日本語教育通信 日本語教育レポート 第44回

日本語教育レポート
このコーナーでは、国内外の日本語教育について広く情報を交換したり、お互いの交流をはかるために、各地域の新しい試みやコース運営などについて、関係者の方々に具体的に紹介していただきます。

【第44回】
オンライン日本語コンテスト「ストーリーテリング15×15」

バンコク日本文化センター
日本語専門家 大田 祥江

コンテスト実施の経緯

 2020年度は新型コロナウイルスの世界的流行により、2014年から毎年タイ全土の中等教育機関へ派遣してきた日本人ティーチングアシスタントである日本語パートナーズ(以下、NP)の派遣が中止となりました。NP不在の中、国際交流基金バンコク日本文化センター(以下、JFBKK)では、派遣校でNPのカウンターパートとなるタイ人日本語教師(以下、CP)向けにオンラインで日本語セミナーや日本語教授法セミナーを実施するなどのサポートを継続してきましたが、2020年度はタイ全土で日本語コンテストの多くが中止になったことを受け、派遣校の生徒向けにオンライン日本語コンテストを実施することにしました。概要は、以下の通りです。

実施日時 2020年12月19日(土曜日)タイ時間 午前10時~12時
競技種目 ストーリーテリング15×15(JFBKKオリジナル競技)
実施方法 参加者とJFBKKZoomでつなぎ、Youtubeライブで一般向けに配信
出場者 2020年度NP派遣校のうち15校30名の高校生(ペアで参加)
指導サポート NP15名
実施目的
  • 日本語に対する興味関心を高める
  • 仲間と助け合い、共に学ぶ
  • 自分の得意なことや苦手なことに気付く
  • 自主的に考え、学習を進められるようになる

「ストーリーテリング15×15」とは?

 オンライン日本語コンテスト「ストーリーテリング15×15」は、あらかじめ用意された100枚の画像の中から15枚を選び、選んだ画像を組み合わせて1つの物語を作り、規定時間で発表するという競技です。
 画像は15秒ごとに自動で切り替わる設定になっており、15秒×15枚(+最後に話をまとめて挨拶する時間15秒)の合計240秒=4分間で発表しなければなりません。自動的に画像が切り替わることで緊張感が生まれ、テンポの良いプレゼンテーションができるというメリットがあります。途中で画像を止めたり戻したりすることができないため、発表者は画像の切り替わるタイミングに合うよう、話す分量やスピードを考慮して練習を重ねることが大切です。
 規定時間に沿って発表するという方法は、「PechaKucha」というプレゼンテーション形式を参考にしました。PechaKuchaは、クリエイターたちが自分の作品をテンポよく発表するための形式として発案されたもので、20枚のスライドを各20秒ずつ、計400秒で発表するのがルールですが、今回は日本語を学ぶ高校生に合うよう、15枚×15秒に短くしました。

コンテストのルール説明画像(15枚の写真×15秒+最後の写真のみプラス15秒=合計240秒)

 コンテストのルールを視聴者にも理解してもらえるよう、日・タイ両言語でルール説明の動画を作成し、事前にJFBKKYoutubeチャンネルにアップしておきました。タイ語版はYoutubeライブでコンテスト当日にも流しました。動画はJFBKK YouTubeチャンネルからご覧いただけます。

コンテスト開催までの流れ

 出場者の募集からコンテスト実施までは、以下のような流れで行いました。

  8月
  • 大会ルール作成
  • 2020年度にNPを派遣する予定だった84校に、出場者募集の案内をメールで送信
  • コンテストをサポートするNP15名を決定
  9月
  • 出場希望校の中から本選出場の15校を決定
10月
  • NP向けZoom講習
11月
  • 出場校およびNP向け説明会、顔合わせ
  • 100枚の画像を発表、大会準備スタート(大会の約1か月前)
12月
  • リハーサル(大会2日前)
  • コンテスト開催

出場者について

 2020年度にNPを派遣予定だった84校にコンテスト開催のお知らせを送り、応募時に送ってもらった自己紹介ビデオの審査をもって出場する15校を決定しました。出場者は高校1年生から3年生、各校2人ペアでの参加とし、日本語レベルや日本語を専攻しているか否かは不問としました。

オンラインサポートについて

 生徒の練習を日本からオンラインでサポートするNPを1校に1名、約4週間派遣しました。サポートするNPは、過去3年間にタイに派遣された元NP(約230名)に募集メールを送り、応募者の中から15名を決定しました。NPは、オンラインでは生徒とZoomをつないで発音指導などを行い、オフラインでは原稿チェックや生徒の発音練習用にNP自身の声を録音して生徒に渡すなどのサポートを行いました。NPの週あたりの活動時間は5時間としましたが、オンライン・オフラインの時間配分は、NPと派遣校のCPで相談の上、決定しました。

