中国(本土)(2023年10月現在)

目次(ページ内の該当箇所にリンクします)

1.日本研究の概況

(1)沿革

中国では古くから日本について記述した書籍が伝わるが、日本での直接の見聞に基づいた書籍が目立って増加するのは、官吏や知識人の日本留学が増える清朝末期以降である。それに続く中華民国期に日本研究の質と量は飛躍を遂げるが、ここでは1949年の中華人民共和国成立以降について述べる。

中華人民共和国の成立後、中国の日本研究はソ連をモデルとし、マルクス主義理論及び方法論に基づいた学問体系の下で新たなスタートを切った。とはいえ、建国直後の限られた条件下にあったため、中国政府の日本重視の姿勢にも関わらず、日本研究が体系的に深く展開されるには至らず、わずかに対日工作の必要を満たすもの(日本語など)に限定されていた。この頃の対日工作従事者は、中華人民共和国成立前に日本留学経験のある人材などが中心であった。

1963年末、中国共産党中央と国務院が「外国問題研究の強化」の指示を出したことにより、全国各地の研究機関や大学等で対日研究工作の強化が図られ、相次いで多数の外国研究機関(18機関*1)が設立された。このうち、東北地域の遼寧省日本研究所(別称、遼寧省哲学社会科学研究所二所。遼寧大学日本研究所の前身)、吉林大学日本問題研究室(吉林大学東北アジア研究院の前身の一つ)、東北師範大学日本研究所(いずれも1964年設立)、北京の中国科学院哲学社会科学部東南アジア研究所日本組(中国社会科学院日本研究所の前身、1965年)、華北地域の南開大学歴史研究所日本研究室(南開大学日本研究院の前身、1964年)、などの日本研究機関は、現在に至るまで日本研究の中核的な存在である。

1966年、文化大革命の勃発により国全体が混乱に陥り、研究は完全に停滞した。大学入試も行われず、多くの青年が教育の機会を奪われ、10年間にわたり研究者の育成が中断した。

1972年、日中間の国交が正常化し、1978年には大学入試が再開され、「改革開放」政策が始まった。1979年、大平正芳首相(当時)が訪中し、同年に日本政府の対中ODAが開始(~2021年度)。こうした流れを受け、1979年の大平首相(当時)と華国鋒主席(当時)との合意に基づき、1980年、「日本語研修センター」(通称「大平学校」)」が設立された(~1985年)。同センターは中国教育部と国際交流基金の共同事業として設立され、文革中に採用された現職日本語教師約600名の再研修がここで一斉に行われた。ここで研修を受けた日本語教師らは、中国における日本語教育の中心となってその後の日本語人材の育成に極めて大きな役割を果たしたのみならず、日本研究の発展の基礎となる人材育成とすそ野の拡大に多大な貢献を果たした。

1985年、「在中国日本学研究センター」設立(後に「北京日本学研究センター」に改称)。上述の「日本語研修センター」を発展継承する形で、文革後初めての日本研究専門家育成のための大学院修士課程として設置された。一般の中国人の出国機会が極めて希少であった当時、訪日研修の機会や日本からの派遣教授による直接講義、日本の書籍などが提供され、中国各地でその後の日本語教育や日本研究を担う中心的な人材を多数輩出した。

1990年、「四つの近代化」をはじめとする中国の政策を支援すべく、中国教育部及び国際交流基金の共同事業として北京大学現代日本研究コース(のちの「北京大学現代日本研究センター」)がスタート。在職の社会人幹部を最初の対象として、日本社会に関する研修を行った(現在は、日本研究以外を専門とする北京大学博士課程の学生のみを対象とした学際的なプログラムになっている)。

同年、中華日本学会設立。中国の主要各学会の中心となる中国最大の日本学会であり、事務局は中国社会科学院日本研究所に置かれている。

このように、中国における日本研究は、全体として中国国内の政治状況や日中関係、時には日本経済やODAをめぐる日本国内の状況の影響等も大きく受けながら発展してきた。

2018年の調査*2によると、中国(本土)の日本研究機関及び学会は118機関(団体)、研究者は1,609人と、大規模に日本研究が実施されている。

(2)略史

1949年
中華人民共和国成立
1963年
中国共産党中央、国務院「外国問題研究の強化」指示
1964年
遼寧省日本研究所、吉林大学日本問題研究室、東北師範大学日本研究所、南開大学歴史研究所日本研究室、河北大学日本研究所、復旦大学世界経済研究所設立
1965年
中国科学院哲学社会科学部東南アジア研究所日本組(中国社会科学院日本研究所の前身)設立
1966年
文化大革命(~1976年)
1972年
日中国交正常化
1978年
大学入試再開。日中平和友好条約締結。「改革開放」政策開始
1980年
「日本語研修センター」(通称「大平学校」)設立(~1985年)
1985年
「北京日本学研究センター」設立
1990年
中華日本学会、復旦大学日本研究センター設立
「北京大学現代日本研究コース」開始
1997年
「孫平化日本学学術奨励基金」設立

