2025年度舞台専門家交流事業「YPAMディレクション」
国際交流基金(JF)は、舞台芸術分野における日本とASEAN諸国の次世代の交流担い手育成を目的として、国内外の舞台芸術関係者が集まるアジア最大規模のネットワーキングの場である横浜国際舞台芸術ミーティング(英語名称:Yokohama International Performing Arts Meeting)(以下YPAMという)との共催により、専門家交流事業を実施しています。(参照:国際交流基金 - 専門家・担い手の支援(舞台芸術) 2024年度)
YPAMは2011年以来、YPAM(旧TPAM)ディレクションにおいて、若手制作者の実験、海外からゲストディレクターを招いてのアジアの作品紹介、国際共同製作、新作委嘱など形を変えて実施してきましたが、このたび実験的なプロジェクトの簡易プレゼンテーションとディスカッションから成るフォーラムとして再編成します。新しい形式での第1回の実施となる今年は、JFとYPAMの共催により2010~20年代に台北、シンガポール、バンコクで画期的なアーティスト育成プログラムを展開した3人を各アーティストの「サポーター」として招き、それぞれのプロジェクトを触媒に、今アジアで作品を作ることの意味や方法、そして「作品」という概念そのものの現在を、プロフェッショナルの視点で、参加者のみなさんとともに時間をかけて検証します。
なおサポーターは12月9日~11日にYPAMで開催されるトークイベントに登壇予定です。
詳細はこちら:YPAMトークイベント(ミーティングポイント)
フォーラム1
| 日時 | 2025年12月9日(火曜日)19時~21時30分 |
|---|---|
| 作品名 | アユ・プルマタ・サリ (インドネシア) × ハシマ・ハリス (シンガポール) 『Batu』 |
| サポーター | ダニエル・コック(Dance Nucleus 芸術監督)(シンガポール) |
Batu(石)は、東南アジア全域のマレー系家庭の常備調味料であるサンバルを作るため、食材をすり潰すのに使われるすり鉢とすりこぎの材質を指します。『Batu』のコンセプトは、この石が単にすり潰すだけでなく、女性の身体を振り付けるものでもあるような、家政的で儀式的な空間で着想されています。
二人のマレー・ムスリム女性アーティスト、アユ・プルマタ・サリとハシマ・ハリスは、このプロジェクトに2024年から、エスプラネードとDance Nucleus(シンガポール)やB-Part(バリ)の支援を得て、レジデンスやワークインプログレス共有などを通して取り組んでいます。初演は2026年に予定されています。
フォーラム2
| 日時 | 2025年12月10日(水曜日)19時~21時30分 |
|---|---|
| 作品名 | スー・ピンウェン (蘇品文) (台湾) 『長男』 |
| サポーター | リヴァー・リン(林人中/インディペンデント・キュレーター)(台湾) |
東アジアで長男であることが何を意味するかは誰もが知っています。しかし、長男に「なる」ことの意味については? スー・ピンウェンの『長男』は、スーが自身の家庭的、共同体的環境の中でshe/herからhe/they/themへのアウティングに対峙する現在進行形の個人的プロジェクトです。地方の文化センターに所属するダンスカンパニーの芸術監督として、かつインディペンデントのフェミニズム・アーティストとして、スーはカンパニーでのコミュニティベースのイニシアチブと挑発的なソロ作品の間を、また振付、政治哲学、触覚アクティビズムの間を、流動的に行き来しています。では、この戦略はダンスをどこに向かわせ、どのようにその諸境界を動揺させ、踊る身体が何であり得るかを再想像させるのでしょうか。
フォーラム3
| 日時 | 2025年12月11日(木曜日)19時~21時30分 |
|---|---|
| 作品名 | タナポン・ウィルンハグン (タイ)/バックルーム 『同志たち、奇跡、呪い』 |
| サポーター | ササピン・シリワーニット(プロデューサー/バンコク国際舞台芸術ミーティング 芸術監督)(タイ) |
レーニンは、時には革命をその動員と達成の規模において奇跡であると言い、時には革命は超越的な出来事ではなく歴史的必然であるという意味で奇跡ではないと言いました。度重なるクーデターとプロテストで特徴づけられるタイの近年の政治的風景は、タナポン・ウィルンハグンをレーニンに向かわせ、彼はこれらの言葉を旋回軸として問うに至ります—では、「同志たち」の集合的身体が奇跡を実演することは可能だろうか、それは革命になり得るのだろうか?
新作『同志たち、奇跡、呪い』は、バンコクのフェスティバルGHOST:2568で2025年11月8日に初演されました。YPAMディレクションでは、その達成と、それがさらなる探究に向けて開くであろう可能性について議論します。
フォーラム4
| 日時 | 2025年12月11日(木曜日)19時~21時30分 |
|---|---|
| 作品名 | 敷地理 (日本) 『ユアファントムアイ、アワクリスタライズペイン』 |
| サポーター | ステファ・ホーファールト(ベルギー) |
日本のプレゼンターが敷地理の取り組みを言語化することに苦労しているとすれば、それは敷地がパンデミック中にブリュッセルに移住したからというだけでなく、敷地の「作品」概念が既存のそれと合致しないからかもしれません。P.A.R.T.S.での研究中に始動した『ユアファントムアイ、アワクリスタライズペイン』は、パフォーマンスであると同時に、自分の身体のオーナーシップに対する懐疑、まなざしの暴力、幻肢痛といった、敷地が長い間探求してきた観念のプラットフォームとしても機能しています。これらの観念への敷地のアプローチは、ハイパー消費者社会における疎外の批判という形はとらず、むしろ体制内における解放の追求と区別しがたいものです。敷地がこれまでに積み上げたものを荷ほどきして共有してもらい、コンテンポラリー・パフォーミングアーツがこのような探求の容れ物となり得るのかどうかを議論する機会として、このセッションを開催します。
- 会場:急な坂スタジオ
- チケット:YPAM参加登録者のみ ※無料・要予約(席数上限あり)
- お取り扱い:YPAMチケットサイト | YPAM
- *このプログラムは本公演ではなく、簡易プレゼンテーションとディスカッションから成ります。
- *プレゼンテーションとディスカッションは英語で実施します。通訳はありません。
- *後日Swapcardにて録画を配信します(3日後~12月31日を予定)。
- 主催:国際交流基金、横浜国際舞台芸術ミーティング実行委員会
プロフィール
アユ・プルマタ・サリ Ayu Permata Sari(インドネシア)

