平成30(2018)年 国際交流基金賞受賞者

多和田 葉子(小説家、詩人) [日本]

授賞理由

多和田葉子氏の写真
(c) Yves Noir

多和田葉子氏は1982年以来ドイツに生活の中心を置き、ドイツと日本の間で国と言語の境界を越えて自由に行き来しながら、詩と小説を書き続けてきた。日本語とドイツ語の両方で行われてきたその創作は、ドイツでも日本でも高く評価され、両国ですでに数々の権威ある賞を受けている。このようなバイリンガル作家は、近代日本史上前例のないユニークな存在であると同時に、今後の世界文学の一つの方向性を鮮やかに予告するものでもある。

多和田氏は日本語とドイツ語で作品を別々に書くだけでなく、自作を日本語・ドイツ語間で自ら翻訳したり、さらには二言語でほぼ並行して一つの作品の二つのバージョンを書いたりするなど、多様な形で両言語の間の領域を探索してきた。また世界中で精力的に朗読活動を続け、その回数はすでに1,000回を越えている。

この精力的な活動を通じて、多和田氏の作品は世界の読者の注目を集め、多くの外国語に翻訳されるようになった。また、多和田文学をめぐる国際会議や学会もすでに欧米や日本で何度も開催されている。こうして多和田氏は自らの創作を通じて、国と言語を越えた国際コミュニケーションを活性化させてきた。

二ヶ国語で創作し、国境を越えて活動する多和田氏は、文学に新しい越境的な領域を切り拓き、ともすればいまだに言語の壁の中に閉ざされがちな日本文学の境界を広げてきた。多和田氏は、母語の内と外で響く不思議な言葉の音楽に耳を澄まし、言語と言語の間に広がる沃野での冒険を楽しみながら、人間存在の不条理や可笑しさや恐怖の深みに我々を連れていってくれる。それは実験的でありながら、深く人間的な21世紀の文学の世界である。

このような多和田氏の国際的作家活動は、国や文化の壁を越えた真の相互理解の促進に貢献してきた。多和田氏が今後さらに前人未踏の道を突き進み、私たちに今後もますます豊かな言葉の音楽をもたらしてくれることを期待して、ここに国際交流基金賞を授与する。

細川 俊夫(作曲家) [日本]

授賞理由

細川 俊夫氏の写真
(c) Kaz Ishikawa

細川俊夫氏は、ヨーロッパと日本を中心に創作活動を展開し、欧米の主要な音楽祭、オーケストラ、歌劇場、アーティストたちから委嘱を受け、確固とした地歩を固めてきた日本を代表する作曲家である。

細川氏は1976年から10年間ベルリン芸術大学で作曲を学んだ。1980年、ダルムシュタットの夏期講習で作品を発表して以来、世界が待望する作品を次々と発表してきた。2004年のエクサンプロヴァンス音楽祭委嘱によるオペラ『班女』、2005年のザルツブルク音楽祭委嘱のオーケストラ作品『循環する海』(ウィーン・フィル世界初演)、2011年のモネ劇場委嘱によるオペラ『松風』(能「松風」をオペラ化、サシャ・ヴァルツ演出)、ベルリン・フィル、バービカン・センター、コンセルトヘボウ共同委嘱による『ホルン協奏曲 ─開花の時─ 』といった作品は、世界一流の指揮者や演奏家たちによって初演、成功を収め、いずれもレパートリーとして定着、世界中で再演され続けている。

「人は自然との一体感を求めているのに、人間そのものが自然を壊しつつあるという現実が創作のテーマ」とインタビューで語るなど、細川氏は森羅万象、自然界に起こるさまざまな音を聴きとり、救いのない状況への想いと共に譜面に織り込んできた。東日本大震災で受けた衝撃は、ヴィオラのための『哀歌』(2011年)、オーケストラのための『瞑想』(2012年)という犠牲者追悼の音楽となり、ソプラノとオーケストラのための『嘆き』(2013年)とオペラ『海、静かな海』(2014年)では震災の津波でわが子を失った母親を題材としている。そして今年7月、シュトゥットガルトで「チリの地震」を題材にした6作目のオペラ『地震、夢』が初演された。

細川氏の音楽はまさに日本人が決して忘れてはならないメッセージを内包し、世界各地で演奏され、国際相互理解の促進に貢献してきた。今後益々の活躍を期待して国際交流基金賞を授与する。

サラマンカ大学スペイン日本文化センター [スペイン]