(3)特徴

2018年の調査*2によると、中国(本土)の日本研究機関及び学会は118機関(団体)、研究者は1,609人である。

中華人民共和国成立以来、日本研究に限らず、学問の研究テーマや研究予算は、新国家建設過程の諸問題解決のヒントを先進諸外国の例に求めようというニーズに基づくものが多いため、中国国内の情勢や国際関係の影響を受けやすい傾向があり、日本研究でも特に社会科学の分野でこの傾向がやや顕著である。

しかし近年の研究分野の状況を見ると、多少の偏りはあるものの(文学が多い)、広くさまざまな分野を網羅しており、高いレベルの研究成果も多い。

研究者については、もともと日本語を専門としていた研究者が多く、諸外国の日本研究者に比べて高い日本語能力を持つ強みがある一方で、専門知識の不足が長らく指摘されてきた。しかし、若手においては日本語ばかりか英語の能力も高く、日本留学経験を持つ優秀な研究者が増えている他、日本研究機関以外の組織や学部に在籍し、各ディシプリンの研究に従事しながら日本を研究対象とする研究者も増えている。また、日本語教師が日本研究を行うケースは多く、日本研究者全体の性別、年齢構成は、ベテランから若手まで総じてバランスが良いといえる。

中国の研究者は、採用や昇進にあたってコアジャーナルへの論文掲載数が条件になるなどの強いプレッシャーのもとにあるが、日本研究の論文を発表できるコアジャーナルが少ない、日本の学術誌への掲載が評価されないなどの問題にさらされている。また、著書の出版においても、正式な出版に必要な政府部門の許可を得ることが容易でないなどの困難が存在している。

  1. *1 初晓波《中国的日本研究:历史、现状与展望—初晓波教授访谈》,《国际治研政究》2020年 第2期
  2. *2 南開大学日本研究院実施。下記関連リンク7.参照(https://www.jpf.go.jp/j/project/intel/study/survey/asia_oceania/china_2018_gaiyou.html

2.最新動向

中国においては、自らの国家建設のニーズとも関連して日本の近代化に関する関心が高く、日本研究界のみならず一般社会においても、明治維新や日本の近代史が注目を集めている。2018年に明治維新150周年を迎えたこともあり、近年、明治維新やその前後の歴史に関する一般向けの書籍も多数発行された。

エズラ・ヴォーゲル著『日中関係』(日本経済新聞出版社、2019年)は、中国本土では出版されていないものの、日本関係者を中心として注目を浴びた。(香港で中国語(繁体字)版『中国和日本』香港中文大学出版社、2019年)が発行されている)。

2020年1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、中国とその他の国・地域、また中国国内の人的往来が厳格に制限されたため、学術においても多方面で大きな影響が生じた。国際会議や講演会、交流事業の一部などはオンラインでの開催によってある程度代替される場合もあったが、訪日による資料収集など、解決の難しい問題もあった。このほか、物流の遅滞等の理由により、出版にも影響が出た。

3.機関情報(高等教育機関、研究機関など)