100枚の画像について

 コンテストでは、スタッフが撮った写真や、photo ACなどの著作権フリーサイトの写真を使いました。これらの画像は、コンテスト開催の約1か月前にOneDriveにアップし、出場校に公開しました。

コンテストの練習

 コンテスト開催の約1か月前に、出場校の生徒・CPおよびNP向けにオンラインで説明会および顔合わせを行い、それと同時にコンテストに向けた練習をスタートさせました。

STEP1 出場者は15枚の画像を選択し、物語を作る

 出場者はペアで協力して100枚の画像の中から15枚を選び、順番に並べて1つの物語を作りました。物語のテーマは自由としました。生徒の自主性を尊重するため、CPNPには物語の作成に介入しないよう、説明会の時にお願いしました。

コンテストの準備説明画像(100枚の写真から15枚選択→15枚を並べて一つの物語を作成)

STEP2 15秒×15枚+15秒=4分間で発表できるよう練習する

 物語を作ったら、生徒はCPに翻訳を手伝ってもらったり、NPに日本語を添削してもらったりしました。また、原稿が完成した後は学校でCPと練習を行い、オンラインでもNPと発音練習を繰り返しました。なお、当日使用するスライドはJFBKKが作成し、同じものを出場者にも渡して練習時に使ってもらいました。

  • オンラインでNPと発表練習をする様子(写真1)
  • オンラインでNPと発表練習をする様子(写真2)
  • オンラインでNPと発表練習をする様子(写真3)

オンラインコンテスト当日

Youtubeライブ配信の様子の写真(出場者15組の顔ぶれ)

 コンテスト当日は主催者であるJFBKKが中継基地となり、タイ各地の出場校および日本にいるNPZoomをつないでオンラインで参加しました。コンテスト2日前には出場者とNPが全員参加してのリハーサルを行っていたため、当日は特に混乱なくスムースに進行しました。コンテストの様子を多くの人に見てもらえるよう、業者に依頼し、Youtubeライブで配信を行いました。

Youtubeライブ配信の様子の写真(タイ語と日本語で司会進行)

 Youtubeライブは世界中の日本語学習者や教師が見ることを前提に、タイ語と日本語で司会進行をしました。タイ語の司会はJFBKKのタイ人スタッフが担当し、日本語の司会は、タイの中等教育機関での活動も活発に行っているタイ在住の「タイ住みます芸人」はなずみ氏(よしもとエンタテイメント・タイランド所属)が担当してくださいました。

コンテストルールを紹介する画面(ストーリーテリング、独自のルール、国際交流基金バンコク日本文化センターオリジナルのコンテスト)

 どんなコンテストなのか視聴者が理解できるよう、NP事業の紹介動画やルールを紹介する動画をそれぞれ2分程度で作成し、コンテストの最初に流しました。

Youtubeライブ配信の様子の写真(スライドが左側、出場者が右下に映し出される)

 発表の際は、発表者が話すタイミングをつかみやすいよう、スタートの5秒前からカウントダウンを入れました。画面は、スライドが左側、出場者が右下に映し出されるようにしました。出場者はメモを見ず、全て暗記して発表しました。また、声による演技だけでなく、豊かな表情やボディーランゲージを交えて発表したペアも多くいました。

Youtubeライブ配信の様子の写真(審査員6名)

 15組の参加校を5校ずつ3つのグループに分け、5校終わるごとに審査員からのコメントをもらいました。

審査について

 コンテストは、以下の6つの項目で評価しましたが、NPがオンラインで生徒をサポートしたことを考慮して➁・➃・➅は配点を少なくしました。

  • ➀ ストーリーの独自性、創造性 15点
    ➁ 写真と内容との合致性 5点
    ➂ パフォーマンス 10点
    ➃ 文法や言葉の正確さ 5点
    ➄ 発音の正確さと流暢さ 10点
    ➅ 時間管理 5点
      計50点
  • コンテストの評価のポイントを示すイラスト(独自性、創造性 /文法やことば/発音/写真と内容との合致性 /パフォーマンス /時間管理)