授賞理由

サラマンカ大学スペイン日本文化センターの写真

本年創立800周年を迎えたサラマンカ大学は、ヨーロッパでも最古の大学のひとつとして、中世以来現代にいたるまで、長らく国際法、哲学、文学などの分野で世界の学術を主導してきた学術・国際交流の拠点である。日本とスペインが外交関係を樹立して以来、日本から数多くの研究者、大学生、外交官(候補生)を受け入れてきたことでも知られる。

天皇皇后両陛下は皇太子時代を含めて同大学を二度訪問されており、ご訪問を契機に1999年に創られ、来年設立20周年を迎える同大学「サラマンカ大学スペイン日本文化センター」は、世界で唯一皇后陛下のお名前を付けることが許可された文化施設「美智子さまホール」および日本関係図書を収蔵した図書館(林屋永吉大使日本研究図書館)を有し、スペインと日本の関係を維持強化する上で一貫して中心的な役割を果たしてきた。

スペイン日本文化センターでは、日本語教育や日本文化の紹介事業、歴史、政治、外交、社会に関するセミナーなど、極めて質の高い交流、普及活動を年間を通じて広範かつ活発に行っている。毎年行われる日本文化週間では、在スペイン日本国大使館、国際交流基金の全面的な協力のもと、スペイン人学生にとどまらず同大に滞在する世界各国の研究者や留学生、市民の参加を得て、日本文化の普及に資する多くの事業を展開している。2017年には、学長はじめ大学関係者も参加して、第4回スペイン日本語教師会シンポジウム、日本人形展、基金主催巡回展「新・現代日本のデザイン100選展」など数多くの催しが実施された。これらの活動により、同センターはいまではスペインの内外で高く評価されるに至っている。

スペイン日本文化センターは、このように長年にわたって、学術・文化交流を通じて日西友好、国際相互理解に貢献してきており、その業績は国際交流基金賞にふさわしい。日本スペイン外交関係樹立150周年およびサラマンカ大学創立800周年にあたる本年、今後いっそうの末永き発展を期待し、国際交流基金賞を授与する。

平成30(2018)年 国際交流基金特別賞受賞者

津川 雅彦(俳優)[日本]

授賞理由

津川 雅彦氏の写真
Nakajima Yosuke (smooth inc)

故・津川雅彦氏は、日本人の美意識・価値観を世界に発信し、国際親善と世界の平和に寄与する施策を検討するために総理官邸に設けられた「日本の美」総合プロジェクト懇談会の座長を務めた。 「日本の美」総合プロジェクト懇談会において津川氏は、文化の力で国際社会における日本の存在感を向上させるとともに、多様性に富んだ日本固有の価値を明らかにし、世界の平和に貢献することを提唱し、そのためのアプローチとして、「日本博」の開催を提案した。それはのちに今世紀最大規模の日本の文化・芸術の祭典「ジャポニスム2018」として実現に至った。

平成28年11月にジャポニスム2018の具体化及び開催準備等のために設置されたジャポニスム2018総合推進会議の総括主査として、ジャポニスム2018の企画全体に適切なアドバイスを行うとともに、伝統と現代、混沌と形式、永遠と一瞬、などの日本の美意識に基づくジャポニスム2018の全体コンセプトを具現化する展覧会「深みへ-日本の美意識を求めて-展」を発案し、推進した。また、広報などで発案も行い、推進した。 日本文化について深い見識を持つ文化人として、国際社会における日本の存在感の向上、世界平和への貢献を目指した具体的な政策提言を行い、ジャポニスム2018の実現に至る道筋をつけたことは国際相互理解の増進と友好親善の促進の観点から稀有な功績であり、その貢献を称え、国際交流基金特別賞を授与する。

※国際交流基金特別賞について
国際交流基金は、学術、芸術その他の文化活動を通じて、国際相互理解の増進や国際友好親善の促進に特に顕著な貢献があり、引き続き活躍が期待される個人または団体に対し毎年3件授与しています。国際交流基金特別賞は、国際交流基金賞の本賞に該当しない場合において、特に授賞が必要である場合に授与するもの。津川氏は本年8月に逝去されたため、「引き続き活躍が期待できる個人または団体が対象」となっている国際交流基金賞の本賞の対象とはならないため、特別賞をもって顕彰するものです。

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
コミュニケーションセンター
電話:03-5369-6075 ファックス:03-5369-6044

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