの教師会役員のなり手が不足していることが指摘されました。また同じ理由で国際的な学会やシンポジウム等に参加できる教師は限られており、必ずしも研究者をめざすとは限らない会員のニーズをどう汲み取り、スキルアップをどう図るかということも話題になりました。具体的な解決策としては、国を超えたオンラインによる勉強会やワークショップを開催し、AJEWebサイトに設置を予定しているイベントカレンダー注4で共有することが挙げられました。折しも新型コロナウィルスの影響でヨーロッパではオンラインによる教育が急速に普及しており、これまでオンラインに馴染みがなかった教師も利用せざるを得ない状況になっていることから、今後のさらなる活用が期待できそうです。

3. 今後に向けて

 今回のサミットの一義的な目的は、ヨーロッパのなるべく多くの国の教師会代表が集まり、お互いの国の日本語教育の現状と課題を共有し、横のつながりを作ることでしたが、その点では十分な成果を挙げられたと思います。また、高等教育だけでなく中等教育や継承日本語教育などの分野でも、国を超えて日本語教育の情報交流を行う意義、さらに、次世代教師の育成という視点から、ヨーロッパの教師教育プログラムの連携を行う意義についても話題になりました。
今後はここで共有した課題を、横のつながりを生かして解決していくことが求められます。それには20年に1回ではなく、2、3年に1回はこのような機会を持てることが理想ですが、そのためには国際交流基金以外のスポンサー探しも大切であり、AJEの活動をヨーロッパ各国の社会に浸透させ、貢献度、認知度を高める努力が必要です。それは、私たちがことばの教育を通じて、新しい価値を創造し、それを広く発信していくことができるかどうかに関わることでしょう。今後、日本語教育に関わる教師の共通のヴィジョンとして、複言語・文化に対する意識や文化間コミュニケーション能力から構成される「複言語複文化能力:Plurilingual and Pluricultural Competences–PLCC (Council of Europe 2018)」や、公共の場に市民としての責任や他者への尊敬を持って参加する姿勢や行動の基盤となる「民主的文化のための能力:Competences for Democratic Culture–CDC (Council of Europe 2016)」を、日本語教育の取り組みの中でさらに議論する必要があると考えています。
ヨーロッパ日本語教師会サミットでは、これからの日本語教育が何を目指すか、21世紀の教師会の役割とは何か、という大きな問いも共有されました。ヨーロッパの日本語教師コミュニティの構成員として、共に考えていくつながりが生まれたことを喜んでいます。
また、今回図らずも日本語母語話者教師と非母語話者教師が教師会代表という立場で同席する機会が持てたように、これからは非母語話者教師が参加しやすい教師会のあり方を模索していく必要があるでしょう。今回のサミットでは、カフォスカリ大学の多くの学生が協力してくれましたが、その学生たちにも今後の活躍を期待したいと思います。

注:

  1. 1.ヨーロッパ日本語教師会は、国際交流基金日本語国際センターの平成6年(1994年)度在外邦人日本語教師研修に参加したヨーロッパの教師が中心となって立ち上げた組織で、2009年にドイツで非営利団体として正式に認可を受けました。2020年4月現在の個人会員総数は488名、毎年「ヨーロッパ日本語教育シンポジウム」を開催しています。
  2. 2.AJEWebサイトには、本サミットで各国の代表が報告用に作成したスライド資料の他、毎年のシンポジウムの報告や論文集も「シンポジウム・論文集」のページに掲載されています。https://www.eaje.eu/ja/symposium
  3. 3.この場を借りて、AJEの役員と カフォスカリ大学の小島卓也氏、マッテオ・ナッシー二氏、スウェーデン代表の充代リーデン氏のご協力に感謝を申し上げます。
  4. 4.2020年5月に会員がイベント情報を発信できるカレンダーを設置しました。https://www.eaje.eu/ja/calendarevent

※本稿はマルチェッラ・マリオッティ会長へのインタビューをもとに以下2名が執筆しました。
国際交流基金ロンドン日本文化センター上級専門家 藤光由子
国際交流基金日本語国際センター専任講師/元国際交流基金マドリード日本文化センター上級専門家 篠崎摂子

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