 今回は審査員5組による審査で1~3位を決定するほか、視聴者が応援したい出場者に投票できる「ポピュラー賞」を設けました。ポピュラー賞の投票は、GoogleフォームのURLYoutubeの概要欄に記載し、誰でも自由に参加できるようにしました。ポピュラー賞は、最も得票数が多かったペア1組に授与しました。
 各賞はコンテスト終了時間までに集計し、youtubeライブ内で結果発表を行いました。

  • 優勝: シーグラヌアンウィッタヤーコム校(コンケン県) 「初恋」
  • 準優勝: ウドーンピッタヤヌクーン校(ウドンターニー県) 「りんの物語」
  • 3位: ノーンブアピッタヤーカーン校(ノーンブアランプー県) 「リスリーちゃんの秘密」
  • ポピュラー賞PCSHSパトゥムターニー校(パトゥムターニー県) 「え。。君の名前は」
  • コンテスト優勝発表:シーグラヌアンウィッタヤーコム校の出場者とオンラインNP の喜びの様子の写真
  • 準優勝を獲得したウドーンピッタヤヌクーン校出場者 の喜びの様子の写真
  • 3位を獲得したノーンブアピッタヤーカーン校出場者の喜びの様子の写真
  • ポピュラー賞を獲得したPCSHSパトゥムターニー校出場者の喜びの様子の写真

 優勝校のペアは、豊かな感情表現が画面からも伝わる熱演が、審査員から高評価を得ていました。

Youtubeライブ配信について

 コンテストをYoutube配信にしたことによって、大会当日はタイや日本、他の国・地域から、計2,849回の視聴がありました。また、コンテスト終了後も視聴できるようにしたことで、2021年4月5日現在、総視聴回数は4,968回に上っています。

総視聴回数:
4,968回(2021年4月5日現在)
うち、大会当日リアルタイム視聴回数2,849回
大会当日の視聴地域:
タイ…79.5%  日本…12.2%  ラオス…0.8%  その他…7.5%

オンラインコンテストを終えて

 オンライン日本語コンテスト「ストーリーテリング15×15」は、生徒が「日本語に対する興味関心を高める」「仲間と助け合い、共に学ぶ」「自分の得意なことや苦手なことに気付く」「自主的に考え、学習を進められるようになる」の4つを高めることを目的として行いましたが、コンテスト終了後に実施したアンケートでは、全ての項目で生徒の約9割が「できた・ややできた」と回答していました。

生徒の声

楽しくて、日本語を話す自信を持てるようになった
イラスト生徒1
イラスト生徒2
自分でストーリーを作れて楽しかった
発音、アクセント、読むスキルがとても向上した
イラスト生徒3

 生徒を指導したCPNPからは、以下のような声が挙がりました。

先生の声

生徒が自信をもって日本語で表現し、勉強を頑張るようになった。
イラスト先生CP1
CP
イラスト先生CP2
CP
簡単すぎず、難しすぎない日本語の練習になった。勉強しているレベルに適切だった。
初めは「NP対生徒1/生徒2」という構図で練習をしていたが、練習を重ねるにつれて生徒が自分で間違いに気づいて正しい発音を確認したり、ペアの相手の発音ミスを指摘し合っていたりする場面が見られるようになった。そのような雰囲気になってから2人とも一気に伸びたように感じた。
イラスト先生NP1
NP
イラスト先生NP2
NP
写真から独創的なストーリーを作る力、それを伝わる日本語で話す力、時間をコントロールする力、ストーリーに合ったパフォーマンスをする力など、日本語力以外の様々な要素を含んだとても面白い競技だと思った。
それぞれの個性が出て見ている側も楽しめるし、生徒の日本語力向上にもつながると感じた。
イラスト先生NP3
NP

 また、審査員やJFBKKのスタッフからは、以下のような意見が挙がりました。

イラスト審査員
審査員
物語を 「誰に向けて作り、誰に向けて語るか」 は、とても大切。
テーマを「自由」にしたが、自由だと逆に作りにくかった生徒もいた可能性がある。ある程度テーマを与えた方が作りやすく、内容もしっかりしたものになるかもしれない。
イラストスタッフ
スタッフ

さいごに

 オンライン日本語コンテスト「ストーリーテリング15×15」は、コロナ禍でNPを派遣できなくなってしまったことから派遣校支援のための特別な試みとして実施しましたが、コロナ禍の中で生徒に日本語学習の成果発表の機会を提供したり、オンライン日本語コンテストの可能性を広げたりすることができました。オンラインだけでなくオフラインでの開催も可能なコンテストなので、また機会があれば、次回はぜひオフラインで開催したいと思います。

参考資料:

What We Do事業内容を知る