アユ・プルマタ・サリは、インドネシア、北ランプン出身の振付家、ダンサー。2010~2014年にISIジョグジャカルタで舞踊創作の学位、2014~2016年に同校で修士号を取得。アユ・プルマタ・ダンスプロジェクトを主宰。2020年よりランプン・プパドゥン族における女性と男性の地位の解読と再解釈に取り組んでいる。
ハシマ・ハリス Hasyimah Harith(シンガポール)

ハシマ・ハリスは、マレーの民俗舞踊を踊り、振り付け、教えているマレー系ムスリム女性のアーティスト。マレーの伝統やエロティシズムに関する取り組みを通して、自分の身体のエージェンシーを取り返そうとしている。その方法論は空想や親密な関係性を用いてリビドーを強化するという戦略を伴う。作品を通して、女性のエロティシズムにしばしば付随させられる恥辱や悲嘆に立ち向かい、それを乗り越えることを目指している。
ダニエル・コック Daniel Kok(シンガポール)
Dance Nucleus 芸術監督

ダニエル・コックは、観客性と聴衆性の政治学を探求している。作品はオーストラリア、アジア、ヨーロッパ、北米、とりわけAsiaTOPA(メルボルン)、ヴェネチア・ビエンナーレ、シンガポール国際芸術祭、TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜などで発表されている。Dance Nucleus(シンガポール)の芸術監督としては、他のアーティストのキャパシティを高め、トランスローカルなパートナーシップをアジア太平洋で確立しようとしている。
スー・ピンウェン(蘇品文)Pin-Wen Su(台湾)

ピンウェン・スー(he/they)はフェミニズム・アーティスト。スーの作品は、ジェンダー、フェミニズム、裸体の概念を中心に据え、異性愛規範的な価値観に挑戦している。2013年以来触覚文化のリサーチと実践を続け、ダンスを形式を超えた社会的・政治的領域へと拡張している。近年は、ジャンルを横断してフェミニズムの視点から身体の政治学を探究している。 作品はダンス・アンブレラ(ロンドン)、キャンピング(リヨン)、チューリヒ・テアター・シュペクタケル、プッシュ国際舞台芸術祭(バンクーバー)、サマーワークス(トロント)、ライブワークス(シドニー)、メルボルン・フリンジ、マドリード振付コンクール、台湾国家戯劇院「秋の舞踊」(台北)、衛武営台湾ダンス・プラットフォーム(高雄)、キャンピング・アジア(台北)、台北芸術祭、台北ニュイ・ブランシュ、We Islandダンスフェスティバル(新北市)、インタータイダル・ダンスフェスティバル(嘉義)などで発表されている。 嘉義舞台芸術センターの座付カンパニーである看嘸舞踏劇場の芸術監督。国立台北芸術大学で振付の修士号、南華大学で哲学の学位を取得。
リヴァー・リン(林人中)River Lin(台湾)
インディペンデント・キュレーター