上述のように、日本研究を行う高等教育機関や研究機関は枚挙にいとまがない。特に代表的なものだけを挙げる。

遼寧大学日本研究所
機関名 (原語)辽宁大学日本研究所
(日本語)遼寧大学日本研究所
機関概要 前身(遼寧省日本研究所)は1964年設立、中国で最も古い総合的日本問題研究機関の一つとして、日本経済、文学、文化、歴史等の研究室と図書館(約4万冊)を設け、研究と人材育成(修士)を行っている。『日本研究』(季刊)を発行。
ウェブサイト http://rbyjs.lnu.edu.cn/
連絡先 住所:瀋陽市皇姑区崇山中路66号
研究・活動内容 主な研究分野は経済、文学、文化、歴史
吉林大学東北アジア研究院
機関名 (原語)吉林大学东北亚研究院
(日本語)吉林大学東北アジア研究院
機関概要 前身(吉林大学日本問題研究室)は1964年設立。1994年、日本研究所、朝鮮韓国研究所、ロシア研究所等6つの研究所の合併により東北アジア研究院設立。全国日本経済学会と共に『現代日本経済』(隔月刊、コアジャーナル)を発行。
ウェブサイト http://nasa.jlu.edu.cn/
連絡先 住所:吉林省長春市前進大街2699号東栄大厦130012
研究・活動内容 主な研究分野は日本経済、日本政治、日本史・文化、中日関係
東北師範大学日本研究所
機関名 (原語)东北师范大学日本研究所
(日本語)東北師範大学日本研究所
機関概要 1964年設立。中国で最も古い総合的日本問題研究機関の一つとして、世界経済、国際政治、世界史、日本語・文学の研究と人材育成を行っている(修士、博士)。2007年以来、『東北師範大学日本研究叢書』を刊行。
ウェブサイト http://rbyjs.nenu.edu.cn/
連絡先 住所:吉林省長春市人民大街5268号 130024
研究・活動内容 主な研究分野は世界経済、国際政治、世界史、日本語・文学
南開大学日本研究院
機関名 (原語)南开大学日本研究院
(日本語)南開大学日本研究院
機関概要 前身の歴史学科日本史研究室は1964年設立、現在は大学に直属の研究院である。歴史を中心として、経済、政治の研究と人材育成を行っている(修士、博士)。『南開日本研究』を年2回発行。資料室の蔵書は4万冊以上。
ウェブサイト http://www.riyan.nankai.edu.cn/
連絡先 住所:天津市南開区衛津路94号 300071
電話:86-22-23505186
Eメール:jyz@nankai.edu.cn
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 主な研究分野は歴史文化、経済、政治
復旦大学日本研究センター
機関名 (原語)复旦大学日本研究中心
(日本語)復旦大学日本研究センター
機関概要 1990年設立。現在は国際問題研究院に属する。日中関係、日本経済を中心に研究と人材育成(修士、博士)を行い、図書館の蔵書(日、中)は約9万冊。中国南方における日本研究の拠点である。
ウェブサイト http://www.jsc.fudan.edu.cn/
連絡先 住所:上海市邯郸路220号日本研究中心 200433
電話:86-21-65642577
研究・活動内容 主な研究分野は日中関係、日本社会、日本文化
中国社会科学院日本研究所
機関名 (原語)中国社会科学院日本研究所
(日本語)中国社会科学院日本研究所
機関概要 1981年設立。中国において最も権威のある研究機関、シンクタンクであり、中華日本学会、全国日本経済学会の事務局を置くなど日本研究の中核的な存在である。日本政治、経済、外交、社会、文化、歴史、総合戦略の6つの研究室を有して現代日本研究を行うほか、社会科学院研究生院に在籍する修士、博士課程の学生の日本研究を担っている。『日本学刊』(季刊、コアジャーナル)のほか、各種白書等も発行している。
ウェブサイト http://ijs.cass.cn/
連絡先 住所:北京市東城区張自忠路3号東院 100007
電話:86-10-64014021
Eメール:ijs@cass.org.cn
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 主な研究分野は日本政治、外交、経済、社会、文化
北京日本学研究センター
機関名 (原語)北京日本学研究中心
(日本語)北京日本学研究センター
機関概要 1985年設立。日中両国政府の合意に基づき設立され、現在は北京外国語大学直属の研究センターである。言語、日本語教育、文学、文化、社会、経済の6コースを設け、研究、人材育成(修士、博士課程)、図書館運営を行っている。図書館は日本関係としては中国国内最大級で、蔵書14万冊以上。『日本学研究』(コアジャーナル)を年2回発行。
ウェブサイト https://bjryzx.bfsu.edu.cn/
連絡先 住所:北京市海淀区西三環北路2号北京外国語大学内 100089
電話:86-10-88816584
Eメール:ry6584@163.com
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 主な研究分野は言語、日本語教育、文学、文化、社会、経済
浙江工商大学東亜研究院
機関名 (原語)浙江工商大学东亚研究院
(日本語)浙江工商大学東亜研究院
機関概要 前身(杭州大学日本文化研究センター)は1989年設立。文化交流と比較文化の研究を中心に、特色のある研究を日本や韓国とも盛んに交流しながら行っている。修士課程と博士課程を有する。
ウェブサイト  
連絡先 住所:浙江省杭州下沙高教園区学正街18号 310018
電話:86-571-28008393
Eメール:dyyjy@mail.zjgsu.edu.cn
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 主な研究分野は文化交流史、比較文化

4.機関情報(学会など)