リヴァー・リンはパリと台北を拠点にライブアート、パフォーマンス、ダンス、クィアカルチャーを横断しながら活動するアーティスト、キュレーター。2023年から2025年まで台北舞台芸術センターで台北芸術祭のキュレーターを務め、ADAM(Asia Discovers Asia Meeting for Comtemporary Performance)、キャンピング・アジア、Curatoké:パフォーマンス・キュレーターズ・アカデミーを立ち上げて運営。アーティストとしては、ポンピドゥーセンター、パレ・ド・トーキョー、国立ダンスセンター(フランス)、M+(香港)、台北市立美術館、Liveworks(シドニー)などで作品を発表。また、インドネシアダンスフェスティバルの共同キュレーター(2022年~)、リヨンダンスビエンナーレのゲストキュレーター(2025年)、ドイツSomething Great Arts Centreのアーティスティック・コラボレーター、ザルツブルク大学とベルリン自由大学、ボーフムSzenische Forschungによる「舞台芸術のキュレーション」講座のキュレートリアル委員を務める。
タナポン・ウィルンハグン Thanapol Virulhakul/バックルーム(タイ)

タナポン・ウィルンハグンはバンコクを拠点とする振付家で、身体がいかに社会的・政治的な力を感受し、抵抗し、そして露わにするかを探究している。タマサート大学で映画と写真を学んだ背景を持ち、構造への問いかけ、知覚の揺さぶり、集合的な想像力の醸成のための実践と戦略としての振付に取り組んでいる。パフォーマンスはしばしば既存の枠組みに挑戦し、緊張、関係性、知覚の転換を共有する場を創出する。
作品はテアターフォルメン、TPAM、SIFA、オッフェネ・ヴェルト・フェスティバル、GHOST:2561、BIPAMなど国際的なフェスティバルで上演されている。また、シテ・アンテルナショナル・デザール(パリ)でレジデンスを行い、テアタートレッフェン国際フォーラム(ベルリン)のフェローも務めた。
初期には韓国・ASEANフェローシップやジョン・F・ケネディ・センターのダンスプログラムに選ばれている。代表作に『TRANSACTION』『Hipster The King』『幼女X』『Happy Hunting Ground』『退避』『INTERMISSION』など。2024年には、身体を通じたリサーチとオルタナティブな振付探究のための拠点「Backroom – Ritual Studio」をバンコクに設立した。
ササピン・シリワーニット Sasapin Siriwanij(タイ)
プロデューサー/バンコク国際舞台芸術ミーティング 芸術監督

ササピン・シリワーニットはバンコクを拠点とする舞台芸術プロデューサー、キュレーター、アーティスト。チュラロンコン大学で英文学の学位と修士号を取得。10年以上にわたりB-Floor Theatreでパフォーマー、ディレクター、プロデューサーとしてキャリアを積む。活動は社会批評、個人間のエンパワーメント、社会改革に深く根差している。2018年よりバンコク国際舞台芸術ミーティング(BIPAM)芸術監督。また、タイ舞台芸術プロデューサーネットワーク(POTPAN)を共同設立し、ローカルなアートシーンの活性化に取り組む。これらのリーダーシップの他に、インディペンデントのパフォーミング・アーティストとして、また国際ツアーのプロデューサーとしても活動。
敷地理 Osamu Shikichi(日本)

1994年生まれ。ブリュッセルを拠点に活動。2024年P.A.R.T.S.(Performing Arts Research and Training Studios)修了(ダンス)。2020年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。身体における自己同一性や自己所有の概念を探求するパフォーマンスやインスタレーションを制作している。ASMRの視覚化など、WET(Weird Erotic Tensions:奇妙な性的緊張)な動きを参照することの多い作品は、私たちの身体について抱く思い込みが、観客の視線によってどのようにコード化されているのか、そしてその眼差しの政治性と暴力性について考察している。横浜ダンスコレクション2020若手振付家のための在日フランス大使館賞受賞。Forbes JAPAN 2023 Under30。2023年ポーラ美術財団研究員。2024年ACYアーティスト・フェロー。
ステファ・ホーファールト Stefa Govaart(ベルギー)

芸術、批評理論、詩の領域を横断して活動。ブライアナ・フリッツ、リディア・マクグリンチー、マルコ・グティッチ・ミジマコフ、敷地理と定期的に協働している。マリヤ・チェティニッチ、パーシス・ベッケリン、テッセル・ヴェネブーアと共にアムステルダム大学文化分析研究所で「セックス・ネガティヴィティ・リサーチ・グループ」を設立。オスカー・ムリーリョ、エステル・サラモン、クラウディア・パジェス・ラバルなどの作品に出演。最近ではシモン・アセンシオ、PRICE、トビアス・コッホの作品について執筆。P.A.R.T.S.(ブリュッセル)でダンスを研究し、文化分析(アムステルダム大学)とパフォーマンス・スタディーズ(ニューヨーク大学)の修士号を取得。現在P.A.R.T.S.でライティングとパフォーマンス理論を教えている。
[お問い合わせ]
国際交流基金(JF)
文化事業部舞台芸術チーム
電話:03-5369-6063
E-mail:pa@jpf.go.jp
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