中華日本学会
機関名 (原語)中华全国日本学会
(日本語)中華全国日本学会
機関概要 1990年設立。団体会員77、個人会員1500名。毎年年会を開催。中国本土における主要6学会(中華日本学会、全国日本経済学会、中国中日関係史学会、中国日本史学会、日本哲学研究会、日本文学研究会)の中心的存在である。
ウェブサイト http://ijs.cssn.cn/xstt/zhrbxh/xhxxjs/
連絡先 住所:100007北京張自忠路3号東院 100007
電話:86-10-64039045
Eメール:zhrbxh@cass.org.cn
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 主な研究分野は日本軍国主義史研究、21世紀初頭の日本の国家発展戦略研究、日本経済発展モデル再検討
全国日本経済学会
機関名 (原語)全国日本经济学会
(日本語)全国日本経済学会
機関概要 1978年設立。会員数1000余名。中国で最も古い日本研究の学会であり、隔月刊『現代日本経済』、年刊『日本経済青書』を発行。
ウェブサイト http://ijs.cssn.cn/xstt/qgrbjjxh/xhxxjs_25075/
連絡先 住所:北京張自忠路3号中国社科院日本研究所内 100007
電話:86-10-64014021
研究・活動内容 主な研究分野は日本経済
中国中日関係史学会
機関名 (原語)中国中日关系史学会
(日本語)中国中日関係史学会
機関概要 1984年設立。機関誌『中日関係史研究』(季刊)を発行。
ウェブサイト http://iwh.cssn.cn/xhzx/xh_zx_zgzrgxsyjh/
連絡先 住所:北京市朝陽区北四環中路33号 北京市社会科学院科研楼10層 100101
電話:86-10-64843697
研究・活動内容 主な研究分野は日中関係
中国日本史学会
機関名 (原語)中国日本史学会
(日本語)中国日本史学会
機関概要 1980年設立。会員約300名。古代史、近代史、現代史など9つの専門委員会及び海外連絡部、図書出版情報交流部を有する。
ウェブサイト http://iwh.cssn.cn/xhzx/xh_zx_zgrbsxh/
連絡先 住所:天津市南开区迎水道7号 天津社会科学院日本研究所 300191
電話:86-22-3364427
研究・活動内容 主な研究分野は日本史
中華日本哲学会
機関名 (原語)中华日本哲学会
(日本語)中華日本哲学会
機関概要 1981年設立。『中華日本哲学会通訊』(半年刊)、『日本哲学与思想研究』(不定期)を発行。
ウェブサイト http://www.cssjp.org/
連絡先 住所:吉林省延吉市公園路977号 延边大学人文社会科学学院 133002
電話:86-15944355001
Eメール:cssjp@ybu.edu.cn(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)
研究・活動内容 主な研究分野は哲学、思想、文化
中国日本文学研究会
機関名 (原語)中国日本文学研究会
(日本語)中国日本文学研究会
機関概要 1979年設立。中国外国文学学会の下部学会。2年に一度全国大会を開催、論文集を発行。
ウェブサイト -
連絡先 住所:中国社会科学院外国文学研究所 100732
研究・活動内容 主な研究分野は日本文学
中国日語教学研究会
機関名 (原語)中国日语教学研究会
(日本語)中国日語教学研究会
機関概要 1982年設立。日本語教育関係者による研究会であるが、活動には文学や文化など、日本研究に渡る。全国的な研究会として多数の会員を擁し、影響力を有する。機関誌『日語学習与研究(日本語学習と研究)』を発行。
ウェブサイト -
連絡先 -
研究・活動内容 主な研究分野は日本語教育

(その他)

東アジア日本研究者協議会
機関名 東アジア日本研究者協議会
機関概要 東アジアの日本研究者の交流の増進や分野を越えた学際的研究の基盤作りを目的とし、東アジアの発起人5名が中心となって2015年9月に発足。
2016年、インチョンで第1回学術会議がスタートした後、天津(主催:南開大学)、京都、台北、ソウル、北京(主催:北京外国語大学)での開催に続いて、2023年には第7回会議が東京(主催:東京外国語大学)で開催された。
ウェブサイト -
研究・活動内容 東アジア域内における日本研究者の交流促進、学際的研究基盤の整備、次世代研究者の育成など

5.主要学術誌、学会誌

6.助成団体に関する情報(※日本研究を支援する主な助成団体)

国際交流基金
団体名 (原語)北京日本文化中心(日本国际交流基金会)
(日本語)国際交流基金北京日本文化センター
助成プログラム 小規模助成プログラム
ウェブサイト https://www.jpfbj.cn/jp/
https://www.jpfbj.cn/
連絡先 住所:北京市朝阳区建国门外大街甲6号SK大厦3层100022
電話:010-8567-9511
Eメール:jpfbj@jpfbj
(メールを送る際は、全角@マークを半角に変更してください。)

7.関連リンク

What We Do事業内容を知る